作品タイトル不明
戻るわけねーだろ
「はあ!? 給料の一部未払いがあった!?」
探索から二日後、俺はとんでもないチャットが届いて伸び上がってしまう。会社として有り得ないだろこれ。
相手は袋小路道宗といって、以前働いていたライバー事務所の社長だ。
道宗:すまん。近々うちの本社に来てくれないか。それなりに色をつけて払うつもりだ。
え? 色をつけて払うって何? よく分からないが、とにかく給料をちゃんと貰えていないのは癪だった。
:お久しぶりっす。じゃあ今日行きます。
怠いと思いつつも、多分あの社長に会うのも最後だから我慢する。昨日とか体が疲れすぎてろくに動けなかったけど、今日は大丈夫。
とりあえずイライラしつつも、俺は愛用のリュックを背負い家を出た。
それからしばらく電車に揺られ、ようやくかつての職場にたどり着いた時には、もうお昼を回っていた。
ってか、なんかこのビル……雰囲気変わった? じめっとしてる気がするんだが。
まあ気のせい気のせい。でもビルに入っていくと、受付のお姉さんが死んだような顔で突っ立ってた。
「あの……俺、竜牙景虎って言います。チーム袋小路の、道宗社長に呼ばれてきたんですけど」
「………はい。社長は十一階の社長室にいらっしゃいます」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
ホラー映画の幽霊みたいな空気出てる。マジで怖かったので、そそくさとエレベーターで十一階に上がり、社長室をノックしてみた。
「入れ」
「失礼します」
「ん? お、おおー! なんだなんだ、景虎じゃないか。早かったな」
今まで見たこともないようなニヤニヤ顔で、道宗さんは俺の肩を叩いてくる。
「実はお前に大事な話があるんだよ。社内レストラン、覚えてるだろ。そこで飯でも食いながら話さないか」
「いや、別にそこまでは。ってか、未払いだった給料さえ貰えればいいんで」
「あ、あー。まあその件も含めて話そう。よし、行くか」
どうなってんだろ。給料の未払いの話以外に、大事な話ってなんなんだ。
そんな俺の視線を無視するかのように、道宗さんは強引に飯に誘ってくる。面倒だけど今日限りだと思い、社内レストランへと向かった。
都内の景色が一望できるっていう良い場所だけど、一緒にいる人が嫌な感じだから全然嬉しくない。
ガツガツとステーキを食いながら、道宗さんは唐突にこう言ってきた。
「なあ景虎。お前そろそろ生活苦しいだろ?」
「いえ、全然苦しくないっすよ」
「そうか? 無理しちゃいけねえよ。そういう奴に限って苦しいの我慢してるもんなんだよ。なあお前、戻ってくるか?」
「え? 戻ってくるって……」
ま、まさか。何を言い出すんだこの人は。クビにしてきた時なんて、俺のこと蹴り飛ばしてたじゃん。
「俺も大人気ないところあったけどよー。ちょっとばかし熱くなりすぎたんだよな。仕事に燃えてるからよ。うちの会社は今も上り調子だ。人が足りなくて足りなくて困ってるわけよ。なあ、どうだ?」
「俺は未払いの給料が貰えれば、それでいいです」
だんだんイライラしてきたので、どうしても口調が冷たくなっちまう。
「ああ、悪い。あれ嘘だわ。でもこれ渡せばいいだろ?」
「……は?」
ポイっと封筒に入ったお金を投げてくるおっさん。嘘ってどういうこと?
「ってかよぉ景虎。こんな端金なんか貰っても、お前の人生どうにもなんねえぞ。な? アイ達の手伝い、またやってくれよ。ダンフェスに参加すれば、お前だって稼げるんだぜ」
「俺は今のほうがいいです。探索も楽しんでるし」
「でもソロなんだろ? ソロなんかじゃー稼げやしねえって。な! 安っぽいゴーグル付けて、ガキみたいなAI音声なんか聞いて、それで売れるわけねえんだっての」
安っぽいゴーグル。ガキみたいなAI音声。その二つを聞いた時、俺はもうこの場にいるのも我慢ならなくなった。一気に吹っ切れた。
黙って封筒を突き返して、そのまま立ち上がる。
「お、おい! どこに行くんだよ。まだ俺の話は終わってねえぞ」
「もう聞いてられねえよ。馬鹿にすんなよ、おっさん」
「ああ!? てめえ人が下手に出ていれば——」
怒りを露わにして立ち上がった道宗を、俺は我慢できずに睨みつけた。
「……ヒィッ!?」
すると、奴は変な声を上げながら、なぜか後ろに倒れてしまう。よく分からないけど、もう顔を見る気にもなれなかった。
「ま、ま、待て! 後悔するぞ。俺達チーム袋小路はなぁ! ダンフェスに参戦するんだ。その時、お前なんか潰されちまうぞ。戻るなら今だぞ景虎! それとも何か、お前はこの俺……袋小路道宗を敵に回すつもりか。俺直々に参戦してやるぞ。この伝説の探索者が」
「うるせえな! 戻るわけねーだろ。勝手に参加してろよ」
「アヒィ!?」
こいつ、さっきから何変な声出してんだ? 俺はもうイラついてしょうがなかったので、そのままレストランを去っていった。
◇
時間の無駄どころじゃなかった。
マジでムカムカしながら、電車を降りた俺は一人黙々と帰っている。
「あれ? なんか光ってる?」
車の影に映った自分を見た時、リュックがキラキラしているのが目に止まった。中を開けてみると、ゴーグルが入っていた。そうだった、いつもの癖で持ってきちゃったよ。
『本日のログインボーナスです』
「お? な、なんだ?」
意外な感触というか、柔らかい何かが降りかかってきた。それはなんていうか、温泉みたいに暖かい光。みるみる疲れや苛立ちが消えていった。
「すげー気持ちいい。これって一体」
『回復魔法の一種です』
「ログボに回復魔法なんてある?」
『はい。他にも今日のログインボーナスはありますが、自宅に帰ってから渡したほうが良いでしょう』
なんかだんだんログボ増えてきてない? もう覚えきれないんだが。というか、今日のミリアの声はなんだかいつもより優しい気がする。
気分はだいぶ晴れたけど、少し歩いていくうちに、やっぱり今日のことが頭を過ぎってしまう。
道宗のやつ、本当にダンフェスに出るんだろうか。アイツらに負けるのは、どうも我慢できないな。
「ダンフェスで、あいつらと競うことになるかもしれない。負けたくねえな」
『大丈夫です。景虎様はすでに、彼らより遥かに強くなっています』
「え、そうか?」
『はい』
「だといいけど」
『ステータスに大きな差があります』
「あ、そういえばステータス見てなかったな。じゃあ家に帰ってから見る!」
メタルモンスターとやらを沢山倒したけど、一体どれだけレベルが上がったんだろ。
そわそわ気分で家に帰り、いつもの畳の上でゴーグルを付けてみた。
「……ん、んん……ん??」
俺はこの時、もしかして違う何かを見てるんじゃないかと戸惑ってしまった。