作品タイトル不明
幕間 ざまぁを添えて 第五話
甘味に舌鼓を打っていた元王妃が、すっかりフランシスに骨抜きになった頃、マックスウェル元国王の耳に信じられないうわさが聞こえてきた。
なんと、あのトリニーの派閥から離脱者が続出し、王となったフランシスの元に集結し始めているというのだ。
実力主義を歌う彼は、たとえ元王妃の派閥であったとしても、分け隔てなく登用すると称賛の声が上がっている。
若輩者だからこそ、先人の有識者に話を聞き、真摯に受け止める姿が心を打つらしい。
そのお陰で、側妃の派閥から閑職に追いやられていた旧トリニー派の一部は、フランシス王の名のもと、再び政財界へ返り咲き始めている。
そして、側妃の派閥内でも、身分が低い為に実力を発揮しきれなかった者達がいる。
彼らにすれば、派閥などより、自分個人を認めてくれる新しき王がまぶしく見えるのだ。
こうして、多くの優秀な人材が、新王を崇拝するフランシス派に入ることになった。
「こんなのは、最初だけだ。目新しいものには、皆飛びつくからな」
マックスウェルは負け惜しみを口にするが、聞くものは誰もいない。
用事がなければ、侍女も執事も近づいてこないのだ。
朝起きて寝るまでの間、彼の仕事は、食べること、トイレに行くこと、風呂に入ることの三つのみ。
それ以外は、話し相手もおらず、ただ、ソファーに座ってじっとしているしかない。
そんな彼のところへ、ある日、懐かしい面々が集まってきた。
「やはり、王は、貴方しかおられません」
今まで、マックスウェルの元で甘い汁を吸っていた上位貴族たち。
その多くは高齢化が進んでおり、跡継ぎも壮年に差し掛かっているにも関わらず、代替わりを拒否する者達だ。
「そんなに、フランシスは、ダメなのか?」
「ダメなどという生ぬるい言葉では追いつきません。勝手に大臣を辞めさせ、若造に与える。あれでは、人気取りに飴玉を配る子供と変わりありません」
新任の大臣達は、皆、精力的に働き、国民のフランシスに対する期待値はどんどん高まっている。
結果が出るのは数年先だろうが、身分制度に凝り固まっていた現状を打破しただけでも、今までの王族とは違うと言えた。
だが、それは見方を変えれば、既得権益を有する者達にとっては、己の地位を危うくする敵でしかない。
「立ち上がるのです、マックスウェル王!我らがついております!」
王が失脚した時、何も言わなかった面々が、見捨てたはずの王に決断を迫る。
こんな馬鹿げた悪巧みなど、フランシスには筒抜けであることも知らず。
この冬の離宮は、先王の幽閉先であることも鑑み、多くの兵が周りを取り囲んでいる。
そんな所に、のこのこと通う老害達など、彼の敵ではない。
だが、今すぐ手出しはしない。
時が満ち、全員を一度に駆逐するタイミングを推し量る。
再びマックスウェルが王に返り咲く日は来ない。
「仕方ない、いよいよ余の出番か」
「まさに」
盛り上がる老人と己を理解できていない元国王は、フランシスの手の上で踊らされていた。
明らかにおかしい量の武器を仕入れても、夜な夜な王のもとに集まり、政権の奪還について話し合っても、咎められないことに胡座をかいていた。
「では、決起は、明日の早朝に!」
参加者がマックスウェル王に賛同する旨のサインをし終わり、今夜は帰って英気を養おうと冬の離宮の大門をくぐった瞬間、
「ご苦労」
満面の笑みで微笑むフランシスが、近衛隊のみならず軍の精鋭部隊を引き連れて目の前に立っていた。
弁明など許されない。
フランシスは、腰の剣を引き抜くと、切っ先を真っ直ぐに前に突き出した。
言葉など発せずとも、彼の意思を理解した屈強な大男達が、剣さえまともに振れない年寄りを一刀両断に切り捨てていく。
戦闘とすら言えない争いの中、まるで稲刈りをするように次々と首が飛ぶ。
その血しぶきをかいくぐり、ルーは、一人で飛び出した。
目指すは、先王のマックスウェル。
扉を蹴破り、目的の男を見つけると、ルーは体勢を低くして一気に距離を縮め、
ズサッ
首を切り落とした。
ゴロン
なぜ切られたのかもわからぬマックスウェルの表情は、なぜか笑っているように見えた。
こうして集まった頭は、十三個。
夜の内に、国家転覆を図った犯人として、城門の上に並べられることだろう。
国民は、この時初めて知るのだ。
我らが王は、誠実な者には誠実を返し、逆らうものには死を与えるのだと。