軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第150話 幸運の金貨パイ

「はぇ~、すっごい……」

混乱を避けるために馬車を仕舞い、街の中に入ると、イードゥやヴェルナスよりも圧倒的に賑わっていた。

人、人、人。

そんな感じ。

人と馬車が道を埋め尽くしている。冒険者っぽい人から英国紳士みたいな貴族っぽい人たちまで、本当に雑多な印象。

私たちは人の流れに押されて先へと進む。

この世界にしては高層建築の建物が多く、ネオンの看板みたいや、クリスマスのイルミネーションみたいなものが飾り付けられている。

今はお昼だけど、夜はもっと華やかになりそう。

ラスベガスの街並みと東京の渋谷のスクランブル交差点を合わせたみたいだ。

ギャンブルもオークションも楽しみだけど、何をするにもまずは宿の確保が先決。

とりあえず、良さげな宿に入ってみる。

「いらっしゃいませ」

「すみません、何日か泊りたいんですけど」

「申し訳ございません。当面の間、満室でございまして……」

「そうですか……分かりました」

でも、残念ながら部屋が埋まっていた。

仕方ないので別の宿に入ってみる。

「すみません……満室で……」

残念ながらこっちもダメ。

「満室でして……」

「大きな従魔はちょっと……」

「貸し切りになっておりまして……」

他の宿にも入ってみたけど、どこの宿もいっぱい。部屋をとることができなかった。

はぁ……もっと探す範囲を広げなきゃいけないみたい。

思えば、旅に出てから宿探しに苦労したのは初めてかも。今まではなんだかんだ宿を紹介されたり、勝手に宿が決まっていたりしていた。

自分で探すのはなかなか難しい。冒険者ギルドで紹介してもらった方がいいかもしれない。

『おいっ、我は腹が減ったぞ』

アークが私に念話で催促してくる。

『もうっ、アークはそればっかりなんだから』

『ピピィッ』

「マスター、未知の食事には興味があります」

だけど、その前に腹ごしらえが必要かな。

気分を切り替えて街を見て回る。

カジノや高級そうな佇まいのお店に、カジュアルなレストランや屋台が多い。後学のためにいろんなお店を見て回りたいな。

この前化粧をしてもらったし、着飾ってみるのも面白いかもしれない。

『あの料理が美味いと我の鼻が語っている』

『わかった。それじゃあ、食べてみようか』

歩いているとアークがとある屋台に目をつけた。

「いらっしゃい。うちの幸運の金貨パイは絶品だよ!!」

「幸運の金貨パイ?」

金貨? パイ?

名前からどんな料理なのか全く想像がつかない。

「おや、もしかしてこの辺りの人間じゃないのかい?」

「はい。幸運の金貨パイってなんなんですか?」

「この街がギャンブルで有名なのは知っての通りだが、昔破産寸前に追い込まれた男が銅貨一枚からギャンブルで大逆転。その後、商会を立ち上げて大成功したっていう話があってな。その男がカジノに行く前に食べたってのが金貨を形を模したミートパイだったのさ」

「へぇ~」

いかにもギャンブルの街って感じのエピソードだ。

実際に銅貨一枚から一攫千金するのは相当大変だろうけど、そういうエピソードが観光客たちの気持ちを高揚させるのは間違いない。

「それで、どうするんだい?」

「それじゃあ、あるだけもらえますか?」

「あるだけだって!?」

すぐに食べきれなくても亜空間倉庫に入れておけば、いつでも食べられる。

アークが言うのなら美味しいに違いない。全部買っても損をすることはないはず。

「はい。仲間が食いしん坊なので」

「かぁ~、俺にもこんな幸運がやってくるなんてな!! 幸運の金貨パイ様様だ。わかった、全部もっていけ!!」

代金を支払い、私のマジックバッグに仕舞いこんだ。

そうだ、ちょうどいいから聞いてみよう。

「すみません。ちょっとお聞きしたいんですが」

「なんだい?」

「どこかに泊まれそうな宿は知りませんか? どこも満室だと断られてしまって」

「おいおい、まだ宿をとってなかったのかい?」

店主のおじさんが呆れた顔で私を見る。

もしかしたら、タイミングが悪かったのかもしれない。

「はい。今日着いたばかりで。何かあるんですか?」

「あぁ、近々、年に一度の大オークションが開催されるんだ。世界中から集まった名品や珍品の数々が出品されるから人もたくさん集まるのさ。だから、この時期はこんな風にお祭り騒ぎになるのさ」

「そうだったんですね」

案の定、込み合う時期に来てしまったらしい。

でも、見方を考えれば、丁度良かったとも言える。だって、元々オークションには参加してみたかったんだから。

一年で一番大きなオークションなら面白い物が沢山出るはず。俄然楽しみになってきた。

人が少ない所で金貨パイを亜空間倉庫に移動。

大道芸をやっている人たちが集まる広場にあったベンチに腰を下ろし、皆でパイに舌鼓を打つ。

「美味しいね」

『うむっ、我の鼻は間違っていなかったな』

「ピピィッ」

「これも手が止まりません」

アークが言った通り、あの店の幸運の金貨パイはとても美味しかった。

しばらく休んだあと、部屋探しを再開。

「部屋は空いてますか?」

「はい、空いておりますよ」

それから数十件以上の宿を巡って、ようやく部屋をとることができた。