軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95:慰めてくれる年下が恋しい

船上祭が近付いていようとリゼル達がやる事に変わりは無い。

冒険者として依頼をこなし迷宮に潜り、そうで無い時にはそこらへんをブラついたり知り合いに会ったり、アリムの古代言語の教授も余り日を空けずに行っている。そろそろ教授も終わる目途がついてしまった、そんな事を話しながら今日も朝からギルドを訪れていた。

「何が不満なんだよ」

「まだ読みたい本が残ってるのに教授が終わっちゃったら困るなぁ、と思いまして」

「あのデンカだったら別に何も無くてもリーダー入れてくれるんじゃねッスか」

「どうでしょう、それでも大義名分があるに越したことは無いと思うんですけど」

扉を潜りギルドへと足を踏み入れ、慣れたように人々が集う依頼ボードへと向かう。

その横にある警告ボードへ目を向けるのは既に習慣で、明け方の大雨で地盤が緩んでいるらしくジャングルの所々に赤のチョークで×が付けられていた。これは地崩れ注意のマークだ。

注視することなく軽く目を通し、依頼ボードの前へ立つ。相変わらずFランクから目を通していくリゼル達へ、もしFランクを選ぶのなら何を選ぶのだろうと気になっている周囲の視線が集まる。ただ目を通すだけで無い事は時々本当にFランクを取って行くリゼルが証明していた。

「あんだけ読んどいてまだ何が気になんだよ」

「だって王宮の書庫だけあって珍しい本も多いんですよ。この前読んだ本なんかも興味深くて、古代言語が使われていた時代に存在した戦闘民族の中には魔力を」

「おら」

ジルは生き生きと語り出しそうだったリゼルの頭を掴み、ふいに横を向かせる。聞いてくれても良いのに、と思いながら素直にそちらを見ると待ち構えていたようにピラリと一枚の紙を此方へ向けているイレヴンがいた。何と言う連携プレイ。

しかし感心するより先に、向けられたポスターのような紙が目に付く。それはまさにポスターか広告で、一番上には“冒険者ギルド主催・迷宮品展示”の文字があった。

「迷宮品募集。船上祭にギルドも参加するんですね、この企画って賑わうんでしょうか」

「迷宮品なんて普通なら滅多に見ねぇし、そこそこじゃねぇスか」

冒険者にはそれなりに馴染みの迷宮品だが、それ以外の人間にとっては商人でも無い限り余り馴染みが無い。絶対数が少ない上に、大衆へと売り出される事が少ないからだ。

迷宮の宝箱からいつも迷宮品が出る訳でもなく、むしろ迷宮でなくても店で手に入るような武具や道具などが一般的で深層の宝箱からでも出なければ大した値の付かないものばかりだ。迷宮固有のものが迷宮品と呼ばれており、種類は多岐にわたるが特殊な効果が付いていたり希少だったりするものの、その特異性ゆえに店に並ぶ事無く求める誰かの手に渡ってしまう事が多い。

「ん、詳細が書いてないですし分かりにくいですね」

「毎年やるっつうんなら書く必要なんざ無ぇんだろ」

「リーダー参加してぇの?」

「参加すればそれなりのメリットがあると思うので」

気になる、と言いながらリゼルは覗きこんでいたポスターをイレヴンの手から受け取った。

参加手続きは専用窓口まで、と書いてあるのに気付きいつもの依頼カウンターを見る。すると一番端の窓口に馴染みの筋骨隆々なギルド職員が立っており、その前には“迷宮品展示窓口”と札が立っていた。

そしてギルド職員と目が合う。何故か厳しい目を向けられた。

「広告を剥がすんじゃねぇ! 何枚も無ぇんだから!」

「あ、これ何処かに貼ってあったんですか?」

「あっち」

「駄目じゃないですか。ほら、戻して来なさい」

イレヴンが指差したのはギルドからのお知らせなどが貼ってある掲示板で、確かに一番目立つだろうその中心にぽっかりとスペースが空いている。いつの間に、と思いながらイレヴンにポスターを渡すとしぶしぶと貼り直しに行っていた。

「あ、曲がってます」

「あいつ雑だな」

本人も曲がったことには気付いたようだが、まぁ良いかとそのまま戻って来た。恐らく後で職員の誰かが貼り直してくれるだろう。

リゼル達はとりあえず詳しい話が聞きたいと専用の窓口へと向かう。向かった先ではギルド職員が若干斜めになったポスターを眺めたが、諦めたように首を振っていた。

「お早うございます、職員さん」

「おう。あの広告に関してだな?」

「はい」

リゼル達の用件を先回りして言い当てた職員は、恐らく今までにも何組か同じような説明をしているのだろう。それならば予めポスターに詳細を書いておいた方がと思うが、毎年恒例の事で初見が少ないというのならば口頭で説明してしまった方が早いのかもしれない。

アスタルニアは地形的に入って来る冒険者も出て行く冒険者も少ないのが特徴なので、大した手間ではない。

「まぁやるこたぁ見たままだ、お前らに迷宮品を取って来て貰って俺らがでかい船貸し切って展示する。結構盛況なんだぜ」

以前聞いた魔物の人気投票といい今回といい、このギルドは意外と冒険者とギルドに親しみやすさを感じて貰おうと色々しているらしい。国民の気質もあり、良くも悪くも盛り上がり過ぎて喧嘩や騒動で冒険者被害が出やすい所為か。

同じような気質をもつ国民たちなので易々と悪感情は持たないだろうが、しかし対策が洒落っ気に溢れている。此処のギルド長は良い趣味をしているらしい、とリゼルは一つ頷いた。

「迷宮品って何でも良いの?」

「種類は問わねぇな。ただ此処で申し込んでから取って来たやつに限る」

「は? 何で?」

「見栄張って店で買われちゃ面白くねぇだろうが。運と実力で手に入れた全力で空気読まれた迷宮品を見りゃ、そのパーティがどんなパーティか一目瞭然だしな。それも醍醐味だろ」

迷宮品はパーティ名付きで展示されるらしい。無い場合はパーティメンバーの名前が綴られる。つまり余りにチンケな迷宮品を出す訳にはいかない。

他者に譲って貰ったり買ったりするのを防ぐために、申し込みを済ませた後に手に入れる迷宮品に限定をしているようだ。

大笑いをしながら語るギルド職員は長く勤めているだけあって色々な迷宮品を見てきたようで、今回も随分と楽しみにしているらしい。

「出来りゃ、お前らにも参加して貰いてぇんだがな」

「何でですか?」

「そりゃ深層も深層で出るような迷宮品は集まりにくいからな。全員見栄張っていつもより潜るたぁいえ、本当の実力者じゃねぇと潜れねぇような深層で出る迷宮品をガンガン展示すりゃギルドの株も上がるってもんだろ」

冒険者に見栄を張るなと言っておいてギルドは張りたいようだ。

ニヤリと笑う職員に苦笑し、どうしようかとリゼルは髪を耳にかけながら考える。ギルド的に欲しいのは普通の人から見て分かりやすく凄い、ともすれば伝説のと上に付きそうな迷宮品だろう。

それならば以前ジルがいかにも雰囲気のある漆黒のフルプレートを出して黒い黒いとイレヴンに爆笑されていたし、イレヴンも装飾過多で煌びやかなカトラスを出して使いにくい使いにくいと言っていたので期待には応えられそうだ。

「参加したら何か見返りってあるんですか?」

「そりゃあな。持って来た迷宮品を値段で大体のランク分けして、下から魔道具貸出半額だの無料だのそれが一回だの三回だの特典を増やしてんだ」

成程、ギルドの機能を最大限に活かしてメリットを作っているのだろう。

祭り事だし大した物は用意していないというが、日銭に追われ満足に道具を揃えられない下位には嬉しい仕様だ。上位になろうと必要になる魔道具は増え、魔道具も貴重で高価なものになっていくので有難い。

リゼル達に関してはジルが力技で何とかしたりイレヴンが器用に何とかしたりリゼルが自由な発想で何とかしたりするのでその限りでは無いが。商人少女のツッコミが響き渡りそうだ。

「んー、どうしましょう」

「貰った迷宮品は返すし、やってみちゃどうだ? 参加料は貰うがな」

見返りに魅力は感じないが、冒険者として船上祭に参加するのは楽しそうだ。

リゼルは相変わらず意外と真面目に冒険者をやっている。参加してみたい気もするが、とゆるりと首を傾げた。

「ジル、どうですか?」

「やりてぇならやれ」

「イレヴンは?」

「お好きにドーゾ」

此方を見下ろし軽く顎で促すジルと、目を細めてニコリと笑って見せるイレヴンに頷く。

今日は“人魚姫の洞”では無い海にある別の迷宮に向かってみようと思っていたが、変更になりそうだ。

「参加します」

「そうこなくちゃな!」

微笑んで告げると、ギルド職員は腕を組んだまま胸を張って満足げに笑う。

彼も例に漏れず祭りが大好きなアスタルニア国民だ。祭り初体験のリゼル達に祭りの楽しさを知って貰いたいし、ギルドの見栄など無くとも実際に参加して欲しいのが本音だろう。

「ちゃんと申し込んでから手に入れた迷宮品っていうなら、何か不正出来ないような方法があるんですよね?」

「おう、流石だな。ギルドカードいじって手続きすんだ、そいつが手続きして最初に手に入れた迷宮品が分かるようにな」

倒した魔物の数も迷宮の踏破状況も分かるギルドカードなので、そういった事も可能なのだろう。かなり複雑な魔法式が使用されているギルドの魔道具だが、その相当な応用の利き方は恐らく迷宮品も組み込まれているのではというのがリゼルの予想でもある。

「最初の迷宮品だけですか?」

「ああ、選べちゃ面白くないだろ。ここら辺迷宮が空気読んでくれんだか何だか、なかなか特色溢れる面白いモンが出るからな」

迷宮も祭りとなればノリが良くなるのだろうか。いや、いつもか。

成程と頷き、リゼル自らのポーチからギルドカードを取り出す。そしていつものようにジルとイレヴンの分も纏めて職員へと渡そうとした時だった。

「あ、お前の分だけで良いぞ。リーダーのカード、ようはパーティの顔でもあるリーダーが出した迷宮品を出して貰う」

ジルがリゼルを見た。ニヤニヤしている。

イレヴンもリゼルを見た。ニヤニヤしている。

リゼルはカードを受け取ろうとした手を止め、じっと自分のギルドカードを見下ろした。

「おら、腹くくれ」

「ちょっと待って下さい」

「リーダーほらほら、カード出さなきゃ」

「考え中です」

促すように背を押されたり腕をつつかれたりしながらリゼルは考えた。

冒険者らしくなる事を諦めていないリゼルにとって此処は正念場だ。例えばテディベアなど出そうものなら周囲から余計に冒険者らしくないと思われるに違いない。

今まで手に入れた迷宮品を思い返してみる。一番冒険者らしい迷宮品は何だっただろうか、ボタンを押すと鳴く巨大迷宮ボスフィギュアかそれとも迷宮内会話集・戯れに叫んでみた必殺技編の書物か。

レイも大喜びしてたしぎりぎりセーフな気がする、とギルド職員を見る。

「お前らなら白銀のフルプレートやらミスリルの杖やら出るんだろうな!」

いや、アウトだった。

リゼルはジル達が見守る中しばらく色々考えていたが、一つ力強く頷いて顔を上げる。

「男に二言はありません」

「リーダーそういうの何処で覚えてくんの?」

カードを職員に渡すリゼルに、言ってみたいだけだろうとジルが呆れて溜息を零した。

職員は一体何をそれ程に悩んでいたのかと疑問に思いながら手続きをしている。ギルド入会の時に使用したものと同じ、しかし見た事のない装飾を付けられた魔道具にカードをセットしていた。

少し時間がかかるらしく、座っていろという言葉に頷き空いている机へと向かう。朝と言う事もありギルド内は人に溢れているが、さっさと依頼を受けて出て行く者がほとんどで机も空きがいくつかあった。

「受けるんだな」

「はい。実際、何が出ようと損は無いので」

そう言いながら腰かけるリゼルに、確かにと頷いてジル達も座る。

何だかんだで興味を持ったことに対しては遠慮なく参加してきたリゼルだ。今回も色々悩んでいたが参加するとは思っていた。

「じゃあ今日迷宮潜んスよね。深層狙いっつうならニィサン攻略してるとこ?」

「そうですね、その方が楽ですし」

魔法陣が使える所に限定しても次々と迷宮を踏破しているジルのお陰で選択肢は多くある。なら何処に行くのか、と続くいつもの会話の流れも今日ばかりは違った。

「“荘厳なる王城”、踏破してますか。ジル」

「あ?」

「そこが良いです」

穏やかに微笑みながら、しかし珍しく迷宮を特定しているリゼルにジルは訝しげな表情を隠そうともしない。別に文句などないが一体どうしたのだろうか。

踏破はしているので肯定を返すとリゼルは満足げな表情を浮かべ、しかし直ぐに何かを考えるように視線を流した。視線の先では冒険者達がリゼル達の参加を聞き、一体何を持ってくるのかと会話に花を咲かせている。

「出来るだけ王道な迷宮の方が変わり種は出にくいと思いますし。あ、でも確実なのはまだ踏破してない迷宮の踏破報酬……は流石に迷宮品認定されないでしょうか」

損は無いとかほのほの言っておきながらガチだ。

「リーダーいい加減ちゃんとしたモン宝箱から手に入れたいんスね」

「俺らが出すたび不満そうだしな」

例え冒険者らしく無くとも値段を付ければ階層相応な値段がつくものなのだし、リゼルもそれならば特に問題は無いと思っているが諦めている訳ではない。冒険者らしい剣とか装備とか回復薬とか出してみたい。

恐らく迷宮が祭りの為に空気を読んでくれる今回が今までで最大のチャンスだろう。それをリゼルが逃す筈が無い。

「おい、参加手続き終わったぞ!」

「はい。じゃあ行って来ますね」

そう言って受付へと向かうリゼルの背中を見ながら、ぽつりとイレヴンが言う。

「全力で逆に空気読まれそうな気がする」

「言うな」

“荘厳なる王城”はジャングルの奥地にあるが人気の迷宮だ。

理由の一つに階層が多い事。一階層が他と比べて狭いので次の魔法陣へと辿りつきやすく、階層ごとに現れる魔物の強さの落差が少ないので攻略を進めやすい。

それこそ最初の階層はFランクから臨めるし、深層ではAランク相応の魔物も宝箱も出るので純粋に訪れようとする冒険者が多いというのもある。

「混んでますね」

「こんなもんだろ」

なので、朝一の一番混む時間帯は門の前に列が出来ることもあった。

門が開き、一組パーティが入り、閉じる。同じ馬車に乗って来た冒険者達が扉の向こう側に消えて行くのを眺めながら、リゼル達はのんびりと自分達の番を待っていた。

どうせだからと受けてきた依頼の話し合いを進める。流石に出るか出ないか分からない宝箱だけが目的では手持ち無沙汰だ。

「プレートアーマーの腕輪ってどんな腕輪なんでしょう」

「手甲に時々白銀のごつい腕輪付けてる奴がいるんスよ。それ」

「付けてんのは完全にランダムだからあんま出ねぇけどな」

空の 全身鎧(プレートアーマー) である魔物が今回の獲物だ。

城系の迷宮で度々現れる魔物で、この迷宮で出る魔物に関係した依頼がいくつかある中でリゼルがそれを選んだのは一番それっぽかったからだ。襲いかかる鎧の魔物を倒した先にある宝箱、いかにも冒険者らしい装備が入っていそうな雰囲気だろう。

「次だぞ」

「はい」

前に並んでいた冒険者達が門の向こう側へと消える。

まるで本当に王城にありそうな豪奢な門が閉じて数秒、その前へと進み出て石造りの門へと触れると再びゆっくりと開いて行く。リゼルは雰囲気があって良いと思うが、冒険者の中にはパッと開いてパッと閉じてくれれば待たなくて良いのにと言う者が多い。

足を踏み入れると、天井が高くかなり広い王城のエントランスが姿を現した。真っ直ぐに奥へと向かう赤い絨毯、白亜の壁や柱は紋様がデザインされた布に覆われ、装飾が彫られている。下がるシャンデリアは細かいガラスに繊細な光が反射しており、更にその向こう側に見える天井には色鮮やかに絵画が描かれていた。

「リーダー懐かしい?」

「んー、うちはもうちょっとシンプルでした。地味って訳じゃないですけど、研ぎ澄まされてる感じですね」

少女ならば自らを主役に傍らの王子を想像しながら光悦とする空間で、リゼル達は至って普通に会話をしながらスタスタと赤い絨毯の上を歩いて行く。ジルは踏破済み、イレヴンも来た事があるしリゼルもある意味見慣れているしで三人に特に感動はない。

広い空間の真ん中あたり、真っ直ぐと伸びていた絨毯が十字に伸びるように形を変えているその中心で魔法陣がぼんやりと光っていた。真上を見ると丁度シャンデリアの真下で、演出に凝っているのは流石迷宮だと感心してしまう。

「プレートアーマーが出るのは七十階層以降でしたよね、七十から行きますか?」

「最深層までは出た気がするし、もっと先からでも良いだろ」

「じゃあ……百が最深層なので九十九までですね」

「八十ぐらいから進んでって最後にボスっつーのも有りじゃねッスか」

最初の空間は魔物が出ないので、三人はああだこうだと遠慮なく話し合っている。

結構な時間を馬車に揺られているのでその時間にも話し合えるのだが、リゼル達は基本的に馬車に乗ってる間は自らのスペースを確保しながら雑談している事が多い。尤も確保しているのはジルとイレヴンだけで、リゼルは全く乗り慣れない満員馬車の何処に足を置いて良いかも分からないのだが。

「ボスを目指した方が宝箱って出るんでしょうか」

「ランダムだろ。関係ねぇよ」

「此処って小部屋多いじゃん。其処に宝箱出ればそれっぽい気がする」

「良いですね、それ」

開いた扉の向こう側が通路だったり小部屋だったりする迷宮なので、地道に開いて行くしかないだろう。通路か部屋かはランダムだが、通路自体は迷路では無く決まった通路のどれかへと繋がるのでギルドには地図もきちんとある。

リゼルは当然のように普段は利用しないその地図を今回は購入していた。今日の馬車はそれを眺める時間でもあった。

「じゃあ八十階から始めて、最後にはボスを目指しましょう。それまでに宝箱が出れば良いんですけど」

迷宮に潜る度に宝箱を見つけられれば冒険者は苦労はしない。

しかしリゼル達は階層の網羅が早い為か比較的見つけやすいし、二十階も降りている内に一つ二つは恐らく見つける事が出来るだろう。見つけられなければ運が無かったと素直に諦め、出直すだけだ。

リゼル達が魔法陣の上に乗る。ぼんやりと光っていた光が強くなり、慣れきっている少しの浮遊感と共に景色が変わった。

「近ッ!!」

目の前に飛んでいた空飛ぶ本の魔物へと反射的にイレヴンが剣を突き立てる。流石深層ともなると転移すら平和にさせてくれない。

「こういう不意打ちってちょこちょこ有りますよね」

「お前ほぼ顔面で飛ばれてたぞ」

「近過ぎて魔物かどうかも分かんなかった」

開いていた個所から背表紙まで穴を開け、ぼとりと床に落ちる魔物を見下ろしてそんな会話を交わす。

消える前にとリゼルはその魔物を覗きこんだ。似たようなタイプの魔物は別の迷宮で見た事があるが、そちらは中が白紙だったのに対して此方は何か書きこまれている。

「触るなよ」

「分かってます」

ジルの言葉に頷きながらしゃがみ、ハタハタとページを揺らして虫の息な魔物を見た。

ページにはびっしりと書き込まれた波線。何か書いてあるかと思いきや文字では無かった、ただ雰囲気を出したかっただけの様だ。

そんな落書きみたいに、と思わないでもないが迷宮でしか見ない魔物なのでこんなものだろう。確かに白紙よりは格好が付く気がする。

「ちょっと残念です」

「魔物に何を期待してんだよ。行くぞ」

促されて立ち上がり、リゼル達は先へと進んだ。

広い通路が先へと伸びており、時折曲がり角を曲がる。多少は分かれ道もあるが迷う程では無く、既に地図を覚えきったリゼルの足取りに迷いは無い。

「とにかく扉を見つけたら開けて行きましょう」

「小部屋っつっても罠だったり魔物出たりするし、俺開けよっか?」

「なら順番に開けましょう、運だめしです」

可笑しそうに笑っていると、早速通路の壁に石像に挟まれるように存在する扉を見つけた。

誰から行こうかと話し合い、とりあえずリゼルが扉に手をかける。黄金の取っ手を手前に引いて扉の向こう側が露わになる直前、頭に乗せられた手によって踏み込もうとしていた足を止められた。

代わりに突き出された細身の大剣が、ベキンッと凄い音を立てながらリゼルの目の前でプレートアーマーのバシネット型のヘルムを潰す勢いで突き立てられる。

「今日は運が悪いんでしょうか」

「や、目当ての魔物だし逆に良いんじゃねッスか」

真剣に迷宮品は今日じゃ無くても良いし明日にしようかと呟くリゼルに、ケラケラと笑いながらイレヴンも剣を取り出す。扉のすぐ向こう側で巨大な剣を振り上げていたプレートアーマーの後ろにはまだ複数体が待ち構えていた。

乗せられた手が離れるのと同時に、微笑みながらリゼルはくるりと戯れるように指を回して見せた。顔の横に浮かぶ銃に風属性の魔力が込められ、襲いかかろうと近付くプレートアーマーの頭部を射抜く。

「あ、流石にこれだけ近いと通りますね」

「後ろ貫通してねぇぞ」

「本当ですか? いつも通りの魔力量じゃやっぱり足りないでしょうか」

衝撃に動きを止めた魔物の五体を切り離し、床に落ちたヘルムを蹴って転がしながら言うジルに流石は深層だと頷いた。深層でも防御に特化した魔物だとリゼルだけではいまいち決定打に欠ける。

とはいえ単体で深層の魔物を討伐出来る方が異常なので特に気にしない。

「腕輪してんのいねぇなァ」

「どれくらいの確率で出るんでしょう。ジルはどれくらい見ました?」

「わざわざ気にしてねぇよ」

手に入れられる魔物素材があれば欠かさず戦闘後に回収するのが冒険者だが、ジルはボス級でも無い限り放置する。そしてその影響を受けるリゼルも気になる素材以外は放置するし、イレヴンも大した金にならなそうならば放置する。

もし迷宮が他の冒険者も入り混じる場所だったなら、リゼル達の跡をつけようと考える者が必ず出てくるだろう。深層に潜れる程の実力を持っている者に限られるが。

「はい、さーいご」

ヘルムの側面を目に止まらぬスピードで蹴りつけられ、ガンッと鈍い音を立てながら最後の一体が頭部を壁に叩きつけられると共に動きを止めた。

「じゃあ次行きましょうか」

「元の道戻る? 奥の扉行く?」

「奥にしましょう」

入って来た扉とはまた別に、もう一つある扉を三人は開ける。

そして再び始まる王城の廊下、時折襲いかかって来る魔物を殲滅しながら何も無かったり罠があったり通路に続いていたりする扉を開いて行く。

「お」

「あ」

何個目かの扉を開けた時だった。部屋の中央にポツリと置かれている宝箱を発見する。

王城の雰囲気に相応しい、いかにも宝箱らしい豪華な宝箱だ。ジルとイレヴンがリゼルを窺うと、うーんと悩んでふるりと首を振っている。

「駄目です」

「あ?」

「ちょっと寂しい置かれ方をしてますし、きっと良いものが出ない気がします。王城の厨房で使われてる最高級のお玉とかが絶対出て来ます」

宝箱の選り好みをし始めたリゼルに、そこまでかとジルは呆れイレヴンは爆笑した。

納得のいくシチュエーションで無くてはいけないようだ。どうぞと促され、なら遠慮なくと代わりにイレヴンが宝箱を開ける。

出てきたのは装飾されたガラスの瓶に入っている回復薬だった。効果は鑑定してみないと分からないが階層的に上級か中級だろう、特有の痛みが伴わないものかどうかは微妙か。

「何でイレヴンが出すとちゃんとしたのが出るんでしょう」

「やー、でも回復薬じゃ面白味ねぇッスよ」

慰めているのかからかっているのか、掌で手に入れた回復薬を転がしながらケラケラと笑うイレヴンをリゼルは不満そうに見る。恐らく自分が開けていたらまた別のものが出ていただろう。

「納得いくモン見つかるまで探しゃ良いだろうが。次行くぞ」

そうしてリゼルの宝箱探しが始まった。

偶然なのか何なのか出会う宝箱は普段と比べれば多かったが、どれも納得のいくものでは無い。リゼルが求めるのは小部屋にぽんっと置いてあったり通路の行き止まりにひっそりと置いてあったりするものでは無いのだ。

「おい、小さい宝箱あんぞ」

「あれだけ小さいと最高級のアスタルニア茶が缶に入ってるだけかもしれません。違います」

ジルが開けてみたら小ぶりのナイフが入っていた。煌びやかな装飾は貴族が飾りで腰に付けていてもおかしくはないものだ。

「リーダー凄ぇでかい宝箱。タンスみてぇなの」

「きっと特大のフラワーロックとかが入ってるに違いないです。俺は大きさなんかに騙されません」

イレヴンが開けてみたら体全体を覆えるような盾が入っていた。いかにも城の騎士が持っていそうな装飾がなされている。

「リーダーがどんどん信じる心を失ってんスけど」

「放っとけ」

一体何と戦っているのか、違う違うと言いながら階層を進んでいくリゼルに妥協の二文字は無い。その間に依頼の品は集まり、お腹が空いたと宿主特製の弁当を食べ、そしてついには最深層一歩手前の九十九階にまで辿りついてしまった。

階段を上った先の其処で、これで理想の状況に出会えなければ次の機会にしようだの何だの話していた時だ。広い通路の正面にある豪奢な大きめの扉、手をかけ開いた先にある光景にリゼルはパチリと目を瞬いた。

「これな気がします」

「これだろ」

「これッスね」

細かい模様が敷き詰められた絨毯が広がる部屋、奥には二段ほどの段差がありその先には王座と言っても良い程の煌びやかで威厳のある椅子が据え置かれている。

椅子の前にある宝箱は黄金かつ宝石が埋め込まれている。大きさは大きくもなく小さくもない、部屋中を照らす壁に添えられたガラスの灯りに照らされて静かに輝きながら其処にあった。

そして更にその手前には絨毯にインクを零したのでは無いかという程の漆黒が横たわり、波打つようにその漆黒が波紋を広げる。影が伸びるように現れたのはトカゲに羽をつけたような闇の竜で、低く唸るような声を上げながらその全身を影から引きずり出した。

「そういえば影竜も出るんでしたっけ」

「あんま見ねぇけどな」

流石に最深層手前だけあって手強い魔物が出る。

大きさは人の背丈ぐらいだが、一匹に対してAランクパーティが囲んでも苦戦する力を持つ魔物だ。とはいえ竜という種類からしてみれば下位なのだが。

床に落とされた影を吸い込むように降り立った影竜は、ぐぅっと喉を反らした。そして轟風が吹き荒れるような低く響く鳴き声を上げながらリゼル達を威嚇する。

「闇魔法はこちらで防ぐので、遠慮なく突っ込んで下さい」

「あぁ」

「りょーかい!」

バサリと相手が漆黒の羽を動かし体勢を低くしたと同時に、リゼル達は戦闘を開始した。

「良し、じゃあ開けますよ」

影竜相手に特に苦戦もせず勝ったリゼル達は宝箱に向き合っていた。

割とさっくり勝ってしまったのは雰囲気が無いだろうと思うものの、苦戦しようとして苦戦など出来るものではない。そこはもう仕方が無いだろう。

リゼルが宝箱の前にしゃがみ、蓋に手をかける。

「これってジルとかイレヴンとかに触ってて貰った方が良いものが出たりするんでしょうか」

「アホ」

最後まで探究を止めようとしないリゼルの頭をぺしりとジルの手が叩く。

全く痛く無いそれにわざとらしく拗ねてみせ、ゆっくりと宝箱の蓋を開けた。これで罠だったり魔物だったりしたらリゼルの信じる心は完全に失われるだろう。

後ろからイレヴンも覗きこんでいる中、宝箱の中に光が差し込み入っていた中身が露わになった。姿を現したそれに、リゼルは小さく首を傾げる。

「王冠?」

「あー、ぽいぽい。リーダーっぽい」

これは果たしてどう判断すれば良いのか。

確かに冒険者が宝箱を開けて売れば大金になる宝石の原石や装飾品が出てくることはある。初めて普通の冒険者が手に入れるようなものを手に入れたというべきか、それとももっと冒険者らしいものが欲しかったと言うべきか。

「これ、装飾品なら迷宮品じゃないですよね」

「付けてみりゃ分かるんじゃねぇの」

ジャッジがいれば直ぐに解決するのに、と思いながら宝箱から王冠を取り出す。

綺麗なだけなら装飾品なので、迷宮品と言うのなら何かしらの効果が有る筈だ。それが壊れないというだけなら分からないが、もし有るのならば王冠の使用法でもあるしジルの言う通り装着すれば分かるのだろう。

繊細な装飾を施され数多の宝石が埋められた王冠は、一周ぐるりと有る訳ではなく後ろに向かって細くなっているタイプだ。似合わなそう、と思いながらリゼルは自分の頭にそれを乗せる。

「どうですか?」

「意外と似合わねぇな」

「リーダーには派手ッスね」

何か効果が現れたか聞いたのに、と苦笑する。

他の冒険者ならば狂喜乱舞しそうな値打ちの装飾品でも、今のリゼルにとって迷宮品で無いならば意味が無い。今までで一番見栄えは良いし、冒険者が迷宮に潜って手に入れたお宝としては一級品なのだから此れが迷宮品なら良かったのにと外そうとするとふいにイレヴンに止められた。

頭の王冠へと触れながらどうしたのかとそちらを向くと、ニヤニヤと後ろの椅子を指差している。

「リーダーそのまま座ってみて。折角王座あんだし」

「似合わないって言ったばかりじゃないですか」

「座ったら似合うかもしんねぇじゃん」

見たい見たいと告げるイレヴンに仕方なさそうに笑い、備えられた王座へと座る。

ビロウド張りの椅子は座り心地が良い。足を組み、膝の上に両手を乗せてみせるリゼルは仕方無さそうだった割にノリが良かった。

「ヘーカもそうやって座んの?」

「陛下はこうですね。肘置きに肘をついて、こう、片足を上に」

「あ、リーダーストップ。違和感が半端無い」

真顔で止めるイレヴンに、そんなにだろうかと乗せかけた足を下ろす。

再び足を組んでジルを見ると呆れたように此方を見下ろしていた。悪戯っぽく瞳を細めて窺う様に首を傾けてみせる。

「似合いますか?」

「さぁな」

王冠に関しては間髪いれず似合わないというのだから、悠々と座る姿はそうでは無いのだろう。恐らく色々な意味を孕んでいるだろう返答にリゼルは可笑しそうに笑い、ちょいちょいと王冠の角度を微調整してくるイレヴンを見上げる。

「満足しました?」

「んー、あ、後なんか命令っぽいの聞きたいかも」

楽しそうな様子に微笑み、しかし何を言えば良いのかと考える。

自国の国王のように「跪いてねぇ奴はどこの国の奴だろうが全員敵だ」とでも言えば良いのだろうか。戦場で両手に銃を構えながら敵兵に向かい声を張り上げていた姿は酷く楽しそうだったと、しみじみ思い出す。

そういえば、それに似た事を確か以前イレヴンが王都の路地裏で言っていた。ならばと近くに立つイレヴンへと手を伸ばし、するりと鱗を包み込むようにその頬へと滑らせる。

酷く愉快気ながら従順に此方を見下ろす瞳に目を細め、囁くように望まれた通りの言葉を落とした。

「今すぐ跪いて、私の足を舐めなさい」

『調教とかなら何となく想像つくんスけどね、跪いて足を舐めさせるーとか』

尋問を行う際に、リゼルが痛めつけて尋問を行う姿は想像出来ないが此方ならば出来そうだと告げたのはイレヴンだ。それを思い出したのだろう、頬へと触れられた手を自らの手で緩く握り耐えきれず笑いを零している。

「ハハッ、なっつかしー!」

「お前言うならもっと冷たく言えよ」

「完全に突き放すような相手に舐められたくないじゃないですか。いえ、誰でも嫌ですけど」

「あ、それ凄ぇリーダーっぽい」

パッと頬から離れる掌を少しばかり残念に思いながらイレヴンが頷いた。

その手はいじるようにリゼルの王冠へと触れていて、気に入ったのだろうかと思いながら椅子から立ち上がろうとした時だった。

「まぁリーダーに頼まれれば別に舐めても良……い?」

「イレヴン?」

「は、ちょ、待」

ふいにイレヴンの声に戸惑いが混じる。リゼルとジルの視線がそちらを向くと、正面に立っていたイレヴンの体がふいに沈みこんだ。

それは正しく王座に座るリゼルへと跪いている体勢で、まさかと思っている間にもその手はリゼルの靴へと伸ばされる。組んだ足を持ち上げられ、膝をついたその足の上へと置かれた。

「イレヴン、本当にしなくても」

「うわ、マジかこれ。すっげぇ勝手に体動く」

流石に本当にさせるつもりなどない。

どうしようと思っている間にも靴は容易に脱がされて行く。流れるような鮮やかな手際だ、素晴らしい。いや言っている場合じゃない。

このままではパーティメンバーに無理矢理足を舐めさせるリーダーになってしまう。リゼルは足を引こうとするが、力でイレヴンに敵う筈が無く踵を固定するその手はびくともしない。

「もしかして王冠の効果でしょうか。イレヴン、待って下さい。ストップです」

「いやいや止まんねぇんだけどリーダー頑張って!」

素足を持ち上げられ、跪いたままイレヴンの顔が伏せられる。パカリと開かれた口からは毒々しい程に赤い舌が伸ばされた。

止めようとしても、何を言おうとイレヴンは止まらない。何故舐めろと言って舐めようとするのに止めろと言って止めてくれないのか。こんな所に迷宮品の一風変わった仕様を持って来ないで欲しい。

そして今まさにイレヴンの舌が足へと触れようとした時だった。

「待、ジル、止めて下さい」

「ぐぇッ」

珍しく少しばかり焦ったようなリゼルの声と共に、イレヴンは髪を引っ張られ後ろにのけぞった。

その後ろには一連の騒動をニヤニヤしながら眺めていたジルがいる。

「痛ッてぇな! もうちょい……お、動ける」

しゃがんだまま痛めた首筋を押さえるイレヴンが、掌を開け閉めしながら体の自由を確かめていた。どうやら今の衝撃で迷宮品の効果が解けたようだ。

リゼルも素足になった足を引き寄せて脱がされた靴を履いていく。履きながら、今まで傍観していた男へと不満そうな視線を向けた。

「見てないで止めて下さいよ」

「お前が焦ってんの珍しいだろ」

ハッと笑って悪びれずそう告げたジルに、自分だって焦る時は普通に焦ってるだろうにと思いながら苦笑して立ち上がる。そして頭に乗っている王冠をスッと外した。

「これすっげぇ迷宮品じゃねぇの?」

「どうでしょう、流石に“相手に命令を聞かせる”っていうのは幾ら迷宮とはいえ無理がある気がします」

とはいえリゼルが提出する迷宮品はこれに決まった。

しかし王冠などリゼルが持ってくれば違う意味を持つだろう、パーティの特色と称される展示品が命令をきかせる王冠ともなればあらぬ疑いを持たれるに違いない。

ただでさえ今でも何処かの王族貴族がお忍びで、など面白可笑しく噂されているのだ。

「まぁ良いです」

リゼルは王冠を見て、満足そうに頷いた。

「宝箱から見るからに宝だって分かる宝が出たのは初めてですね」

「ねばった甲斐があったッスね」

「ねばる必要があったかは疑問だけどな」

周りからの評価がどうであれ、分かりやすく貴重な迷宮品が出たのがリゼルには嬉しかった。しかも性能が意味の分からないものではなくて意味のある性能なのだし、迷宮品としての価値も高いだろう。

そんなリゼルを見て、嬉しいならばそれで良いとジルは溜息をついた。

「おお、凄ぇじゃねぇか!」

品良く輝く豪奢な王冠を前に、ギルド職員は弾んだ声で惜しみなく称賛の声を上げる。

冒険者らしいかと言われれば疑問だが、いかにも迷宮深層から出そうな迷宮品だ。国宝として飾られていても、いや実際に王族が身につけていても可笑しくない。

これは慎重に保管しなければと楽しそうな職員をリゼルは微笑みながら見ていた。その後ろではジル達が笑いを堪えて震えている。

「そういや迷宮品なら何か効果あんだろ? 何だ? 魔物が寄りつかなくなるか? それとも素材を持つ魔物の出現率があがったりするか?」

流石ギルド職員、発想が冒険者関係ばかりだ。

「人に何か頼むと、絶対にして貰えます」

「命令を聞くってことか? そんなもん本当に伝説の迷宮品じゃねぇか!」

「いえ、頼み事が聞いて貰えます」

リゼルとて命令に絶対服従になるような迷宮品は流石に無いと思っていた。

なのでその後、検討に検討を重ねてジルに付けさせたりイレヴンに付けさせたり命令させたりされたりした。何が違うんだと不思議そうなギルド職員に、その検討結果を変わらぬ微笑みのまま告げる。

「頼めば嫌がらずやってくれるような事に限り、命令するとやってくれます」

「…………なら」

普通に頼めよ、という言葉は職員からは続かなかった。

噴き出すジルとイレヴン、そして変わらない微笑みの中で何処か哀愁漂う目をしているリゼルに気が付いたからだ。

今までで最大のチャンスを活かしたのにほぼ性能が意味をなさない装飾品もどきで終わった事実が、リゼルに多大なる切なさを与えている。

「す、凄ぇ値段が付きそうだな!」

「そうですね」

いっそ輝きを増している穏やかな微笑みがコクリと頷くのに、耐えきれず視線を逸らした。目頭が熱いのは気のせいだろうか。

しかし、とパーティメンバーにからかわれているのか慰められているのか良く分からない言葉をかけられているリゼルを見る。パーティを、パーティリーダーを象徴する迷宮品と言うのならば決して的外れでは無いのではないだろうか。

命令などせずとも容易に周囲を動かしてみせるイメージが確かにあると、酷く納得出来てしまうのだから。