作品タイトル不明
第137話 いかづくし
「いやぁ、本当に倒してしまうとは……ありがとう。街を代表して礼を言うよ」
ギルドマスターが安堵した様子で頭を下げる。
「いえ、仕事ですから」
「それじゃあ、口座に報酬を振り込んでおくから確認しておいてね」
「分かりました」
報告を終え、部屋を後にする。
「おおっ、あんたがクラーケンを倒してくれたんだってな!! 助かったよ!!」
「あんたみたいにかわいい子が倒したなんて信じらんないよ!!」
「ありがとう。君はこの街の救世主だ」
その途端、冒険者だけでなく職員たちに囲まれて、涙ながらに感謝された。
どうしてバレたんだろう。もしかして、職員の人たちが勝手に漏らしたのかな?
「ありがとう、海神様!!」
「海神様、バンザイ!!」
「海神様、可愛い!!」
予想を裏付けるように外でも街の人たちに感謝されることになった。
流石、異世界。個人情報もへったくれもない!! それに海神様って何!?
聞いてみると、なんでもこの辺りでは海神信仰が広がっているらしく、クラーケンを倒した私は海神扱いされているらしい。
「海神様、これ、もってっとくれ!!」
「海神様、漁に行って貢物とってくれるから待っていてくれよな!!」
「美味い飯が食べたい? 待ってろ、食材が手に入り次第、作ってやるからよ!!」
街の人たちが私に供物を差し出そうとしてくる。
ただでさえ人間かどうか怪しくなっているのに、神様扱いするのはやめてもらいたい。でも、そんなこと言えるはずもないので、陰でため息を吐いた。
「ほらっ、早くクラーケンを出すのだ」
「はいはい、ちょっと待ってよ」
街の人たちにもみくちゃにされた私たちは、街を離れ、人気のない砂浜にやってきた。
流石にあの状態では、ゆっくりご飯を食べられそうにないし、落ち着いて料理ができる雰囲気でもないからね。
取り出したクラーケンを、エアが砂がつかないように浮かせる。アークが解体し、エアがある程度のブロックに切り分けた。
これで調理前の準備は万端。
「ひとまず、焼けたクラーケンを食べておいて」
「まぁ、よかろう」
「ピピッ!!」
ちゃんとした料理ができるまでの間、すでに火の通った部分を切り、温め直して味を調える。
「うっまっ!?」
ただ、焼いただけなのに、クラーケンの肉(?)はとんでもなく美味しかった。
アークとエアの前に出すと、二人は勢いよく食べ始める。
「もぐもぐもぐっ。やはりクラーケンは美味いな」
「ピピピッ!!」
二人はだらしのない恍惚の表情を浮かべていた。
さて、何を作ろう。まずはあっさり目な料理がいいかな。
カルパッチョなんてどうだろう。ある程度火が通ってるけど、奥の方に生の部分が残っている。
大きくスライスをして、油とレモンもどきのしぼり汁、塩と胡椒を混ぜてタレを作る。これだけだと味気ないので、しょうゆとワサビもどきで和風のソースも作った。
二種類の味を楽しめるのは良さそう。
「さっぱりしていて中々よいではないか!! いくらでも食えるぞ!!」
「ピピピピピィッ!!」
すでにクラーケンのステーキを食べ終えていた二人は、カルパッチョに舌鼓を打つ。
次に、クラーケンの身を二センチから三センチくらいにカットして、しょうゆとしょうがもどきがメインの調味料に付け込み、小麦粉をまぶして油を張った鍋に投入していく。
辺りに食欲をそそる香ばしい匂いが漂う。
そう。クラーケンの唐揚げだ。片栗粉を見当たらないので小麦粉で。
「早く、早く次を食わせるのだ!!」
「ピピッ!!」
ステーキとカルパッチョも相当な量があったにもかかわらず、二人は涎を垂らして揚がっていく唐揚げたちを見つめている。
――ザク、ザク、ザクッ
「これもまた美味い。サクサクした衣とホクホクのクラーケンの肉が最高ではないか!!」
「ピッピピピィッ!!」
盛り付けて出した途端、二人が高速で食べていく。
揚げる、揚げる、揚げる。私はひたすらに唐揚げを揚げ続けた。
最後に、鍋にしょうゆや酒、砂糖などを入れて沸騰させ、クラーケンを入れて味を絡ませるように調味料の中を転がす。
そして、一度クラーケンを取り出して、煮汁がとろっとするまで煮詰めて、またクラーケンを戻してもう少し煮詰める。
「うん、美味しい」
味をみてみたけど、これもバッチリ。
イカの煮付けの完成だ。
「なんだかこれはほっこりとする味だな」
「ピピッ」
量産して出すと、二人はホッとしたような顔で料理を味わう。
それぞれ相当な量を作ったので足りないことはないはず。
私も腰を下ろして料理を食べ始める。
どれもこれも初めて作った割にそれなりの味になっていた。ちゃんとYoTTubeで見た通りに作り、適度に味を見ていたおかげかな。
失敗する人の大半は、基本を作ったこともないのに、勝手に自分流のアレンジをし始めたり、味見を全くしないことって言うからね。
「ふぅ、満足した」
「ピピィッ!!」
「お粗末様でした」
二人が満足そうな顔をしている。
その顔を見るだけで一生懸命作った甲斐があるというもの。
私も潮風を受けながら、残った料理に舌鼓を打った。
今回はイカしかなかったけど、漁が再開されたらいろんな魚介類が手に入るはず。
その時が楽しみだね。