作品タイトル不明
第108話 報酬は笑顔
「エアちゃん可愛いですわねぇ」
「でしょ? ふわふわもふもふで最高なの」
「ピピピッ」
私の膝の上に座っていたエアが、今はエリアの膝の上で撫でられてご満悦の表情を浮かべている。
「アイリスさん、エアちゃんはなんのモンスターの雛なんですの?」
「うーん、分からない」
「そうなんですの?」
本来なら言わない方がいいんだろうけど、私の直感が大丈夫だと言っている。
言えないこともあるけど、せっかくできた友達だ。エリアにはできるだけ隠しごとはしたくない。
「うん、エアは幻獣だから」
「エアちゃんは幻獣でしたの!?」
エリアは予想通り、口元を押さえてお嬢様然とした仕草で驚いた。
「そうだよ。ダンジョンを踏破した時に報酬で貰ったの」
「そうでしたのね。アイリスさん、他にこのことを知ってるのは?」
エリアが突然声のボリュームを落とし、口元に手を添えて囁く。
「うーん、空鳴のパーティメンバーとここにいる皆くらいじゃないかな?」
「あんまり言わない方がいいですわよ?」
「ちゃんと言う人は選んでるよ。エリアみたいに注意してくれる人とかね。それに……もしエアに手を出してきたら容赦しないから」
「そ、それは頼もしいですわね」
私が窓を開けて、二本の指だけでバッグから取り出した胡桃っぽい木の実を粉々にしたら、エリアは頬を引き攣らせた。
もう躊躇ったりはしない。
「私も従魔欲しいですわねぇ」
エリアが慈愛に満ちた聖母のような笑みを浮かべ、エアを撫でながら呟く。
「見つけられないの?」
グレオス商会は大きな商会だ。探そう思えば探せそうなのに。
「いえ、見つけること自体は簡単ですが、調教スキルなどを持っていないので、手懐けるのがなかなか難しいんですの。アイリスさんが羨ましいですわ」
「そういうことかぁ。私はそういうのをすっ飛ばしてるからね」
アークは怪我してるところを薬で助けたということにした。
『誰が誰に助けられたって?』
『実際、私が門と鎖を破壊しなかったら出てこなかったよね?』
『ふんっ、あの程度我にかかれば、お前に頼らずとも壊せたわ。面倒だから壊させただけだ』
『ふーん』
抗議してきたけど、客観的に見て間違っていないから問題なし。
懐かせようとせずとも最初から懐いている状態だったから、私にはスキルなんて必要なかったことになっている。
でも、本来は従魔にしたいモンスターを懐かせるところから始めなきゃならない。
モンスターは本能的に人間に敵意を持っていたり、餌だとしか思ってなかったりする。そんな相手を懐かせようと思ったら、スキルがなしじゃ相当ハードルが高くなりそうだね。
「もし、また幻獣の卵を見つけたら、エリアにあげるね?」
世界中を旅していれば、また手に入れられるかもしれない。
「なっ!? そんな貴重なもの受け取れるはずないでしょう!! それに、私には幻獣の親になれるほどの魔力はございませんのよ?」
「そう言えばそれがあったっけ。忘れてた」
幻獣は卵を持った時に魔力を吸われる。その量はその卵から生まれる幻獣にもよるらしいけど、普通の人間では親になれないほど。
エリアが持ったら、魔力を全部吸い尽くされて干からびてしまうんだとか。死ぬ危険もあるみたい。それじゃあ危険すぎて試すこともできないね。
「お嬢様、そろそろ」
ふと、メイドのカリヤさんがエリアに声を掛けた。
「あらっ、もうそんな時間ですの?」
「どうかしたの?」
「この辺りで休憩に入りますわ」
「そういえば、定期的に休憩を入れるって言ってたね」
エリアは馬車の傍の冒険者に言伝をし、開けた場所で馬車を停める。馬を休ませなきゃいけないからだ。
それに合わせて私たち人間も水分を取ったり、軽食を食べたりして休息をとる。
「うーん」
馬車の外に出て伸びをした。
超健康のおかげで肩や首が凝ることはないけど、なんとなく伸ばしたくなる。
『早く食べる物を出せ』
『ピピピッ』
馬車を出た途端、アークとエアにご飯をねだられた。出発前に仕込んでおいた料理を取り出し、アーク用の大きな皿と、エア用の小さな皿に盛りつける。
「はい、どうぞ」
『うむ』
『ピピッ』
二人はがつがつと食べ始めた。
私も一通り体をほぐしてから腰を下ろし、バッグから取り出して口に運ぶ。
「うん、味見はしていたけど、美味しくできてるね」
今食べているのはじっくりと煮込んだボア肉の角煮をパンに挟んだ料理。
醤油と生姜――ジンガがあるということは角煮も作れる。何日かの試行の末、現状で一番美味しい角煮に仕上がったと思う。
吹き抜ける風を感じつつ、良い景色を見ながらご飯を食べるのは、ピクニック気分で楽しい。
のんびりと食べていると、エリアが恐る恐る話しかけてきた。
「あの~、アイリスさん」
「どうしたの?」
「それはなんですの? ボア肉のジンガ焼き……とは違うようですが」
エリアは私たちが食べている料理を指さす。
そういえば、ジンガ焼き以外はまだ見せたことなかったな。
「これもボア肉とジンガを使った料理だよ。私のはそれをパンに挟んだもの」
「そうなんですの……」
エリアが物欲しそうな瞳で私の手にある角煮パンを見つめている。
まぁ、見て見ぬふりはできないよね。
「食べる?」
「いいんですの!?」
バッグの中の時間の経過が遅くなっているのをいいことに、料理は沢山作った。
少しくらい分けても大丈夫なはず。
「うん、いっぱい作ったから」
「ありがとうございます」
バッグから角煮パンを取り出してエリアとカリヤさんに手渡す。
「私がいただくわけには……」
エリアは嬉々として受け取ったけど、カリヤさんが辞退しようとした。
でも、その顔には食べてみたいと書いてある。
「せっかくなのでぜひ一緒に」
「いいから貰っておきなさいな。他では食べられませんことよ」
「……分かりました」
私たちの後押しで言い訳できたエリアさんは、苦笑いをしながら受け取った。
二人は口に入れた瞬間、目をカッと見開く。
「美味しいですわ!!」
「ジンガ焼きも美味しかったですが、これも勝るとも劣りませんね」
口に含んだ分を食べきった後、二人は角煮パンを絶賛した。
「おや、アイリスさんとお嬢様方、美味しそうなものを食べてるね」
そこにヒイロさんたち護衛の冒険者たちもやってくる。
「食べますか?」
「いいのかい?」
「はい。皆さんもどうぞ」
『うぉおおおおおっ』
ヒイロさんたちにも角煮パンを渡した。こうなったら、隠しておくのは難しい。エリアの部下の商人たちにも角煮パンを渡すことに。
結局、事前に作った角煮パンは全て食べ尽くされてしまった。
「まぁ、いっか」
でも、皆が笑顔になってくれたのを見ると、それも悪くないなと思った。