軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

景虎さんって……どんな人なのかな

景虎がダンジョン配信で盛大にバズった二日後のこと。

チーム袋小路のオフィスで、社長である道宗が苛立たしげにパソコンを睨んでいた。

「どうなってる? 一体どうなってるんだ。俺らの所属ライバーの売り上げ、先月より半分近くも落ちてるじゃねえかよ!」

会議室で怒鳴りながら、ノートパソコンを睨みつける社長を見て、社員たちはなかなか口を開けずにいる。

誰もが社長の機嫌を損ねることを恐れていた。ここ一ヶ月ほど、あっという間に多くの社員、ライバーをクビにしている。

意見しようとすれば、次は自分かもしれない、という恐怖が脳裏を過ってしまう。

「おい! どうなったんだって聞いてんだよ」

「は、はい!」

睨みつけられた中間管理職の男が、焦りながら手元の資料に目をやり、どうにか答える。

「世間はその、ゴールデンウィークに突入しておりますので。レジャーや帰省など、そういった都合でその、視聴数や投げ銭が落ちてですね」

「ボソボソ喋んな!」

「は、はい! すみません」

どう考えてもまずい、と道宗は焦らずにはいられない。何しろ、今の時期から売り上げを伸ばし続けていく予定で年間目標を立てている。

それが五月に入ってすぐに大幅ダウンしてしまうなど。会長にどう説明しろと言うのか。株主総会はどうする?

全てはここにいる役職どもが使えないからだ、と社長は周囲に睨みを利かせまくった。

誰もが押し黙るなか、一人の女が汗を浮かべながら立ち上がる。

「社長。私たちにはまだ、ダンジョンフェスティバルがあります」

ダンジョンフェスティバル。それはダンジョンが日本に登場して以来、ダンジョン連盟という国公認組織が定期的に開催するイベントのことである。

簡単に言えば、大型かつ非常に困難なダンジョンに、多くの探索者を一度に挑戦させるというものであった。

指定されたダンジョンにどれだけ深く潜ることができるか。配信でどれだけ大きなインパクトを残すことができたか。探索中にどういった活躍をしたかなど、ダンジョン連盟が配信映像をもとに審査を行う。

その審査内容によって順位が決まり、高い順位となった者は多くの報酬と名誉を手に入れることができる。探索配信者にとって重要なイベントであり、事務所にとっても大事な収入源だった。

「わかってる! それでもお前、あの儲けだけじゃ足りねえだろ」

「いいえ、可能です。他所から安く有望な人材を引き抜くんです」

何をアホなことを、と道宗は怒りを通り越して呆れている。

「お前、何年ここで働いてんだ? そんなことは普段からいろいろやってんだろ」

「はい。ですが、今なら引き抜ける大物がいるんです。その人とアイを組ませ、ダンジョンフェスに参加させれば……」

「今なら引き抜ける大物? 誰だよ」

「ノエル……ノエル有栖川です!」

女子社員は、自信満々に声を上げた。

都内某所。一人のイケメンがとある喫茶店で待ち合わせをしていた。

店内でも決してサングラスを外さず、絶えず周囲に目を光らせている。

(くそ。どうして俺がこんな目に)

彼の名前はノエル有栖川。本名ではないが、こちらの名前のほうが今では有名だ。

男は甘いルックスと探索でのトークに定評があり、以前は高い人気を誇っていた。

しかし、今では配信をする度に炎上騒ぎとなり、コメント欄には罵詈雑言が溢れ、誰ともチームを組ませてもらえないという負のループに陥っている。

きっかけはしばらく前、ライバーとして別次元の人気を誇る葵を、ダンジョン内で置き去りにして逃げたことが発端だった。

(あれはしょうがなかった。しょうがなかったんだよ。二人でオーガを倒せるわけないじゃないか。それなのに)

「あーいたいた、アンタだっけ? ノエル有栖川って」

考え事をしていた矢先、無神経な声が店内に響く。チーム袋小路のトップライバー、アイであった。慌てたノエルは立ち上がり、犬を招くように手を振る。

その手招きが、彼女の苛立ちをさらに募らせていた。

「大きな声で呼ばないでくれよ。オフは静かにしていたいんだ」

「へえー。まるで芸能人ね。注文は?」

「勝手にしてくれ」

店員がやってきてから去るまで、有栖川は下を向いたままだった。最近では周囲の目がとにかく気になってしょうがない。

「それで、単刀直入に聞くけど、あたしと組みたいの?」

「は? お前が組みたいって聞いたんだが」

大幅な収入減に喘ぐノエルに、声をかけてきたのはチーム袋小路である。しかし、アイはあくまで自分が誘われたと考える。

「お前? ってあたしのこと? うわー、超感じわる。ねえアンタ、彼女いないっしょ?」

「はあ!?」

「図星かよ。だっさ」

直後、ドン! とテーブルを叩いて男は立ち上がった。

「ふざけんなよ。彼女だって普通にいるし、お前とそこまで組みたいわけじゃねえんだよ。じゃあもういい! 帰る」

「ちょちょ、待ってよ。話はこれからっしょ」

本当に去ってしまう姿を見るなり、心の中で舌打ちしつつアイは引き留めた。

(クソが……こんなバカとも組まなきゃいけないって。何あの事務所。まあ、しゃーないか)

アイもまた、ここ最近では配信の調子を落としている。探索配信をサボりがちになり、ほとんど雑談しているのみであった。

それというのも、彼女の探索に付き合ってくれる仲間がほとんどいなくなってしまったことが理由である。

誰でも良いから、とにかく腕の立つやつが欲しい。それもダンジョンフェスティバルの前に。

二人はお互いを嫌っていたが、お互いの懐事情により組まざるを得なかった。見た目の華やかさとは裏腹に、少しずつ焦りを感じていたのである。

「景虎さん……」

彼女は部活を終えると、駅で友人達と別れた。乗客がほとんどいない電車に揺られながら、二日前の動画を視聴している。

少女が視聴しているのは、今もっとも話題のダンジョン配信だ。

モンスターは見たことがあるようで、よく見ると違っている敵ばかり。画面越しからも強さと怖さが伝わってきて、少女は小さく震える。

そして、どんなモンスター達も、あっという間に景虎は倒していく。

まるで子供の頃に観た、テレビ番組のヒーローのように爽やかで、圧倒的な勝利ばかりだった。

しばらく前に、彼女はダンジョンで彼に救われている。あの時はもう終わりだと感じた。

恐怖のなか、獰猛なモンスターに立ち向かう姿を、まるで昨日のように思い出せる。

(景虎さんって……どんな人なのかな)

でも、まだまだ彼女は彼のことを知らなかった。

そして知りたがっていた。だからこそ、自らが在籍するギルドを紹介するときも一生懸命に推薦したのだ。

(今度また会える。なんか楽しみ!)

少女の人並みはずれた宝石のような瞳が、いっそう輝いている。

彼女の名前は水鏡葵。ライバーとして急激に成長中であり、今どんなアイドルよりも注目を集める高校一年生だ。

そんな少女に会いたいと思われているなど、当の本人は知る由もなかった。