作品タイトル不明
第152話 欲望の街の不思議なお宿
「宿が見つからなくて困っていたので本当に助かりました」
頭を下げると、宿の女将さんはにっこりと笑う。
「いえいえ、こちらこそ。ここは入り組んでいてなかなか見つけられないから、お客さんもあんまり来なくてね。いつも経営が火の車なの。アイリスさんが来てくれて助かったわ」
宿は魔女の館があったらこんな感じかもっていう外観をしている。
入り口で、明かりが灯るランプみたいな形をした草やカボチャのランタン、それに蛍みたいに空に浮かぶ無数の光の玉が私たちを出迎えてくれた。
木の木目がとても温かみがあり、暖色の灯りがレトロ感を醸し出している。
その上、女将さんが三角帽子とローブに、露出の多いワンピースを着てキセルをふかしている姿は、いかにも魔女らしい雰囲気があった。
外観から服装に至るまでテーマを統一することで、魔女の家っぽさを演出しているのかも。
コンカフェならぬ、コンホテ(?)と呼んでもいいかもしれない。
「それにしてもよくここを見つけたわね? 相当見つけにくかったと思うんだけど」
「そうですか? 宿を探していたら自然と目に入ったんですが。むしろ、ものすごく良さそうな佇まいだったので、またダメかなと思っていたところです。空いていて本当に良かった」
「へぇ、アイリスさんは本当に運がいいのね」
「そうですね、なんだかんだ運はいい方だと思います」
無敵な感じで転生させてもらえたし、悠々自適な旅ができているからね。女神様には感謝してもしきれない。
「まぁいいわ。もうすぐ夕食ができるからそれまで部屋で寛いでいてね。部屋はこの子が案内してくれるわ」
「分かりました」
部屋の鍵を受け取り、光の玉の案内に従って客室へと向かう。
途中には外が見える廊下があり、そこから宿の中庭が見えるようになっていた。
「え?」
『どうした?』
「外が……」
私が驚いたのは、庭の外側がどう見ても街の中じゃなかったから。
庭の向こうに鬱蒼とした森が広がっていた。
『ふむっ、これも魔法の一種であろうな』
「魔法ってこんなことできるんだ」
ちょっと魔法のイメージが変わったかも。
庭では羽が生えた小人、いわゆる妖精がクルクルと回りながら踊っている。
他にも、尻尾に火が灯る真っ赤なトカゲや水そのものでできた魚に、額に宝石をつけた緑色のリスみたいな動物、そして、岩でできた人型の人形などが遊んでいた。
ファンタジーな異世界でもより一層ファンタジーな世界が広がっている。ここまで徹底していると、逆に感心してしまう。
「ピピピピピッ!!」
エアが寂しそうに見ていると、妖精さんたちがそばに近づいてきた。
嬉しいのか、エアら私の腕から飛び立って窓のそばをクルクルと回る。妖精さんも呼応するように近くで舞い始めた。
お互いに楽しそうで何よりだ。
レインは彼らの様子を興味深そうに見つめている。
魔法でやるにしても出費がバカにならなさそう。全然お客さんが来ないって言ってたけど、本当に経営は大丈夫なのかな。
大きなお世話だろうけど、つい心配になってしまった。
立ち止まっていると、光の玉が私の前で激しく上下する。
早く部屋に行くぞって言ってるみたい。
「あっ、ごめんごめん」
私はエアを捕まえて光のあとについていく。
「うわぁ、部屋もめちゃくちゃいい雰囲気」
木製の扉を開けると、壁には木の蔓が薄っすらと張っていて、よく分からないけど置いてある小瓶や魔女の大釜をモチーフにした置物、そしてヨーロッパ風のアンティークな家具が魔女の家っぽさを創り上げている。
今まで泊まった部屋に比べると狭いけど、庶民の私にはそれがまた落ち着く。
早速荷物を置いてベッドに横になって寛ぐ。
宿探しで少し疲れた気分なのでゆっくりしたい。
しばらくすると、ぼんやりと光る手紙が扉をすり抜けてきて弾けた。
『ご飯ができたわよ』
「え? 女将さん?」
女将さんの声がどこからともなく聞こえてくる。。
話しかけたけど、返事がない。どうやら言葉を届けるだけの魔法か何かみたい。この宿は不思議なことばかりで本当に面白い。
扉を開けると光の玉が付いてこいと言わんばかりに待っていた。
私たちはその後についていく。
「わぁ〜、魔法使いの家みたい」
食堂の机には、魔法陣みたいな模様が描かれたテーブルクロスが敷かれ、机の真ん中にろうそくの乗った燭台があり、料理を照らしている。
そして、部屋の至る所に泡に包まれた燭台がフワフワと浮かんでいた。
「ふふふっ、いい反応ね」
食堂に見惚れていたら、後ろから女将さんの笑い声が聞こえてくる。
「あっ、女将さん」
「さぁ、どうぞ座ってちょうだい。今日の宿泊客はあなたたちしかいないわ。私もご一緒してもいいかしら?」
「はい、もちろんです」
私とレインは空いている席に座り、アークとエアは専用に用意されていた低いテーブルの前に陣取った。
「それではいただきましょうか」
「はい」
『いただきます』
私たちは手を合わせ、改めて料理を見る。
女将さんの料理は、グロテスクな見た目の物が多かった。
眼球のようなものが浮かぶ血のように真っ赤なスープや、魔女の指の形をしたソーセージ、それに白い蜘蛛の巣が描かれた真っ黒なパスタなどなど。
見た目で一瞬食べるのを躊躇してしまう。
『なかなか悪くないぞ』
『ピピィッ』
でも、アークたちには関係ないようでバクバクと食べていた。
それに美味しいらしい。
「美味しい……」
「口に合ったようで何よりだわ」
思い切って食べてみると、どれも美味しくてビックリ。
夢中で食べてしまった。
「作り過ぎたかと思ったけど、そんなことなかったわね」
「すみません、食いしん坊が多くて」
「いえ、いいのよ。作ったものとしては冥利に尽きるわ。ありがとうね」
食後にお茶を飲み、少し女将さんと雑談した後、部屋へと戻った。