軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102:機会を狙ってみる事にした

ギルドに入り早々、向けられた視線と交わされた会話にリゼルは苦笑した。

「おぉ、大きい」

「育ってるな」

「相変わらず薄い体してんなぁ、ちっこい間に肉食わせねぇから」

別に小さくなっている間に肉を食べようと元に戻った時の体格は良くならない。

どうやら小さくなった自分はギルドにも顔を出したようだ。屈強な男に溢れるギルドに向かおうなどと我ながら好奇心旺盛で肝の据わった子供だったらしいと頷いているリゼルは、ギルドを訪れたのはテンションの上がりきったイレヴンがとにかくジルを探していた為で特に自分から行きたいと言っての事ではないとは知らない。

警告ボードに目を通し、今日は風が強い所為で海の迷宮には行けないようだとさらっとチェックする。元々行く予定は無かったので良いがと思いながら依頼ボードの前へと足を進めた。

「俺、あまり肉料理って食べなかったんですか?」

「や、リーダー結構食ってた」

「肉に限定しねぇけど、量は食ってたんじゃねぇの」

「へぇ」

何となく気になったので聞いてみれば、意外な言葉が返ってきて感心したように頷く。

今でも鎧王鮫の時などたくさん食べたい時は平気で食べるが、普段は冒険者として考えれば小食なので想像がつかない。小さい頃にそうならば今もう少し冒険者らしい体格になっていても良いのではと思うが、頭を使うにも多大なエネルギーが必要なのだからリゼルはそちらで取り込んだ栄養を使いきったのだろう。

そのお陰で元の世界の国王の役に立てているのだからと自分を納得させ、冒険者達で混み合う依頼ボードの前に立った。相変わらず朝は混んでいる。

「最近君達は満足に体動かせてなかったですし、戦闘系の依頼が良いでしょうか」

「あー、やっぱそっちのが良いッスね」

「好きにしろ」

ならば迷宮か国外か。ランクは上の方が良いかと、冒険者達が一番多いC・Dランクを通り過ぎて今受けられるランクで一番高いAランクの依頼ボードの前に立つ。

「んー……あ、アンデッドの素材入手があります。俺まだ見た事ないし、どうでしょう」

「止めとけ」

「え?」

「ここらでアンデッドが出るのなんて“腐敗した墓場”ぐらいだし、床ぐっちゃぐちゃで臭くて何かヌメッてしてんスよ。リーダーだいじょぶ? 俺はイヤ」

それは嫌だ。リゼルは諦めた。

何だかんだで貴族なリゼルなので受け入れられる部分と受け入れられない部分がある。例えアンデッドを見てみたくても行きたくはない。

アンデッドは人型が多く、運が良ければ素材として良い装備や装飾品が手に入るのだがいまいち人気が出ない理由がそこにある。汚れてナンボの冒険者でもヘドロのようなものが絡みついた装飾品には出来るだけ触りたくない。

とはいえ比較的割は良いので嫌がりながらも選ぶ冒険者も少なくはないのだが、リゼルはどうしても嫌だった。靴の裏がグチャッとでもなったら一歩も歩きたくない。

「じゃあ、久しぶりにゴーレムとかも良いですね。“緑ゴーレムの核入手”」

「良いんじゃねぇの」

「異議ナーシ」

ならばこれにするか、とリゼルはジルが取ってくれた依頼用紙を受け取り見下ろした。

【緑ゴーレムの核入手】

ランク:B〜A

依頼人:ツールズ魔道具工房・アスタルニア支店

報酬:核一個につき銀貨8~12枚

依頼:緑ゴーレムの核を入手して貰いたい。

ただし魔道具製作に使用するので無傷のものに限る。

大きさの大小で報酬の変化あり(基準は裏詳細による)

ゴーレムはとにかく固い。剣などほとんど通らない程に固い。

そしてそれぞれが属性を持ち、緑ゴーレムならば風の属性を持っている。それは核が風の魔力を持っている所為で、お陰で風属性の魔法は吸収される上に火や水など物理攻撃同様ほぼ無効化されてしまう。

有効なのは正反対の属性魔法のみで、今回ならば土属性の魔法だけが効果的なダメージを与えられる唯一の手段だ。とはいえ物理も魔法もほぼ効かない筈の白ゴーレムを自力で倒せるジルとイレヴンがいるのならば苦戦しようが無い相手なのだが。

「これさぁ、前受けた白ゴーレムとランク変わんねぇけど何で?」

依頼用紙を受付窓口まで持って行こうと歩いていると、用紙を覗きこむようにイレヴンが問いかけた。

リゼルも足を止めないまま依頼用紙を見下ろす。確かに色つきのゴーレムと比べると白ゴーレムの方が明らかに難易度は高い筈だ、流石に報酬は此方の方が低くなってくるがランクは同じなのはおかしい。

「恐らく国の違いでしょうね」

「同じ魔物で国の違いってあんスか」

「違いますよ、冒険者側です。アスタルニアって魔法使いがかなり少ないですし、多分属性付きの装備を使って戦うことを前提としてランクが設定されてるんだと思います」

「あー」

成程、とイレヴンは頷いた。

同じ属性でも魔法と属性付きの剣では火力が違う。ならば難易度が上がるのも仕方が無い。

そんな事を話しながら受付窓口へと向かった時だった。馴染みの筋骨隆々なギルド職員が船上祭前の時のようにカウンターの隅を陣取っているのが見えた。

良く良くみると“迷宮品展示窓口”という以前見た事のある札が立っている。

「あぁ、そういえば迷宮品返して貰って無かったですね」

「そういやそんなんもあったな」

「忘れてたッスね」

自信のある迷宮品を提出する為に、売れば高値のつく希少な収入源を忘れる冒険者はいないのだがリゼル達は普通に忘れていた。いや、ジル達は普通に忘れていたが物事を余り忘れないリゼルに限っては若干忘れたかった事もあり記憶からぽろっと抜けていたのかもしれない。

とはいえ思い出してしまえばギルドに無償で寄付するつもりも無く、戦利品もある筈だしと足を止めた。頬に落ちた髪を耳にかけながらジルを見上げる。

「ちょうど空いてますし、寄って行って良いですか?」

「ああ」

頷いたのを確認し、イレヴンにも了承をとってリゼルは依頼用紙を畳みながらそちらへと進路を変えた。ん、と差し出されたジルの手に依頼用紙を預ける。

近付いて行くとすぐに気付いたらしく、職員は組んでいた腕を解いてすぐ隣にある扉を開き中に向かって声を張り上げた。

「おい次はあの三人組だ! 王冠あったろ、準備しとけ!」

「あれだけで伝わるんですね」

「三人組なんざ他にもいんのになァ」

可笑しそうに笑い、リゼルは窓口の前に立つ。扉の向こうに顔を突っ込んでいた職員が何やら難しい顔をして何枚かの用紙を睨みつけながら戻ってきた。

「おはようございます、職員さん」

「おう。迷宮品の回収で間違いねぇな?」

「はい」

頷くと、職員は用紙を机に置いてペンでチェックを付けて行く。

さり気なく覗きこんでみるとそれは冒険者と迷宮品のリストのようで、見る限りすでに取りに来た者達が大半のようだ。その日の収入でその日を暮らす冒険者達にとっては早く迷宮品を取り戻して売ってしまいたいか、有効な装備ならば使いたい思いが強いのだろう。

道理で空いている筈だと、まだ受け取っていない者が残りわずかとなっているリストを見下ろしながら思う。

「お前らは王冠だったな」

扉が開き、中から手渡された箱の中を確認して職員は頷く。

箱は貰えないようなので差し出された中身だけを受け取り、リゼルは確認もそこそこにポーチの中へと仕舞いこんだ。元々ギルドがすり替えるとは思っていないし、効果付きの迷宮品は容易にすり替えられるものでもない。

「そういえば、もう一つ俺達が受け取る筈の迷宮品がある筈なんですけど」

「ん? ああ、そういう事か」

成程と職員は頷いた。とあるパーティが展示した迷宮品はリゼル達に渡せと悔しげに言っていたが、その時は意味が分からなかったもののリゼルが把握しているのならばおおよその予想は付く。

恐らく夜の船上祭で賭けでもしたのだろう。確かにいかにもギャンブルに慣れていなさそうで一見穏やかなリゼルだが、その両隣に何故気付かなかったのかと職員からしてみれば心底疑問だ。

恐らく酒も多大に入っていただろうし一対一で勝負するからと油断したのだろうが。その不注意さに思わず冒険者ランクを下げたくなる。

「待ってろ、今用意させる」

「流石に上位ランクにもなれば出し渋りませんね」

「賭けで負けたのにグダグダ言う奴ァ男じゃねぇよ!」

ハッハッと笑い声を上げる職員に、流石アスタルニアの男だとリゼルは微笑んだ。

当然のように言ってくれたが、恐らく他国では上位ランクだろうと出し渋る者もいるだろうという見解をギルド職員は持つだろう。アスタルニアの冒険者達は直情型で策略には向かないが、その分考え方は良くも悪くもスッパリと潔い。

だからこそ余計に冒険者だと思われないのだが。そんな意味を込めてジルとイレヴンはじっとリゼルを見ていた。

「まぁ形式的な確認だけはして貰うがな。相手のパーティの名前を聞かせてくれ」

確かに賭けた迷宮品の価値は高く、ギルドもほいほいと渡すわけにはいかない。

とはいえ今回は特に何かが疑わしい訳でもないので簡単な確認はさせて貰う程度だ。互いのパーティの照合だけで軽く終わらせる筈の職員だったが、どれだけ待っても返って来ない返事に何だどうしたとリゼル達を見た。

リゼルがジルを見る。首を振られていた。リゼルがイレヴンを見る。肩を竦められていた。リゼルがすっと顎に手を添えて考え、一つ頷く。

「多分Aランクでした」

「そりゃ分からんって事か」

ふいに隣の扉が開き、運ばれてきた約束の迷宮品を受け取りながら職員はどうしたものかと唸った。まさかこんな初歩的な確認さえ出来ないとは。

間違いないのだし渡してしまえとも思うが、職員としては形だけの確認ぐらいはしておきたい。

「あー……パーティメンバーの名前とかでも良いぞ。一人ぐらい何とかならんか」

「名前は全く……あ、五人組でした。リーダーが三十代前半くらいです」

「すっげぇ偉そうな雑魚だった」

「三人が剣、一人が弓で一人が短剣」

「そういうの、ジルって見ただけで分かるんですね」

誰も腰に得物をさしていなかった筈なのだが、とリゼルは感心したように言う。

数少ないAランクで、しかも戦闘パターンまで限定されているのだから此れで良いだろうか。良いかもしれない。まぁ良いかと思い始めた時だった。

ふいにイレヴンがトントンと指でリゼルの肩を叩き、そして視線が合うと目で後ろを促す。どうしたのかとリゼルが後ろを振り返れば、ほら早く早くと何やら忙しなく話し合っていた冒険者達の内の一人がスッと一枚のボードを持ち上げた。

『正解は“デュンケル”!』

リゼルは前の職員に向き直り、そして自信を持って宣言した。

「確か名前はデュンケルでした」

言うまでも無いが職員からも丸見えだ。

むしろさっきから見えていた。リゼル達が該当パーティの特徴を並べるにつれ「あー……」と冒険者達がそのパーティへと辿りつき、Aランクともなれば普通は知らない筈も無く最終的に話が聞こえる範囲にいた者達がもどかしさにそわそわしていたのをハッキリと見ていた。

人の騒動に顔を突っ込みたがるのはアスタルニアの人間に共通する為に不思議とは思わないが、しかし助け船を出す程に人が良かったかと心底疑問に思ってしまう。分からないでもないが。

何となくもう少し見てみたい気持ちに駆られ、職員は更に質問を重ねた。好奇心に負けた。

「……そりゃパーティ名か? それともお前がさっき言ったリーダーか?」

リゼルがもう一度振り返る。一斉に冒険者の手で形作られたPの文字が輝いていた。

しかしこいつら丸見えなのにいかにもコソコソ手助けしてる空気は何なのだろうか、そう考えている職員に向けられたのはリゼルのやはり自信ありげな顔だった。

「パーティです」

「良し、もう何でも良い、持っていけ」

後ろで無言のハイタッチが交わされる中、リゼルはほのほのと微笑んで渡された箱の中を覗きこんだ。一応広い意味では賭けを用いて自力で手に入れた迷宮品だと言えるだろう、つまり初めて手に入れる冒険者らしい迷宮品だ。

そして覗きこんだ先にあったのは、一本の酒瓶だった。まさか本当に酒が迷宮品と言う訳では無いだろうと取り出してみると、貼られているラベルはそこらの店で必ず目にするような極々一般的なエールのラベルだ。

「ラベルの酒がどんだけでも湧き出る酒瓶だ。毎晩飲むような冒険者にとっちゃ垂涎モノの代物だぜ」

「えー、安物じゃん。大して美味くもねぇし、まぁ酔いてぇだけなら充分だけど」

「使わねぇ装備よかマシだろ」

飲めない。

緑ゴーレムは“鉱石樹の森”の迷宮で比較的出やすい。

迷宮内は名前の通り森だが、良く良く見ると木や草や石まで全てが鉱石で形作られているのだと分かる。触る葉は薄く透き通っているが確かに曲がる事無く硬く、木の幹は一見茶色く木肌らしい凹凸もあるが触ってみるとツルリとした感触がする。

空を見上げて見れば夜空で、月明かりを鈍く反射するそれらは幻想的とも言えれば不気味とも言えるだろう。ほとんどが緑と茶色の鉱石なのだから華やかさは無く、しかし落ち着いた空間だった。

「朝から夜の迷宮に入るって、ちょっと不思議ですよね」

「一日中夜だからな」

やはりいつのまにか攻略していたジルのお陰で魔法陣が使える。

リゼルは足元で光る魔法陣の上に立ち、夜空を見上げた。先程まで昇りかける太陽を見ていたのだから体の感覚が変になりそうだ。

ふわり、と足元から光が立ち上り髪を揺らす。その髪をそっと押さえ耳へとかけながら、今日変な時間に眠くなったらどうしようなどと考えていた。

そして直ぐに辿りついたのは中層の後半である二十階。森型などの迷宮は一階層一階層が広大な為に階数自体は少なめの迷宮が多いので、ここも全三十五階層と迷宮にしては少なくなっている。

「良し、じゃあ行きましょうか」

「リーダーそこ罠」

踏み出そうとした一歩目で罠があるとは、とリゼルは足元を見下ろした。

パッと見は分からないが、良く見ると転がる鉱石の中に一つだけ色の赤味が濃い石が混ざっている。恐らく蹴るか踏むかすれば破裂したりするのだろう。

危ない危ない、とそれを跨いで改めてゴーレム探しを開始した。

「俺も結構罠に気付けるようになったと思ってたんですけど、まだまだです」

「良いんじゃねぇの、大規模なヤツなら気付くだろ」

「大規模? あ、前の隠し部屋の落とし穴ですか?」

「大侵攻」

確かに、と頷くリゼルとは別にイレヴンはえーという顔を隠そうともしない。隣国の天才により引き起こされた商業国の危機が罠で一括りにされた。

ああいった人の意図が深く関わるような罠だったらリゼルも気付けるのだが、迷宮により何の悪意も狙いも無くポンッと用意された罠はまだまだ気付かない事が多い。これに関しては全力で空気を読んで貰った方が読みやすいのだが、罠に限ってはそういったものは少なかった。

「お、鉱石トカゲ」

「やっぱりこれ系の魔物が多いですね」

しばらく歩いていると、体の表面に鉱石を纏った一メートル程のトカゲが数匹姿を現した。

足元を這う様に、素早く移動してくる魔物へリゼル達は武器を構える。リゼルの魔銃が鳴り響き、トカゲの表面を覆う鉱石を弾き飛ばすと同時に戦闘は始まった。

とはいえ中層の魔物相手に苦戦することも無く、三人は悠々と戦闘を終了させて歩みを再開させる。

「剣悪くなりそうッスね、スパッと斬れるけど」

「てめぇのは特に薄いからな、変な使い方すりゃ曲がんぞ」

「んなヘマしねぇって」

迷宮品で不壊や不研磨の加護がついているなら平気じゃないのかとリゼルは不思議に思うが、それでも手入れは必要だというのだから何かが変になったりもするのだろう。ジル達がそれでも同じ得物をずっと使っていられるのは、その加護のお陰もあるだろうが高い技量で下手な使い方をしない為でもある。

剣については分からないなとジル達の会話を興味深そうに聞きながら、出しっぱなしにしている魔銃をくるりと回転させた。ジル達に言わせれば魔銃の操作の方が心底分からない。

「あ、リーダーあっち」

「ゴーレムですか?」

「でかいのがいるから、多分そッスね」

ゴーレムでは無いが何度か魔物と遭遇しながら進んでいた時だった。二十階から一つだけ進んだ二十一階で、ふとイレヴンが薄らと暗い森の奥を指差した。

この迷宮では特別大きいと言えるのはゴーレムぐらいだ、恐らく間違いでは無いだろうと其方へと向かう。パキリパキリと鉱石の草を踏み砕く音をさせながら歩いて行くと、ようやくリゼルにもイレヴンが聞いたであろう音が聞こえてきた。

「大きさは白ゴーレムと変わらないでしょうけど……何匹ぐらいいそうですか?」

「多分二匹」

「間違いねぇだろ」

音だけで良く分かるものだと微笑み、リゼルもその音が聞こえる方向に耳を澄ます。

まるで普通の木々が風に揺らされたようなザワザワという強い音と、その合間を縫って聞こえる確かに鉱石同士がぶつかっているだろうキンキンというか細い音が聞こえた。何か巨大な者が木々をかき分けながら此方へと向かって来ている。

徐々に聞こえ出すのは腹に響くようなズシンという重厚な音で、一定の間隔で近付いてくるそれに他の魔物達はざわりと姿を消したようだった。

そして木々の間から姿を現したのは鈍いエメラルド色をした巨体、ほとんど光を反射しない体が時折月を映して色を変える。見上げる程に大きなゴーレムが、今まさに姿を現した。

「四メートルと五メートル、でしょうか。洞窟の中で見るゴーレムも大きかったけど、天井が無い場所で見るゴーレムも凄い迫力です」

「お前十メートルぐらいの見てんだろうが」

「あの時は城壁に登ってたので。それに大き過ぎると逆に実感が無いじゃないですか」

「それ分かるー」

ほのほのと笑うリゼルに、ジルは溜息をついて微かに剣の切っ先を揺らした。

目の前ではゴーレムが敵対する存在を見つけたのだろう、一定の間隔で動かしていた足を止めて空洞の目で此方を見ている。ゆっくりと振り上げられた拳は天から振り下ろされる錯覚を持つ程に高く見るからに強大で、しかしリゼル達は焦る事無く後ろに下がった。

「で、どうすんスか。リーダー土魔法でやんの?」

「魔法も良いですけど、ちょっと魔銃を使ってみたいんですよね」

ドゴォッと地面へと振り下ろされた拳が地面を作る数多の鉱石を砕く。

飛び散る欠片が月明かりに照らされ微かに輝いていた。

「お前ランダムだからって使いたがらねぇだろうが」

「だから実戦でどれだけ使いものになるか試してみたくて。ゴーレムだと硬いし遅いし良い練習相手になりそうです」

ズシン、と足音を鳴らしながら二匹のゴーレムがリゼル達へと近付いてくる。

やりたいならばやれば良いと、ジルは剣を構えて近付いてくるゴーレムへと肉薄した。ゆっくり実験したいと言うならば二匹いては邪魔だろう、剣を一閃し丸太よりも太い石とも鉱石とも分からない足を切断する。

ぐらりと傾きながらもジルを握りつぶそうと巨大な両手を伸ばすゴーレムのその手を斬り捨て、倒れるならば下敷きにしようとでも言うのかバランスを崩して迫って来る頭に力の限り剣を振り下ろす。

バキンッと凄い音と共に、剣など弾き返す筈のゴーレムの体が頭から崩れた。巨大な岩が幾つも落下するような音を立てながら崩れ落ち、完全に動かなくなる。

「ジル、核は?」

「どっかにあんだろ」

恐らく今回は斬らないよう配慮してくれた筈だ、と微笑みリゼルはゴーレムの解体をジルへ任せた。そして残り一体となったゴーレムへと向き直る。

魔銃を構え、さて最初はどうしようかとゆっくりと此方へ向かって来るゴーレムを見ながら考えた。

「ランダムで色々起こるっつうのは聞いたことあるけど、実際どうなんの?」

「そうですね。隆起したり、埋没したり」

ふんふん、とイレヴンは隣に立ってさり気なく双剣を構えながら頷いた。

その辺りは一般的な土魔法と大差ないだろう。岩の刺を生やして攻撃するのは見た事があるし、地面を埋没させて相手の身動きを封じたりするのも見た事がある。

「突然爆発したり、相手を地面に引き摺りこんだり」

そこらへんも珍しいが有り得るだろう。土魔法を攻撃として利用する魔法使いが似たような魔法を使っている。

「変な像が建ったりします」

「変な像が建ったりする!?」

予想外過ぎた。

聞こえていたジルも呆れたような顔をしながらゴーレムを踏み砕いている。

「どんな像が建つんスか」

「これもランダムなので、何とも……あ、でも野営の時試してたら魔物の像とか君たちの像とか建ちましたよ」

「えー、じゃあ今もどっかに俺の像建ってんの」

「それは大丈夫です。ちゃんと壊しましたし」

それはそれで複雑だが。

何とも言えない顔をしているイレヴンに可笑しそうに微笑み、そろそろ始めようと肉薄するゴーレムの足元に銃を向けた。土属性の弾に関しては相手では無く土や岩などに作用するので、直接的な攻撃には向かない。

軽く持ち上げた手の指をくっと曲げ、魔力操作で魔銃の引き金を引く。タァンッと鋭い音が鳴り響いた。

「ゴーレムがすっげぇ落ちてった!」

「埋没だったみたいです」

ストーンッと今まさに攻撃しようと腕を振り上げた格好のまま真下に落ちて行ったゴーレムに、どれだけ深い穴が出来たのかとイレヴンは綺麗な円の形に造られた穴を覗きこむ。ちょうどゴーレムがすっぽり入る大きさだ、中ではゴーレムがどうする事も出来ず固まっている。

リゼルもイレヴンの隣から覗きこみながらそれを確認し、もう一度魔銃を構えた。

「これって動きは封じられますけど、逆にこっちも攻撃できませんよね。こう、上手いこと地面に当てたらグサッてならないでしょうか」

「ああ、岩の爪みたいなの生やしてッスか」

そうそう、と頷いてリゼルは早速とばかりに発砲した。

ゴーレムの隙間を縫って穴の底へと命中した弾に、ゴゴゴと小さく地面が揺れる。これは上手く行くかも、とリゼルが期待した時だった。

「あぶねッ」

「わ」

勢い良く腕を引かれたリゼルの目前にゴーレムの巨体が突如現れる。

落とし穴の底が地面を揺らした名残など何も無く、スッとスムーズに持ち上がり何事も無かったかのようにゴーレムを元の配置に戻した。もはや攻撃かどうかも定かではない。

ふいに振り上げていた拳をそのまま勢い良く振り下ろされる。リゼルは咄嗟に避けようとしたが、しかしそれよりも早く腕を掴んだままのイレヴンによって引き寄せられる。

「リーダーもう使わねぇ方が良いんじゃねぇの、それ」

何故リゼルが実戦で土属性を使わないのかイレヴンは心底納得した。

もはや爆笑すれば良いのか引けば良いかも分からない。

「いえ、でも時々まともな効果も出るんですよ。あ、ほら」

「お、ホントだ」

叩きつけられたゴーレムの手元を狙って発砲する。地面から伸びた鋭い岩の先がバキバキとその巨大な拳へと突き刺さり固定した。

そして今がチャンスとばかりにリゼルは銃をゴーレム本体へと向ける。ゴーレム自体も岩や土塊のようなものだ、それならば埋没しようが隆起しようが直接的なダメージが望める。

一体どんな効果が出るかと思いながら数倍の魔力を込め、そして発砲した。

「なんかでっかい城生えた!!」

「あ、俺の所の城ですね。綺麗でしょう?」

「これ絵画で残ったら凄ぇ高値付くんじゃねぇの」

変なアート作品みたいなのが出来た。

核の回収が済んだのだろう、近付いて来たジルから核を受け取りながらリゼルは懐かしいなとゴーレムの背中から隆起している元の世界の城を眺める。そして懐かしいと思う程度の時が過ぎてしまったのかとしみじみとしているリゼルの前で、重みにバランスを崩したゴーレムが耐えきれず倒れ込んだ。

倒れ込んだその頭部をジルがそのまま思いきり踏み砕く。そのゴーレムの背中で月明かりに照らされる精巧な城を見て、リゼルは何かを理解したように頷いた。

「やっぱり実戦で使うのは諦めます」

「そうしろ」

その後はリゼルは土魔法で効率よくゴーレムの相手をしながら、取り過ぎた以前とは違い程々の核を集めて依頼を終えた。

ただ諦めきれなかったのか時々土属性も撃っていたが。その都度やけにクオリティの高い真顔ピースのジルが出たり真顔ダブルピースのイレヴンが出たりしたので、リゼルは完全に諦めた。

宿へ帰り、それぞれが自由に過ごしながら時間を潰し夕食の時間になった頃。

今日は三人共夕食時に宿に居たので食堂に集まり夕食をとっていたのだが、その机の上には朝手に入れたばかりのエールの瓶が置かれていた。ジルとイレヴンはそこから次々と自身のグラスに酒を注いで飲み干している。

飲めないリゼルは水を飲みながらソテーを食べ、その光景を眺めていた。

「美味しいですか?」

「普通じゃねぇの」

「そこまで酷ぇ味はしねぇし、あって損は無い感じッスね」

ジル達にしては充分褒め言葉だろうそれを聞きながら、注いでいる筈なのに減らない瓶を眺める。

酒場に行くと漁師も作業員も誰もが最初にこれを頼んでいた。冷えたヤツが良いのだと聞いたし、ぬるくなったらマズイとも言っていた。

試しに手を伸ばして瓶へと触れて見ると冷たい温度が指に触れ、成程ならば美味しいのだろうと頷く。

誰もがとりあえず頼み、そしてジルとイレヴンも当然のように飲んでいる。何だか自分も飲めるように思えてくるのだから不思議だ。

元の世界では貴族社会で記憶が飛ぶなどあってはならない事だと自粛していたが、思えば此方の世界では少しばかり記憶が飛ぶぐらい問題無いのではないか。良く馴染みの酒場で会う作業員たちも気付けば家で寝ていたなどと良く言っているし。

「いける気がしてきました」

「えっ、じゃあリーダー一口」

「無理だ」

リゼルの前から瓶を遠ざけながら平然と却下するジルに、確かにあの二日酔いは辛かったしと素直に諦める。残念そうなイレヴンにソテーをフォークに刺して差し出してみれば、パクリと嬉しそうに食べていた。

「味覚っていきなり変わるって言うし、いつか飲めるようになれば良いんですけど」

多分無理だろうなと、ジル達はそう思いながらも口には出さなかった。