作品タイトル不明
第151話 ダンジョンなんて全然楽しくないんだからね(追手視点)
「ってな訳で、俺たちは姉ちゃんに助けられてどうにか生き残ったってわけだ」
「ほぅほぅ、なるほど。これも食うか?」
饒舌に語る年端もいかない少年の前に、肉肉しい料理の皿を差し出す。
「いいのか?」
「面白い話を聞かせてもらった礼だ。気にするな」
「それじゃあ、遠慮なく」
躊躇う理由を取り除いてやると、少年はフォークを肉に刺してかぶりつく。
良い食いっぷりだ。
「それで、その凄い薬を持っていたねぇちゃんはまだこの街にいるのか?」
「いや、もうマナビアに行っちまったよ……」
本当に聞きたいのここから。すでに饒舌になっていた少年の口は軽かった。
そう。目の前の少年ロビンに話を聞いていたのは、凄腕の薬師のあとを追う追っ手だった。
「そうか、それは残念だったな」
「でも、俺約束したんだ。次に来るまでに立派な冒険者になるって」
少年はキラキラした目で語る。後ろ暗い世界で生きてきた追っ手には少し眩しかった。
「そうか、おれは応援してるぜ」
「おうっ、おっちゃん、ありがとな!!」
「おっちゃん……」
そして、少年の言葉で胸を抉られてしまう。
自分はまだ二十代。まだまだ若いと思っていたが、少年にしてみればおっちゃんそのものだった。
うかうかしていられない。薬師のあとを追うためにも、ダンジョンにたくさん潜って路銀を稼ぎ、一日でも早く薬師に追いつかなければならない。
「どうかしたか、おっちゃん」
「いや、なんでもねぇよ。それじゃあ、俺は行くわ。話きかせてくれてありがとな」
「いや、気にすんなって。こっちこそ奢ってくれてありがとな!!」
ロビンと別れた追っ手は、すぐにダンジョンへと向かう。
ここしばらくダンジョンに潜って少々稼いだが、こんなものではまだまだ足りない。
これから薬師を追いかけるためには、もっと深い階層に潜って、より強いモンスターを倒し、宝物を手に入れ、たくさん稼ぐ必要がある。
ダンジョン探索なんて全然楽しくないんだが、奥に潜らないともっと稼げないんだからしょうがない。
追っ手は疲れ知らずの体でダンジョンへと潜っていく。
あっさりと初心者エリアを抜け、十一階層へと辿り着いた。ここからはファングボアが出現すると聞いている。
気を引き締めていかなければならない。
「ブルゥ!!」
早速ファングボアのお出ましだ。ファングボアは地面を蹴る仕草をしたあと、追っ手に向かって突進してきた。
しかし、追っ手は小さい頃から訓練し続けてきた手練れ。ファングボアの動きも見えているし、躱すだけの身体能力も持ち合わせていた。
「ふんっ」
「プギャ──」
攻撃範囲からほんの少し横にずれ、剣で柔らかい部分を突き刺した。それだけでファングボアは頭から地面に突っ込み絶命した。
しっかり鍛えている人間にとって、ファングボアはいい獲物だった。
「よしっ!!」
初めてファングボアを倒した。
しかし、嬉しくもなんともない。ただ、新しいモンスターを倒しただけだ。
思わず拳を突き上げたが、全く嬉しくはない。そう、ちょっと虫を見つけて捕まえただけだ。他意はない。
「ふぅ、それじゃあこれはマジックバッグにしまっておくか」
追っ手は昨日手に入れたばかりの新品ホヤホヤのマジックバッグを掲げ、ファングボアの死体をしまう。
たくさん入る袋なんて珍しくもなんともない。稼ぐために必要だったから買っただけだ。断じて欲しかった訳ではない。
ふぅ、稼ぐためにはたくさんの獲物を持ち帰る必要があるからな。
「〜〜♩」
追っ手の足取りは軽い。
仕方なく先へと進んだ追っ手は、その日のうちに二十階層へと辿り着いた。
そこで思いがけない物を発見する。
「宝箱か……」
そう。宝箱だ。
序盤は冒険者が多いため、復活したとしてもすぐに取られてしまうのが普通だ。
しかし、追っ手は非常にタイミングよく宝箱が復活したところに遭遇したのである。
「ふっ、高価な物が入っているかもしれないからな。路銀を稼ぐためにも開ける以外の選択肢はないだろう」
追っ手に締まらない顔で宝箱を調べる。罠の解除や鍵開けもお手のものだ。
別にずっとダンジョンに潜って宝箱を開けることに憧れて、必死に練習した訳じゃない。
ただ、必要に迫られて覚えただけだ。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったな。
──カチッ
ロックと罠をサクッと解除してゆっくりと宝箱の蓋を開ける。
「なんだ剣か。しかし、俺が今使ってるやつより良さそうだな。仕方ないから使ってやるか」
追っ手はニヤニヤした顔で古い剣を仕舞い、新しい剣を掲げている。
「はぁっ!! せいっ!!」
試しに振ってみると、なかなか悪くない。
新しい剣を腰に下げ、先へと進む。
二十一階層。
ここからはCランク冒険者くらいの実力がなければ、先に進まないほうがいいとされている。
でも、先を見てみたくなるのが人間の性。いや、全く見たくなんてないんだけどな?
追っ手は慎重な足取りで歩いていく。
「ブルルルルッ」
モンスターの気配を感じ、壁に張り付いて様子を伺うと、牛型のモンスターが道の真ん中を塞いでいた。
あれはシモフリバイソン。非常に高く売れるらしい。それなら倒さねばならない。
「ジュル……」
非常に美味いらしいが、路銀の方が大切だ。すぐに解体を依頼して、料理屋に持ち込もうだなんて少しも思っていない。そう、少しもだ。
追っ手は息を殺し、シモフリバイソンが必殺の位置にやってくるのを待つ。
シモフリバイソンはゆっくりと追っ手の前に近づいていた。
そして、その時はやってくる。
「はぁああああっ!!」
「ブモォオオオッ!?」
シモフリバイソンの首元が見えた瞬間、新品の剣を振り下ろした。
──スパッ!!
首を通り過ぎたが、あまりに手応えがない。
もしかしてなまくらだったのか?
追っ手がそう思った時、ポトリとシモフリバイソンの首が落ちる。
実は剣の切れ味が良すぎた、というより、以前の剣がなまくらで、この剣が追っ手の実力に見合っていただけだ。
「これでたくさん稼げそうだな」
シモフリバイソンの死体を見て、追っ手はひとりごちる。
その瞳はどう見ても肉になっていた。
「え? もうシモフリバイソンを討伐されたんですか!?」
「あぁ」
「それはアイリスさんに続く快挙ですよ!!」
「大したことじゃない」
街に戻り、解体を依頼すると、受付嬢に驚かれたが、全然嬉しくない。
なんたって二番だからな。やっぱり一番じゃないとダメだ。そう、一番じゃないとな。
「よし、ここにいる奴ら全員俺の奢りだ。存分に飲み食いしてくれ」
『うぉおおおおっ!!』
全然嬉しくなんてない。
これも情報を聞き出すための必要経費だ。これで今日稼いだ分はあまり残らない。
明日はもっと奥に潜る必要があるだろう。大変だが、路銀を稼ぐためだから潜ってやろう。
追っ手は冒険者たちと酒を飲み、大いに有用な情報を手に入れるのだった。
「悪くない味だ」
次の日、追っ手は分厚いステーキを食っていたとかいないとか。
記録には残っていない。