作品タイトル不明
第136話 自称人間 VS 水棲生物(泳ぎ)
しかも、水圧もやばいはずなのに私の体はなんともない。
本当に健康すぎてヤバいね。
それに、深海にもかかわらず、なぜか周りが明るく、ある程度視界が開けている。
もしかしたら、洞窟内を照らすファンタジーな苔みたいに、発光するプランクトンような不思議生物が無数に漂ってるのかもしれない。
クラーケンが近づくと、小さな魚たちが逃げていく。その中にはクラーケンには及ばないものの、十メートル以上はありそうな種類も混ざっていた。
流石クラーケンだけあって、凄いスピードで海の中を進んでいく。
クラーケンがどこに向かってるのか分からないけど、このまま好きにさせてはおけない。あんまり遅いとアークたちが心配してしまうからね。
ん? あれは……。
海上に戻ろうと考えていると、海底に不自然な半透明のドームが見えた。
ちょっと遠くて分かりづらいけど、ドームの中には大きな建物があって、明らかに人の手が入っているのが分かる。
海底にある人工物なんてロマンしかない。面白そうだし、私の体は海底まで潜っても問題なさそう。行かないわけには行かないよね!!
もちろん、このまま行ったりはしない。行く時は皆一緒だ。アークとエアが水の中で活動できるかは分からないけど、なんとかなるはず。
ひとまず、このクラーケンを倒してしまおう。でも、ここで倒すと持っていくのが面倒だし、上まで連れていこう。
私はクラーケンの進行方向とは反対に向かってバタ足を始める。
クラーケンのスピードがガクンと落ちた。でも、まだ足りないみたい。
少しずつバタ足を強くすると、クラーケンの速度がどんどん落ちていく。そして、ついには反転して私の向いている方に進み始めた。
おっ!!
このまま行けると思いきや、流石はクラーケン、さらに力を加えて盛り返す。
なかなかやるね。でも、無駄無駄。
私はもう少し強くバタ足を始めた。それだけで、クラーケンよりも速いスピードで進み始める。初めて泳いだけど、どうにかなるもんだね。
あっ、逃げようとしても無駄だよ。
私から足を外そうとしたクラーケンだけど、今度は私が掴んで離さない。握りつぶさないように手加減するのが逆に大変だけどね。
私はさらに蹴る力を強め、海上に浮上する。クラーケンはなすすべなく私に引っ張られていく。
徐々に上の方が明るくなってくる。
後少しで海上みたいだね。そうだ、勢いよく飛び出したら、イルカみたいに飛べるかもしれない。
私は少し本気でバタ足をしてスピードを上げた。
キラキラと輝く水面がグングン近づいてきて、その光を潜り抜ける。
――ドパァアアアアンッ!!
私は空へと舞い上がった。ちょっと勢いをつけすぎたかも。海上が遥か下に見える。私に釣り上げられたクラーケンも一緒に空を舞う。
「ヴェルナスは……随分遠くまで来ちゃったみたいだね……」
飛んでいる間に自分が今いる場所を確認すると、街が豆粒みたいに見えた。
エアが心配してるだろうし、急いで帰ろう。
「ピィイイイイイィイイイッ!!」
そう思った矢先、聞き慣れた声と共に緑色の毛玉が弾丸みたいに飛んできた。
絡まっていたクラーケンの足がバラバラになる。
私は毛玉をがっちりとキャッチ。
「エア、迎えにきてくれたの?」
「ピピピピピィ!!」
「ごめんごめん、私はあんなことくらいで死なないみたいだから大丈夫だよ」
「心配した」と頭を胸にグリグリと押し付けてくるエアの頭を撫でる。
飛んできたのはエアだった。従魔と主はお互いのいる場所がなんとなく分かる。たった数十分程度だけど、心配で追いかけてきたんだろうね。
エアの力で私の落下が緩やかになる。
「ウォオオオオオオンッ!!」
狼の遠吠えと共に背後で凄まじい衝撃と閃光を感じた。振り返ると、クラーケンがこんがりといい感じに焼き上がっていて、香ばしい匂いが漂ってくる。
アークがまた雷を落としたみたい。私が捕まった時より明らかに威力が高い。あの時、アークなりに気を遣ってくれたのかも。
クラーケンが力無く落下していく。アークが一度水面に着地した後、小型化して目の目の間を突き抜けた。
クラーケンの眉間に小さな穴が開く。
『ふんっ、だから心配いらぬといっておろうが。こやつが海に引き摺り込まれた程度で死ぬものか』
アークが口に大きな魔石を咥えて念話を送ってくる。クラーケンの魔石かな。
再生する様子もない。完全に死んだみたいだね。
「ピィピィピィ!!」
『分かった分かった。ほらっ、仕事は終わった。さっさと帰ってクラーケンを食べるぞ』
エアがアークに向かって「心配して何が悪いの」と怒る。子供に弱いアークは困った顔で白旗を上げた。
私はクラーケンを大きなアイテムバッグに仕舞う。ちゃんと入ったので死んでいるのは間違いない。これで依頼は完了。街に元々の活気が戻るといいんだけど。
エアが私をゆっくり海面に下ろす。
「それじゃあ、帰ろっか」
「ピピィ!!」
私たちは海の上を爆速で駆け抜けて街へと戻った。