軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

道宗君! 一体どうなっているんだ

ある日、ギルド【リベリオン】は騒然となっていた。

ギルド内に設けられた交流スペースと呼ばれる場所には、大型テレビが数台設置されており、話題の配信が常時流されている。

それらの配信は多くの場合、誰も気にせずBGM代わりだったが、一人だけかつてない注目を集める者がいた。竜牙景虎の配信である。

「なんだあのダンジョンは!」

「おいおい、どう考えてもヤバいモンスターばかりだろ」

「なんであの探索者は、あっさり攻撃を当てられるんだ?」

「この短時間でも強くなっているのが分かる。一体何者だ」

「知らないのか? カゲチャンネルって言えばUtube急上昇ランキングでずっと一位だろ」

「ああ、あの配信主だったのか! しかし、まさかこれほどとは」

彼ら探索者はいつも、自分とダンジョンに潜ってくれる優秀な仲間を探している。

もちろん景虎のことも知っていたが、ほとんどは一過性ブームであり、すぐに話題にされなくなるとばかり思っていたのだ。

ところがである。一時期どころかずっと、探索界隈は彼の話題で持ちきりだ。今や日本のネット世界で、カゲチャンネルを知らない者はほとんどいない。

驚いたリベリオンの探索者達は、誰もがこぞって彼との接触を試みるようになる。

その大きな騒ぎの中に、以前より彼と交流のある葵もいた。

彼女はテレビ画面に映し出される配信を、子供のように夢中で見つめていた。そして時々、彼の配信画面でコメントを送っている。

(こんなにワクワクする配信、初めて観た!)

友人達と一緒だったが、彼女の視線は配信画面に奪われたままだ。そしてこうも思う。

(私、景虎さんと潜ってみたい。でも、私じゃ迷惑かな……)

葵はもし自身が景虎と探索したらどうなるのだろう、ということばかり考えるようになっていた。

でもその反面、足手纏いになってしまうのではという不安が過ぎる。

(私も……景虎さんのようになりたい……)

いつの間にか彼女は、景虎に憧れを抱くようになっていた。

そして以前よりも、ドキドキしながらチャットを送る回数が増えていたのである。

もうすぐ二十一時になる。

都内の高層ビルの九階で、彼女はPCと格闘していた。ほとんど人がいなくなってきた時間帯だが、まだ帰ることはできない。

「玲奈、お疲れ! めちゃ仕事頑張ってるねー」

「あ、課長ー! お疲れ様でーす」

「いやー、そんなタイミングで悪いんだけどさ。もし良かったらだけど、次の定例の資料作っておいてくれないかな? 明日中だと助かるんだが」

「はい。大丈夫ですよー」

「君は見かけによらず真面目だねえ。じゃあ俺は上がるから、後は頼んだ」

そう言い残し、上司は足早に帰っていった。

(ったく、大変だって思うならギリギリで仕事振ってくるなよな)

霧雨玲奈はため息を漏らし、椅子から立ち上がって体を思いきり伸ばした。社会人一年生としての彼女は優秀だ。

一ヶ月経ってからというもの、上司や他部署から仕事の依頼がどんどん増える。それだけ信頼されているということだが、正直疲れも感じていた。

(なんかストレス発散したいなー。虎と飲むか)

そう思いチャットを送ろうとした時、ふとSNSのニュースで騒ぎになっていることを思い出した。

(あいつ、今日もめっちゃ騒がれてるじゃん!)

ニュース欄を見ると、間違いなく景虎のことが載っている。ここ数日大変なバズり状態になっていることは知っていたが、まさか今も伸び続けているとは驚きであった。

(あの虎が、こんなに有名になるなんて。分かんないもんだね)

玲奈と景虎は大学時代の同級生であり、四年間に渡り友人として付き合いがあった。

初めは彼のことなど気にもかけていなかった。しかし、ある時昔のタチの悪い知り合いに絡まれていた時、助けてもらったことがある。

それが縁を持ったきっかけであり、彼女にとっては大きな変化だった。

あの頃のことは鮮明に覚えている。相手は地元でも有名な喧嘩自慢であり、その男に酷い目にあってきた被害者は数知れない。

できる限り関わりたくなかった男に偶然絡まれてしまった玲奈は、当時ほとんど面識がなかった景虎に声をかけられる。

案の定、景虎も強引に喧嘩をすることになってしまうのだが、数分後に地面を這っているのは喧嘩自慢の男だった。

そして警察が来た時、なぜか景虎に引っ張られて逃げることになったのだが、今となっては良い思い出だ。

(なんかどんどん名前が売れてくじゃん。ダンジョンかー……やっぱ一回は虎と潜ってみたい!)

その後、彼女はしばらく仕事を忘れて、景虎と通話をした。迷惑がりながらも、彼の反応は昔と変わらない。

それが社会に出て、本当は心細く感じている玲奈にとっては嬉しかった。

「くそ……くそ、くそ、くそ!」

ドン! と机を叩き怒りを発散しようとしているのは、チーム袋小路の社長道宗だ。

全てが上手くいかない。会社が明確に傾いてきている。アイもノエル有栖川も酷い醜態を晒してしまった。

そういえばノエル有栖川を猛烈にプッシュしていた女子社員は、いつの間にか退職していた。どうやら退職代行を使ったらしい。

しかし今はそれどころではない。会長からの電話があったからだ。

『道宗君! 一体どうなっているんだ。あの配信は一体なんだね。彼女達は我が社の看板だぞ。まるで恥晒しではないのかね!』

「か、会長。あれはたまたま、アイの調子が悪かったに過ぎません。普段の彼女達は、それはもう、」

『黙りたまえ! 普段の配信など知らんよ。君達は今回、拭ようがない恥を晒したのだ。会社の代表としてだ! 一体どう責任を取るつもりか。これは大幅な減収間違いなしだぞ!』

会長は怒り心頭であった。かつての社長であった彼にとって、今の会社の状況が芳しくないことは一目瞭然。不甲斐ない後継者を叱りつけるしか、打開策を見つけられない。

「申し訳ございません。しかし、我々にはまだダンフェスがあります。必ずやアイ達を、次こそ大成功に導きます。ダンフェスの各ランキングで一位を獲得した時の恩恵がいかほどか、会長もご存じでありましょう?」

『ダンフェスか……』

「はい。この道宗、誓って二度の失敗は致しません。アイの力はあんなものじゃありませんよ。上位ランカーともすぐに肩を並べるでしょう。後ほんの僅かです。ご辛抱を」

『分かった、君を信じよう。任せたよ』

受話器を置いた後、道宗は「クソジジイが!」と絶叫した。

すでに怒りで気が狂いそうである。

だが、こうしている間にも危機は膨らむ。会長にアイ達の可能性について熱く語っておきながら、実際のところ道宗は彼女達を信頼できずにいる。

「このままでは……何か手を。手を打たなければ」

会社が崩壊してしまう最悪のシナリオを、どうにか回避しなくてはいけない。

その時、ふとネットニュースで騒がれていた、あの男を思い出した。

「もはや致し方あるまい……」

この手だけは使いたくなかった。しかし溺れかけている彼にとって、どうしても欲しい存在がいる。

道宗は頭を抑えながら、まだ消していなかった景虎の連絡先へチャットを送信した。