作品タイトル不明
なにー? あたしにドキドキしてんの?
到着したはいいけど、こりゃまた高そうなバーだなぁ。
てっきり居酒屋かと思ったんだが、なかなかにオシャレ。俺みたいなのが入って大丈夫か?
そう思いつつ、恐る恐る入店してみる。すぐさま現れたダンディーな店員さんに待ち合わせであることを伝えると、遠くから手を振っているギャルが見えた。
「おそーい! 早くほら、座って座って」
「いや、時間どおりだし。もう酔ってんじゃねえの? ってか、他の人は?」
「え、あたしだけ。だって仕事でストレス溜まってんだもん。飲まなきゃやってらんない」
なんだ今回も二人か。それにしても玲奈のやつ、めちゃくちゃ飲んでるな。ワインボトルが空になってる。
「仕事、そんなに大変なのか?」
「めっちゃ大変。あたしって仕事できすぎちゃうからさ」
「なんだよ自慢かよ」
「虎の十倍はできちゃうかも」
「そんなにはできないだろ。せめて二倍……いや、俺だって全然できるわ!」
「あはは! 冗談冗談。ねえ、ダンジョン探索、今もやってんの?」
俺は最近配信が調子良くなってきてるというか、信じられないくらい視聴されてることを話してみた。
一体どうしてこんなに騒がれてるのか、よく分からないと言うと、玲奈は楽しげに笑う。
「そりゃー話題になるに決まってるじゃん。あんな配信してるの、あんたしかいないよ。マジで凄すぎっしょ」
「そんなに凄いかな」
「うん。ってか、虎ならいつかは何かで、成功するだろうなっては思ってたけど。アンタ、人と全然違うし」
高校や大学の友人に、そういうことを言われたことはあった。お前はきっとすげー才能があるよとか、何かに夢中になれば上手くいくとか。
でも、俺はそんなことないと思ってたし、今だって結局半端者だ。たまたま配信が伸びてはいるけど。
玲奈は酔いがかなり回っていて、テンションがとにかく高い。でもしばらくダンジョントークが続いていくうちに、だんだんと真面目な顔になってきた。
そして唐突に、俺は誘われた。
「ねえ虎。良かったらさ、しよっか」
「え? 何を?」
「決まってんじゃん。一緒に潜ろうよ、ダンフェス」
「ああ、ダンフェスかー。確かに俺、今一緒に潜れる人いないんだよな」
「じゃあ良いじゃん! あたしもこの前、3レベ上がったよ。ど?」
『その提案は却下を推奨します』
「え!? 何今の声!?」
そうだった。俺ってばまたゴーグルの電源切り忘れてたわ。すぐにリュックからゴーグルを取り出すと、電源をオフにしようとした。
「ねえ虎。そのゴーグルマジで大丈夫なの?」
「ん? いつも助かってるよ。なんで?」
「だってさぁー。やっぱサブスクなんて聞いたことないし。実は後でめっちゃお金請求されたりするんじゃない?」
「そんなことないだろ」
昔から騙されやすいってよく言われるけど、このゴーグルを売ったおばあちゃんはそんな人じゃなかった。俺だって、そこまで馬鹿じゃない……と思う。
「なんかあったら、あたしに言いなよ。それよりさ、どーなの? あたし、仲間もけっこう強いのいるし。今ならバリ強いチームと組めるよ」
「えー、どうっすかなぁ」
『景虎様とそちらの方では、レベルに差がありすぎます。フレンドリーファイアの危険があります』
玲奈が誘うたびに、なぜかAIミリアが否定してる。でも確かに、以前見たレベルだと俺と差があるんだよな。3レベル上がっただけじゃ、ちょっと……。
「もうー。余計なこと言うなし! はい虎、これ」
「ん? これって」
「うちのギルドの名刺。渡しておくから」
「あ、ああ。サンキュー! 考えてみるわ」
「言っとくけど、あたしも仲間も、FFなんてしないんだからね」
「俺も気をつけないと。あ、もう閉店だってよ」
気がつけばあっという間に閉店時間。俺と玲奈は店を出ると、駅に向かって歩き出した。はずだったんだけど……。
「酒が足りない! 虎、もう一軒いこうぜ!」
「マジかよ。さすがにやめとけよ。そろそろ終電だぞ」
「別に良いじゃーん」
そんなことより当たってんだよ。どことは言わんがデッカいのが!
「あ、なんか赤くなってる?」
「別に赤くなってねえよ」
「嘘。なにー? あたしにドキドキしてんの?」
「いや、別に」
「えーほんと? やっぱ顔赤いよ。ね、ドキドキしてんの?」
どうしたんだろ。今日の玲奈は普段と全然違うんだが。いや、普段からヤバいところはあるけど、今日はなんかいつもより距離が近いというか。
「じゃあもっと、ドキドキしちゃう?」
「え? それって——」
言いかけた時だった。すっと頬に柔らかい感触が。
「おお!?」
「あはは! 久しぶりだろー」
「おいおい。いきなりビックリすんだろ」
こういうこと、たまにする奴なんだよなー。唐突にほっぺにキスとか。そう思って苦笑していた時だった。
『急激な天候の変化を確認』
「ん?」
あれ? 天気の変化なんて知らせてくれるようになったのか。とか呑気に思っていたんだけど、次の瞬間。
「あああー!? 寒いいいい!」
「おお!? ど、どうした玲奈!」
いきなり玲奈の立っている所だけに猛吹雪が! なんだこの不自然すぎる天気の変化は。ってか今五月なんだけど!
「ちょ、ちょちょちょ! どうなってんのこれ?」
『局地的な吹雪です。お気をつけください』
「ん、んなわけあるかー!? あああー!」
「おーい! 大丈夫かー!?」
とりあえず玲奈だけに降りかかった吹雪は消えたけど、なにが起こったのか謎すぎて、もう一軒飲みに行くどころじゃなくなった。
そんなわけで、結局俺たちはいつもどおり解散することにした。
帰りの電車でも、玲奈からのチャットが来てる。どうやら本気でダンフェスのチームに誘ってくれてるらしい。
どうしようかなぁと悩んでいると、今度はなぜか葵ちゃんからもチャットが来た。
:景虎さん! 今度私たちのギルドのランカーさんが、景虎さんをチームに誘いたいみたいです。良かったら一度、お会いしてみませんか?
こっちでも誘われてる。ありがたい限りだなと思ったので、とにかく会ってみることにした。