軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 涙

アシュトンが去ってから、ノエラにお茶を淹れ直してもらった後、リシューさんと2人きりにしてもらった。

「リシューさんが予想していた通りでしたね。ナルターレルの籍に入っていて良かったです」

私が、サザリアン王国のホランド伯爵家ではなく、スカレティア皇国のナルターレル侯爵家の籍に入ったのは、『ブレイザー家から難癖をつけられない為に』というリシューさんからの提案だった。更に『自分の能力不足を補う為に、マリレーヌさんをブレイザー家に連れ戻そうとするかもしれない』とも言われていた。それが、まさか、本当に起こるとは思っていなかったけど。

アシュトンに、領主としての手腕が無い事。その上で努力はしないだろうという事。フラヴィアさんと義母が、私をこき使おうとアシュトンを唆す可能性がある事。

そうなった場合、勿論叔父がキッパリと断るだろうけど『領地の為に』と言われ、国に援助要請の申請をされてしまうと、離婚した妻であっても協力しなければならなかったりする。サザリアンは、まだまだ女性の立場が弱い国。

『別れた相手でも、女性でありながら領地の為になるなら助けるべきだ』

という考えがまかり通っている。

裏切られて離婚したのに、その人達の為に尽くせなんて、たまったもんじゃない。

サザリアンとは違って、スカレティアは、性別関係無く個人を尊重してくれる。まだまだ貴族が強い立場ではあるけど、平民でも実力があれば働き口は沢山ある。

「まさか、子供の話まで出て来るとは思わなかったけどね」

「……です」

「ん?」

今迄言うタイミングがなかったけど、言っておくべきだろう。リシューさんが、私と向き合ってくれて、好意を寄せてくれているなら。それで、どんな反応をされるか……不安が無いわけじゃないけど。

「アシュトンも知らない事なんですけど……私……アシュトンとの子を……身篭っていたんです。でも……アシュトンが事故で行方不明だという知らせを聞いて……わた……し……」

それ以上言葉が出なくて俯いていると、温かいものに体が包まれた。

「それ以上は言わなくて良い。よく堪えられたね。でも、泣きたい時は泣いても良いんだ」

「泣く?でも……あ……」

今迄、涙なんて出なかった。目覚めて子供が居なくなっていた時も、アシュトンがフラヴィアさんを連れて帰って来た時も、あの私の庭園が奪われた時も涙なんて出なかったのに。今更、涙が出て来るなんて。

「子供が流れてしまっても、涙一つ出なかったんです。なんて……薄情な母親なんだろうって……私がそんなだから……流れてしまったのか……って……ふっ……うっ……」

「マリレーヌさんが薄情なわけない。ただ、心が追いつかなかっただけだったんだと思う。“独りでも立っていなければ”と言う気持ちと、不安な気持ちに堪えていたのなら尚更だ。私のもとで泣けるのなら、いくらでも泣けば良い」

ギュッと、私を抱きしめている腕に軽く力を入れるリシューさん。その力と温かさが、更に私を安心させてくれる。

ー守られている。独りじゃないー

そう思っていると、更に涙が溢れた。

*リシュー視点*

「マリレーヌさん?」

「……」

どうやら、泣き疲れて寝てしまったようだ。好意を寄せられている 相手(オレ) に、そんな無防備で良いのか?と思ったりもするが、可愛い寝顔が見られるのなら良しとする。

ー身籠っていたとは……ー

想像はできないが、流れてしまったと知った時は、辛かっただろう。唯一の支えが居なかったのだから。その上、身籠った浮気相手を連れて帰って来たのだ。本人が気付いていないだけで、心はボロボロになっていたんだろう。

流れてしまった子は残念だったけど、もし、無事に生まれていたら、マリレーヌさんに似て可愛かったに違いない。

「どうか……安らかに……」

しかし───

アシュトン=ブレイザーは、本物のクズだった。あの男がマトモだったのは、マリレーヌさんが居たからだ。今の状態が、本来のアシュトン=ブレイザーなんだろう。嫁と母親がアレでは、ブレイザー伯爵家に未来はない。

そこで、マリレーヌさんがブレイザーに戻るとなると、またまた美談になってしまうところだったが、マリレーヌさんはキッパリとサッパリと切り捨てた。

2人の結婚が貴族社会で受け入れられたのは、記憶喪失後に育まれた恋愛だったから。でも、その前提が違ってくると、それはただ単に浮気なだけであって、拒否反応を表す貴族も多い筈。そうなれば、嫁と母親の立場はあっと言う間に崩れ去るだろう。勿論、伯爵本人も。だから、俺がわざわざ手を下す必要もない。

ーじわじわと追い詰められながら、破滅すれば良いー

精霊に嫌われた領主の土地は、暫くの間は苦労するかもしれないが、マリレーヌさんが護ろうとした土地でもあるから、最終的にはまた元に戻るだろう。

ー取り敢えず、マリレーヌさんには休養が必要だなー

そう思いながら、俺はマリレーヌさんを抱き上げて寝室へと運んで行った。