軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第138話 海水浴

街に戻ると、入り口を通った直後に燕尾服に身を包む老紳士に声を掛けられた。

「アイリス様、この街に滞在の間ぜひうちにお泊りください」

「えっと……どちら様でしょうか?」

モノクルを掛け、白い口髭を生やしていて、上品な佇まいをしている。

老紳士は執事のように手を胸に当て、深々と頭を下げた。

「申し遅れました。私は海の側にあるリッチシーリッチホテルのモースと申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそ。それで、なぜ私を?」

ホテルに招かれるようなことをした覚えはない。しかも、身なりから察するに相当高級なホテルっぽい雰囲気だ。尚更身に覚えがない。

「クラーケンによって私どものホテルでは、自慢の海鮮料理を出すことができず難儀しておりました。アイリス様が憂いの元であるクラーケンを倒してくださったとお聞きして、大変感謝しているのでございます」

「なるほど」

どういう意図で近づいてきたのかは分かった。でも、このモースさんが本当にリッチシーリッチホテルの支配人かどうか判断できない。

『アーク?』

『その者は嘘をついてはおらん』

アークの判定は問題なし。さらに別の方向から助け舟がだされる。

「その人はリッチシーリッチホテルの人に間違いないぜ」

「そうなんですね。でも、私は冒険者ギルドの依頼を受けただけですよ?」

それは街の入口で見張りをする兵士の一人だ。それなら間違いないだろうね。

でも、すでに報酬は受けとった。追加で報酬をもらう理由はない。

「私どもはぜひ別でお礼をさせていただきたいと思っております」

「受けても問題ないと思うぜ。身元はしっかりしているからな。それにリッチシーリッチホテルの料理は美味い。それを食べにいくだけでも価値があるぜ」

「本日は仕入れができませんでしたが、明日以降であればお出しできるでしょう。いかがでしょうか」

美味しい料理。そう聞いては心惹かれてしまう。今日はクラーケンを沢山食べたから逆にちょうどいい。

『このホテルに泊まるのだ!!』

『ピピィッ!!』

『わ、分かったよ』

料理と聞いたアークとエアが私を促すように念話を送ってくる。

「分かりました。お言葉に甘えさせていただきますね」

「お任せください。それではこちらへどうぞ。ホテルまでの足をご用意しております」

私たちは老紳士が乗ってきたであろう馬車に乗せられてホテルへと向かう。

十分弱程度で到着。リッチシーリッチホテルはとんでもなくバカでかいホテルだった。

まるで海沿いのリゾートホテルのようだ。これまで泊ってきたホテルも相当高級だったが、リッチシーリッチホテルはそれをさらに上回りそうだ。

そして、私たちは最上階に泊まることに。ワンフロア全てが一室でめちゃくちゃ広すぎて三人で泊るには広すぎた。

その日の夕食は食べず、潮風でべとべとになったお風呂で体を洗う。なんと、このホテルは魔道具をたくさん使用してベランダに露天風呂が用意されていた。

特殊な魔道具によって外からは見えないらしい。

開放的過ぎて本当かどうか怪しいけど、疑ってもしょうがないので開放的な気分でお風呂に入った。

クラーケンを倒してホテルに到着したのは丁度日が沈むころ。

「わぁ~、綺麗……」

海を照らしながら水平線に太陽が沈む光景は、とても綺麗で脳裏に焼き付いた。オーシャンビューを満喫しながら浸かるお風呂は格別だった。

「やめろぉおおおおっ!!」

いつも通りアークもしっかりと洗った。

翌日。

「青い海、青い空、最高のロケーションだね」

太陽がギラギラと照り付ける中、私は砂浜のビーチチェアに背中を預け、優雅にトロピカルジュースを飲んでいた。

この世界にはちゃんと水着が存在していて、なぜかホテルが用意してくれた。私は青緑色のビキニを着ている。

銀色の髪とエメラルドみたいな瞳の私によく似合っていると思う。ホテル側の見立ては正しい。

前世はガリガリだったので他人に見せられるような体じゃなかったけど、今世の私は均整の取れた体つきで、肌には傷もシミも毛も何一つない。

胸もエリアやカリヤさんたちに比べれば大きくないけど、それなりにある。全てのバランスが黄金比っぽい感じになってる気がする。

アークは私の側に寝そべり、エアは海に入って遊んでいる。

――ズズズズズズーッ

ジュースを飲み終わったので、ビーチチェアから立ち上がって波打ち際に向かう。

打ち寄せる波に改めて海に足をつけた。ちょっと温い。昨日はちゃんと楽しむ余裕もなかったので、波に引き込まれる感覚が新鮮で面白い。

「きゃっ」

「ピピィッ!!」

エアが私に海の水を掛けてきた。

足とは違い、体に当たった水はひんやりとして冷たい。

「やったなぁ。えいっ!!」

「ピピィッ」

エアも水を掛けられて楽しそうにしている。しばらく掛け合いをして楽しんだ後、私たちは海を泳ぐ。

ちゃんと泳いだことがないので、クロールに平泳ぎ、背泳ぎにバタフライを見よう見まねで練習したら、割と簡単にできるようになった。

水中で目を開いても全然痛くないし、バッチリ見える。

ゴミとかも一切なくて、水が透き通っている。太陽の光が差し込み、海底や岩を照らして幻想的な空間を創り上げていた。

キラキラと光る小魚たちがその世界を彩っている。

「ピヨピヨ」

エアが隣で空気の球体に包まれて海中を移動していた。

あっ、そうだ。

私はそこで思い出す、昨日海底で見た謎の半透明のドームを。

ひとしきり水中の光景を楽しみ、海から上がってアークの許へ。

「アーク、昨日海底に見たことがない遺跡があったんだけど何か知ってる?」

「ふむっ、もしかしたら古代の遺跡かもしれぬな」

なんでも昔には今よりも高度な文明があったんだとか。その時代の名残の可能性があるっぽい。やっぱりロマンが過ぎる。

「じゃあ、ちょっと行ってみない?」

「面白そうではないか。よかろう」

私たちは海底の遺跡に向かうことに決めた。