作品タイトル不明
百万と五千円になります
あまりにも視聴者が爆増したダンジョン配信から三日後。
俺は一人、ボロマンションの一室でスマホを耳に当て、ぶつぶつと呟いていた。
「あ、えーと……管理会社さんっすよね。あのー、はい。レッドドラゴンハイツ307の竜牙なんですけど。そのー、家賃のことで……ご相談が」
ふっとスマホから手放し、もう一度深呼吸。気づいたら正座してた。
「よし。とにかく予行練習は大丈夫。本番といこう」
五月に入り、俺はとうとう家賃を支払うことができなくなっていた。なので、滞納しちゃうけどどうにかご慈悲を! という電話をかける直前に、ちょっと予行練習をしていたわけで。
とりあえず深呼吸、深呼吸。すーはーすーはーと息をした後、俺はとうとう決意を固めた。
「よし、行くぞ!」
『探索者レアリティの上昇が可能です』
「うわ!? な、なんだビックリした」
唐突にAIミリアの声が室内に響き渡り、俺はひっくり返りそうになった。
『それと、ログインボーナスが多数ギフトボックスに届いたままとなっています。ギフトの保持期限は一ヶ月以内となります』
「あーあれか! いや、受け取るよ。ってか今はそれどころじゃないんだ。生活のピンチなんだよ」
『生活のピンチとは?』
もう、嫌なところに踏み込んでくるんだからこのゴーグルは。俺は渋々だがことの経緯を説明することにした。
ってか、ダンジョン潜ってる場合じゃなかったわ。未だに就職も決まらんし。
『なるほど。つまり家賃を払うだけのお金がない、ということなのですか』
「そうなんだよ。今の時期に飲み会行ったりしてる俺が悪いんだけども」
『でしたら、ボックスにある素材を売れば十分に支払うことが可能です』
「いや、そんなー……え?」
『すでに景虎様のボックスには、価値ある素材や石が多数集まっております。それらを売却するだけで、しばらくは生活に困らないでしょう』
なんだって? ボックスの中に、そんな価値のある物入ってたの?
「マジ? どれを売ればいいんだろ」
『青い鉱石と鏡石を売却にいきましょう』
「この二つ?」
とりあえずボックスから出した石を手に、近所のダンジョン質屋へ。
ダンジョンが世界に出現するようになり、そこから取れるアイテムを買い取ってくれる店も増えてる。代表的なのがダンジョン質屋なんだ。
店に入ると小さな部屋の中にカウンターがポツリとある。ちなみに店員さんは顔が見えないようになっていて、受け渡しの箱に売り物を入れる仕組みなんだ。
要するにあれかな、強盗対策なのかな。なんて思いながら、とりあえず二つのアイテムを箱に入れてみる。
「お願いします」
「少々お待ちくださいませ」
若い男の声がして、売却希望の石二つが引かれていった。
どのくらいの値段になるかなぁ。俺はソワソワしながら鑑定が終わるのを待っていた。
なんかヒソヒソと、店員さん同士が相談する声が聞こえてくる。
「店長……こちらの石なんですけど、本物ですよ」
「うん、何かね?」
「本物のアレです……! 青の鉱石なんです」
「な!? き、君は一体何を言うとるのだ! そんなわけが……クァア!?」
「い、いいいいい」
え? どうした?
なんか怖いな。もしかして心霊現象か何かに襲われてんのかな。
ちょっと不安になってきたところで、鑑定が終わった呼び出し音が鳴る。
「こ、こちらのお値段になりますが。よろしいですか?」
「えーと」
箱の側にスーパーのレジのデジタル表示みたいなのがある。そこに金額が出てくる仕組みなんだけど……あれ?
なんか思っていたより、ゼロが多い気がするぞ。いや、確実に多い。
いやいやいや、多すぎないかこれ!?
「百万と五千円になります」
「え? 本当ですか。ってか、百万ってどっちの石なんでしょ」
「こちらの、青の鉱石です……」
「じゃあ、換金で!」
「ありがとうございます。ちなみにこれは、どちらのダンジョンで?」
「ああ、ここから電車でしばらくいったとこの、なんていったっけな。普通のダンジョンですけど」
「は、はあ……」
店員は力が抜けたような返事をしてた。ってか信じられん。たった二つの石を売っただけで、こんなにも儲かっちゃうもんなの?
俺はただ呆然としながら帰宅した。すると早速ゴーグルから声がしてくる。
『お帰りなさいませ』
「ただいま。ってかヤバい! もう家賃の心配なくなっちゃった。しばらく普通に生活できるんだが!」
『ダンジョンには、沢山の価値ある品が眠っています』
「マジで助かった。ありがとう! でもあれだ。店員さんビックリしてたよ。よく見つけましたねーみたいなこと言ってたっけ」
『サブスクの追加特典により、レア素材のゲット率が25%アップしています』
「え、マジで?」
『はい。ところで、雑談配信の予定をSNSに告知しておきました』
「お、おお。サンキュー」
視聴者の人から雑談配信してほしい、っていう声がけっこうあったので、今度やってみることにした。
でもとりあえず、俺ってトークには自信ないんだよなぁ。とか考えていると、ミリアから気になる提案が。
『景虎様。探索者レアリティの上昇はいかがなさいますか? 素材が揃っています』
「あ、そういえば上昇できるんだっけ」
『景虎様はすでにレベル40に到達しましたので、現在のレアリティではこれ以上強くなることができません。そのため、早めに探索者レアリティを上昇させる必要がございます』
「そっか。俺、もう限界値になってたのか」
それにしても、本当に探索者レアリティを上げられるんだろうか。素材だっていう物はこの前めちゃくちゃ集めたけど。
「よく分からないけど、とりあえずお願いできる?」
『承知しました。では、探索者レアリティ上昇を開始します』
「はいよー。……ん? う、うわああああー!」
次の瞬間、俺はなぜか宇宙の真っ只中に放り出されているような、不思議な体験をすることになった。