作品タイトル不明
ボスモンスターとの戦闘が始まります
「すげー綺麗な湖だなあ……」
ボスがいるはずの場所で、俺はなんだか感動してしまった。
普通に暮らしてて、こんなに綺麗な湖を目にする機会なんてあんまりないし。
しかし、ボスの姿なんてこれっぽっちも見えないな。
とりあえず祭壇がある場所まで来たが、ここよく見るとプロレスのリングみたいに四角形になってる。ボス戦用ステージって感じはする。
「あれ? なんか……いるな」
ちょっと雰囲気というか、殺気のようなものがこちらに向けられている気がした。
『ボスモンスターとの戦闘が始まります。ダイオウイカ【エヴォリュシオン】が前方より出現します。二本の触腕による攻撃に注意してください』
「お、おお!?」
じっと周囲を警戒していると、突如水面から巨大な白く長い何かが飛び込んできた。
横回転してかわすと、今度はもう一本同じものが飛んでくる。続いてバックステップでかわしたが、けっこうステージギリギリ!
攻撃が凌がれたことを察知したのか、モンスターは水面から盛り上がるようにその顔を現しにした。
あ……本当だ。マジでイカだわ。でもなんか知らないけど、頭に王冠っぽいの被ってる。もしかしてあれが、進化素材ってやつ?
でも、俺が知っているイカとは比べものにならないサイズ感だ。こいつ怪獣じゃねーの? って言いたい。
「デケえ! 何メートルあるんだよこいつ!」
『次の攻撃が来ます。二本の触腕にご注意を』
驚いている暇はなかった。睨みつけるダイオウイカの足——じゃなかった腕は迫力満点で、こちらを叩き潰す勢いでビターン! ビターンと叩きつけるようなラッシュをしてくる。
:ダイオウイカ?
:やばくないこれ?
:ソロでダイオウイカは厳しい……
:逃げたほうがいいよ
:たしか二本の触腕の他にも、近づくと八本の腕が襲ってくるはず
:あれ? なんか普通のダイオウイカと見た目違う?
:エヴォリュシオンとか名前についてるんだっけ?
:なんか頭にデッカい王冠乗せてる
:この配信、珍しいモンスターのバーゲンセールだな
:このラッシュかわしてるだけですげえ!
:無理ゲーだわこれ!
:逃げろ逃げろ逃げろ
:あぶなーい!
多分コメント欄は盛り上がっていたと思う。あんま見てる余裕がないっていうか、本当に避けるので精一杯なんですけど。
『この戦闘では、召喚カードの使い方に注意しましょう。召喚モンスター同士での連携も有効です』
でも、ダイオウイカはずっと攻めっぱなしということはなかった。どうやらしばらく攻撃すると少し休む、というパターンを繰り返してる。
なので俺はボスが休んでいる時に、懐からカードを取り出そう——としたんだけど、どいつから使うべき?
今回俺が用意してきたカードは、棍棒ゴブリン、ピクシー、ヒールバード、オーガ、コドモドラゴンだ。
そのうちピクシーはもう使ってるので、残すところ使用できるのは四枚。とにかくまずは召喚慣れしてるゴブリンからいこう。
「いけ! ゴブリン!」
カードを飛ばして召喚されたゴブリンが、勇ましくダイオウイカに飛び込み、自慢の棍棒でガンガン殴りまくった。
でも、ダイオウイカは「それが何か?」と言わんばかりの涼しい顔。その後、横なぎにゴブリンを薙ぎ払ってしまう。ちなみに俺もその一撃に巻き込まれてしまった。
「うわ!」
ステージ上をゴロゴロと転がりながらも、追撃はなんとかかわす。もしかしたら体力がヤバいかも!? と思ったので、今度はヒールバードを召喚。
どうにか体力を回復した後、ゴブリンとヒールバードが消えていくのを見送った俺は、隙をついてイカの長い腕をバトルアクスで切りつけた。
多少の傷はできるけど、これは厳しい。でかい腕にはあまりダメージが通った感じがしない。多分本体にやっても同じだろう。
『ダイオウイカには、火の魔法攻撃が有効です』
「火……ああ、あれか!」
そうとくれば魔法で! なんて思っていたんだけど、さっき切られたイカが憤怒の表情で百裂拳を繰り出してきた。
「あばばばば!?」
とりあえずガードできたけど、なんて凄まじいんだこの動き。全然魔法を使う余裕がない。
:うわぁ……
:なんだこのラッシュ!?
:普通のダイオウイカより鬼強いぞこれ
:これ喰らってて動ける主もヤバい
:AIちょっと冷静すぎん!?
:本気出してきた
:死ぬ、死ぬって!
:マジで逃げて
:逃げろおおおおおお
高速のラッシュを防ぎ切ると、触腕の動きが変わった。奴は今度は俺を捕まえようとしてくる。
どうやらバテているっぽいので、逆に今がチャンスかもしれない。俺は次のカードを切った。
「オーガ! こいつの腕を止めておいてくれ」
続いて召喚したのは、以前散々な目に遭わされた鬼。味方になるとわりと頼もしいというか、しっかり触腕一本を押さえてくれてる。
「ドラゴン!」
続いて召喚したのはただ一つのSRカード、コドモドラゴンだ。投げられたカードから登場したそれは、黄色の小さな可愛らしいドラゴンだった。
え、大丈夫かこの子で?
「ピィー!」
小鳥みたいな声を発したかと思ったら、急に体をそり返らせ、何かを溜めているような仕草をする。そして翼を羽ばたかせて空中に浮かび、口から猛烈な炎を吐き出した。
想像してたのと違う! めちゃくちゃエゲツつない火炎の息だ。
これにはダイオウイカも悶絶。すぐに水面に逃げようとするが、触腕一本を掴んだオーガが後ろに引っ張ることで、思うように逃げれずにいた。
『景虎様、ファイアボールを』
「オッケー!」
もうすぐオーガが消えてしまいそうなので、ここで決めないとまずい。俺は祭壇を踏み台にして大きくジャンプした。
「うおおぉお! いっけぇえええ!」
以前ミリアに間違いを指摘されたので、ちゃんとしたやり方は動画で覚えた。右手のひらに渾身の魔力を貯めると、けっこうな火球が出来上がる。
俺はそれを全力で投げつけた。
すると、なんかやけに大きくなった火球が、ダイオウイカのほぼ全身に当たり、今度こそ致命的なダメージを与える。
少しして、オーガとコドモドラゴンは消えていき、ボスモンスターも消えた。
残されたのは、やたらとデッカい王冠のみだ。
『おめでとうございます。ボスモンスターを討伐しました。これにてダンジョンクリアです』