軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 緊急事態

「おい、爺さん、ちょっと来てくれ!!」

「落ち着け。一体どうしたんだ?」

お爺さんは水を持ってきて差し出した。

「ふぅ……近くの鉱山で崩落事故が起こった」

水を飲み干すと、駆け込んできたおじさんが話し始める。

「何!? 状況はどうなってるんだ!?」

「幸い、兆候があったおかげで早期に避難できた。今のところ全員生きて脱出している。だが、意識不明や怪我人が多数いる。薬が足りねえ。あんたもギルドに来て手伝ってくれ」

「分かった」

どうやらとんでもない事故が起こったみたい。

お爺さんが裏に引っ込んで慌ただしく支度を整えると、呼びに来たおじさんと一緒に薬屋から出ていこうとする。

「あの……」

「そうだった。嬢ちゃん、悪いな。買取はまた今度だ」

声をかけたら、お爺さんが忘れていたのか、少し申し訳なさそうな顔をする。

「いえ、そうじゃなくて私も一緒に連れていってもらえませんか?」

沢山の怪我人がいるというのにこのまま見て見ぬふりなんてできない。それに私も薬師の端くれ。少しくらい役に立てることがあるはず。

「小娘が何を!?」

お爺さんを呼びに来たおじさんが私を怒鳴りつける。

「……そうじゃな。一緒に来てもらおう」

「バッツさん、あんた何を言ってるんだ!?」

「この子がいた方が良い可能性がある。いいからギルドに向かうぞ」

「わ、分かったよ。おい、ついて来い」

「分かりました」

お爺さんのおかげで私も一緒に行けるようになった。

「これは……」

「ひどいな……」

救護所になっているギルドの近くまでやってくると混乱が広がっていた。

次々運ばれてくる怪我人と医療関係者らしい人たちが走り回り、怪我人が壁に背を預けて座っていたり、泣き叫んだりしている。

治療が追いついてないみたい。ここの様子を見る限り、治療院もいっぱいなんだろうな。

私は病院に居たけど病室からほとんど出たことがないし、こんな現場は見たことがない。

あまりに凄惨な状況に体が竦みそうになる。

『おい、大丈夫か?』

『あ、うん……大丈夫。心配かけてごめんね』

『ふんっ、心配などしておらん』

でも、アークの言葉で我に返り、その場を通り抜けてギルドに駆け込んだ。

ギルドの内部は救護所のようになっていた。

外以上に酷い状況。いつもは冒険者で賑わっているギルドのロビーが嘘のよう。

数十人以上の怪我人が寝かされていて、意識がなかったり、呻いたりしている。

「おおっ、バッツさん、来てくれたか……」

お爺さんが中に入るなり、短髪の強面のおじさんが安堵した表情になった。

「ギルドマスター、どういう状況だ?」

「回復ポーションの在庫が心許ない。このままじゃ、死者が出かねない」

「他の薬師たちは?」

「急いで薬を作ってもらっているが、全く生産が追い付いていない」

「そうか……」

どうやらこの人が冒険者ギルドのギルドマスターらしい。もしかしてお爺さんは結構凄い人なのかもしれない。

しかも、かなりひっ迫した状況みたい。

「あのこれ、使ってください」

私は、リュックから売るはずだった回復ポーションを取り出した。

「回復ポーションか!? いいのか!?」

「はい、人の命には代えられませんから」

薬なんて薬草を獲りに行けばいくらでも作れる。でも、人の命は失われたらもう戻らない。比較するのだっておこがましい。

私は前世で両親を残して死んでしまった。本当に親不孝者だ。怪我人の中にもそういう人がいるかもしれない。できれば自分のようにはなってほしくない。

少しでも不幸な人を減らせるのなら、悩む必要なんてない。

「助かる!! きちんと報酬は払うから!!」

「言っておくが、それは魔法薬だ。分かってるな?」

「そうか……きちんと報酬は払わせる」

お爺さんが睨みを利かせると、ギルドマスターは神妙な顔で頷いた。

別にお金なんて良かったんだけどな。

「それならいい」

「おい、これをひと瓶ごとに分けて使え」

「わ、分かりました!」

ギルドマスターの声に、近くに居た職員さんが回復ポーションを受け取ってひと瓶ごとに分けていく。

「うぅ、ここは……」

「おおっ、ここはギルドだ。分かるか!?」

「ギルド……?」

回復ポーションが使用され、意識不明の人たちが意識を取り戻し始めた。

「いでぇよぉ、誰かどうにかしてくれ」

「ちょっと待ってろ」

「お、おおっ、痛みが……」

「な、なんだこの回復ポーション!? 凄い効果だ!!」

重傷だった人たちも大分持ち直していく。

自分が作った薬がきちんと効果を発揮してくれてよかった。ホッと一安心。

「ワシらは薬師が集まっている部屋に行く」

「おうっ、そっちは任せた」

私はお爺さんの後についていく。

「ピュリア草を持ってきてくれ!!」

「薬はできたのか!?」

「ノリノリ苔がなくなった!!」

扉を開けると、まさに戦場のような光景が広がっていた。

響き渡る怒号、忙しなく動くギルド職員、必死に調合する薬師。

自分以外の薬師が回復ポーションを作っている姿を見たことがなかったけど、本当に魔力を流してなかった。

お爺さんが言っていた通り、一般の薬って魔力を使わないで作るみたい。

「おいっ、回復ポーションができた。持っていってくれ!!」

「分かった!!」

回復ポーションができたそばから運ばれていく。

ただ、そのポーションは濁っていて、ノリノリ苔が固形のまま残っていた。

あれで大丈夫なのかな?

「重傷者の第二陣が来た!! 急いでくれ!!」

新しい情報がもたらされて、室内に苦々しい雰囲気が漂う。

「くそっ、俺たちは手いっぱいだ!!」

「これ以上生産を早くできねぇぞ!!」

「うるせぇ!! 四の五の言わずに作れ!!」

薬師さんたちはすでに必死に作っている。

「ワシが作る」

彼らの前におじいさんが進み出た。

「おおっ、バッツさんじゃないか!!」

「街一番の薬師ならどうにかなるかもしれん」

「よっしっ!!」

やっぱりこのお爺さんは凄い人だったんだ。

全員の顔に希望の光が宿ったように見える。

お爺さんならこの状況を打破できるのかも。

「いや、ワシでも数には限界がある」

「おいおい、マジかよ……終わりじゃねぇか」

「くそっ、誰も死なせたくねぇのによぉ」

でも、お爺さんだけでは難しいみたい。

部屋が静まり返った。

皆も暗い顔をしている。

「あの……私も薬を作れます」

そんな顔を見ていたら、気づけば、私は手を上げていた。