作品タイトル不明
第155話 カジノ無双?
「おお〜!!」
スロットの下の方からチップ代わりのコインがドバァーッと出てくる。
その様子を見て、ようやく大当たりした実感が湧いてきた。
こう、なんて言うんだろう。思わず体が震えるような達成感というか、多幸感で満たされるような感覚。
ギャンブルにはまる人っていうのは、この感覚に取り憑かれてしまうのかもしれない。
今ならその気持ちが少し分かる。
一度体験すると、また当たるかも、という期待が消えないし、外れてもずっとその期待を追いかけてしまいそう。
気をつけないと……。
「それじゃあ、もう一回」
私の手が勝手にレバーを引いていた。
手を離したいんだけど、離れないなぁ。
──ガシャコンッ
スロットがクルクルと回り出す。
トン、トン、トン、外れ。
トン、トン、トン、外れ。
トン、トン、トン、外れ。
当たったばっかりのせいか、すぐには当たらない。やっぱり、そう上手くはいかないよね。
──ウィンウィンウィイイイイン!!
そう思った矢先、スロットからけたたましい音と派手なライトの動きが始まった。
え、もしかして?
「おめでとうございます。また激アツですね」
また当たる確率が高い演出が出たらしい。
やっぱり私は運がいい。
──ヴァン、ヴァン、ヴァン!!
──パララッパラー!!
「スリーセブン……」
今度は誰でも大当たりだと分かる絵柄が揃ってしまった。さっきよりも派手な音楽と祝福の演出が始まる。
そして、洪水みたいな勢いでチップコインが溢れ出してきた。
自分の運の良さが怖い。これならもっと当たっちゃうかも!!
それからしばらくの間、私は夢中になってレバー引き続けた。
「おめでとうございます。スロットでここまで勝ち続けたお客様は初めてです」
「そうなんですか? とても面白かったです。守っていただいてありがとうございます」
かなり当たったと思うけど、そこまでとは思わなかった。
夢中になっている間もずっとそばで周りを警戒してくれていた警備員さんに頭を下げる。
「うっ」
警備員さんたちが胸を押さえるような仕草をした。
挨拶か何かかな?
「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもございません」
「そうですか? それじゃあ、仲間の様子を見に行こうと思うんですが、大丈夫ですか?」
スロットは満喫できたので、そろそろ他の皆の様子が気になってきた。
「はい、私たちにお任せください」
警備の人が持つと言って譲らないので、チップを持ってもらい、仲間のところに向かう。
最初はエアのところへ。
「ピピィ」
「次は上ですねぇ?」
「ピピッ!!」
ハイアンドローの遊戯台に向かったら、小さな人だかりができていた。
様子を窺うと、エアがその小さい体でチップを大きい方に移動させている。
ヨイショヨイショと一生懸命に運ぶその姿は本当に可愛いらしい。
思わず顔が綻ぶ。
囲んでいる人たちもだらしのない緩み切った顔をしていた。そうなってしまう気持ちは本当によく分かる。
「それじゃあ、いきますよぉ〜?」
「ピピィ!!」
「はいっ」
ディーラーさんもこれでもかというくらいに優しい笑顔でエアに合わせてゲームを進行してくれている。
ダイスがコロコロと転がり、目が出た。
前に出た目よりも大きい。当たりだ。
「またまた大当たりぃ〜!! おめでとうございます!!」
「ピピィ!!」
エアは嬉しそうに飛び跳ねる。
楽しそうで何よりだ。
「ピヨピヨピ!!」
エアが私を見て動きを止め、胸目掛けて飛んできた。
「ヨシヨシ、楽しい?」
「ピヨピ!!」
頭を撫でると嬉しそうに鳴く。
「そっか、それじゃあ楽しんでね。私はレインとアークのところに行ってくるよ」
「ピッ!!」
エアは胸に顔を埋めた後、敬礼のように翼を頭に当て、再びテーブルに戻っていった。
「楽園はここにあったのだ……」
「わたしの人生に一片も悔いはない」
「老い先短い人生、エアたん家族を推して生きることに決めた……」
周りにいる人たちの魂が天に昇っていく様子が見えた気がするけど気のせいだよね?
次にルーレットをしているレインのもとへ。
「なるほど。建物の傾き、入射角、速度、湿度、手の汗、ルーレットの状態……様々な物事が影響しあってどこに落ちるのか決まるわけですね……」
「レイン」
ルーレットをじっと見つめながらブツブツと独り言を言っているレインに声をかける。
「マスター、どうしましたか?」
「いや、スロットでたくさん勝ったから様子を見にきたの」
「流石です」
「レインは負けてるの?」
レインに渡したチップが減っている。
意外だった。
「恥ずかしながら」
「私が勝ってるし、気楽にやっていいからね」
仮にマイナスになっても、レインが楽しければそれでいい。
「いえ、それでは『メイドフェアリー』の名折れ。ここまでで情報は全て収集済みです。ここからは一回たりとも負けません。見ていてください」
「分かった」
自信満々のレインの言葉に乗り、許可をもらって隣に座ってゲームを観戦する。
ディーラーがルーレットに球を入れた。
「計算完了」
レインは呟いたあと、黒に全てのチップを賭けた。
「大丈夫なの?」
「問題ありません」
掛けが締め切られ、後は結果が出るのを待つのみ。
球が徐々に勢いを失い、カラカラと音を立てて球がルーレットの数字の中に落ちる。
それは黒の数字だった。
「凄い!!」
「いえ、この程度序の口です」
私が喜んだのも束の間、すぐに次のゲームが始まる。
レインは再び、黒へ。
その球は再び黒へと落ちた。
次は赤、次は黒、黒、赤、赤、黒。全てレインの賭けた通りに球が落ちる。
レインのチップが瞬く間に増えていった。
「もう十五連勝だぞ? どうなってるんだ?」
「イカサマか?」
「ウィザーズカジノに限ってそれはないだろう」
「だよなぁ。あの女性は何者なんだ……」
いつの間にかギャラリーも増えてくる。
その後もレインの連勝記録は伸び続けた。しかし、このまま勝ち続けると思いきや、待ったが掛かる。
「申し訳ございません。こちらの方はルーレットを禁止にさせていただきます」
「なぜ──」
「あぁ〜、はい。分かりました」
あまりに勝ちすぎてカジノ側からレインはルーレット禁止にされてしまったのだった。
無理もない。
このままレインが勝ち続ければカジノが潰れてしまう。経営に支障が出てしまったら元も子もない。それにカジノ側にも客を選ぶ権利がある。
イカサマも何もしていないのに禁止されたレインが剣呑な雰囲気を醸し出したので、私が間に入ってやめさせた。
「ご、ご理解いただき感謝します」
「いえ、うちのレインがご迷惑をおかけしました」
私は頭を下げ、レインを連れてアークの元へ向かう。
「マスター、なぜ止めたのですか?」
レインが不満そうな声色で尋ねた。
「ここは楽しく遊ぶ場所。カジノ側にはお客さんを選ぶ権利がある。レインが勝ちすぎて赤字になったら潰れてしまうでしょ。そしたら、悲しむ人がたくさんいるの。レインも美味しいお店が潰れたら嫌でしょ?」
「それは確かに……申し訳ございませんでした」
「いいよ。穏便に済んだんだから」
どうにかレインを宥めるのに成功した。
ふぅ、危ない危ない。血の雨が降るところだった。
そして、アークのところに到着。
「おっ、チップが増えてる」
『と、当然であろう』
私が声をかけると、アークの何話の声色がたどたどしい。
何かを隠してる気がする。
「お客様……」
「なんですか?」
「お耳を拝借……」
訝しんでいると、カジノの従業員が私の所にやってきて耳元で呟く。
やっぱりアークは隠し事をしていた。
そして、そのあまりに信じられない言葉に私は叫んでいた。
「はぁ!? 金貨五万枚分のチップを借りたぁ!?」