作品タイトル不明
25 対峙
*リシュー視点*
「父と母と一緒に、マリレーヌ様を迎えにスカレティアに来るそうです」
と、私に報告をしに来たのは、マリレーヌさんの侍女のノエラ。どうやら、アシュトン=ブレイザーが、マリレーヌさんを迎えにやって来るらしい。
「極秘で、父から魔法で知らせが来ました。この事は、まだマリレーヌ様には伝えていません。先に、リシュー様にお伝えした方が良いかと思って、先に報告に来ました」
優秀な侍女だ。ノエラの言う父と母は、ブレイザー家の執事と侍女長。その2人がアシュトンに同伴してやって来ると言う。
「執事と侍女長が揃って邸を離れるとは…… 計(・) 算(・) の(・) う(・) ち(・) か?」
「そのようです。その……よろしいでしょうか?」
「勿論だ。2人の事は心配しなくて良い。マリレーヌさんも喜ぶだろう」
「ありがとうございます」
それから、ノエラと他にも数人の者達を呼び、その日は夜遅くまで話し合いが続いた。
******
知らせを受けてから1ヶ月。
「訪問、受けていただき、ありがとうございます」
「流石に、1ヶ月かけて他国から来た伯爵を追い返すような事はできませんからね」
1週間前に、“領地に関してマリレーヌと話がしたいから、訪問を許して欲しい”と言う趣旨の手紙が届いた。断る事も送り返す事も簡単だが、いずれは、けりをつけなければいけない事だったから訪問を許可した。マリレーヌさんも受け入れた。
そうして、今日、コペリオン邸にアシュトン=ブレイザーがやって来た。その後ろに控えているのは、ノエラの両親のアンセルとコネリー。その更に後ろに、3人の護衛が控えている。伯爵の他国への長旅に同伴する護衛としては、少な過ぎる人数だ。ただ単にお金が無いから──なんだろう。
少しずつ増えていた貯えも、ここ数ヶ月でかなり減ったそうだ。それも当たり前の事。たいした収入が無いのに、嫁と実母が贅沢をしているのだから。それを、この男は把握しているんだろうか?
「マリレーヌは……」
「マリレーヌさんは、午前中は用があって不在で、私だけの出迎えになって申し訳ない。取り敢えず、長旅で疲れているでしょうから中へどうぞ。部屋に案内させます」
「ありがとう……ございます」
マリレーヌさんが不在と聞いて、あからさまにがっかりする伯爵。単純な男だ。
「それと、ブレイザー伯爵とマリレーヌさんはもう夫婦ではないから、呼び捨てにするのはどうかと。本人と会う時は気を付けた方が良いですよ」
「そうですね……」
納得していない顔の伯爵。本当に馬鹿なのか。それとも、未だにマリレーヌさんに気があるのか……好かれていると思っているのか。
ーマリレーヌさんと会わせる前に、探りを入れるかー
「ここには、本当に領地に関しての話をする だ(・) け(・) の為に来たんですか?」
「え?あ……はい……そうです……」
そうだと返事をしながら、目が泳いているんだから、嘘だと言う事がバレバレだ。
「さっきも言いましたけど、マリレーヌさんは、もうブレイザー伯爵夫人ではないのだから、わざわざ会いに来て話を聞くよりも、領民と一緒に改良を重ねていく方が堅実だと思いますけど?それとも……他に何か目的があるとか?」
「そんな……ただ、本当に……話を……私だけでは分からない事が多くて……」
「分からなければ、自分で調べるなり何なりすれば良いでしょう?同じようにしても変わらないのなら、新しい事を試すしかない。マリレーヌさんに何を望むんです?もう、伯爵とは赤の他人なんですよ?マリレーヌさんにはマリレーヌさんの生活があるんです。散々な扱いをしておいて、まだ更に迷惑をかけるつもりなんですか?」
「そんなつもりは……ただ、記憶を失ってから、仕事もよく理解できない事が多くて……」
それは、記憶を失ってからの話じゃないだろう。おそらく、今迄マリレーヌさんがカバーして上手くいっていただけで、この男の能力がもともと低かったのだ。それを、今は誰もカバーできる者が居ないというだけ。否。執事のアンセルならカバーできるだろうけど、そうしていないんだろう。
「理解できないなら、自分で調べるしかないでしょう?自分の領地の事を、マリレーヌさんに頼むのはお門違いでは?伯爵には、愛する妻や身内が居るでしょう?」
「……」
『そうです』と頷くのは難しいだろう。あの2人が助けになるなら、伯爵がここに来る事はなかった筈だから。
「私の気持ちとしては、そんな勝手な理由でここに来たなら、伯爵にマリレーヌさんを会わせたくないと言うのが本音です。まぁ……マリレーヌさん本人次第ですけどね。トマス」
室内に控えていた 使用人(トマス) に声をかけると、扉を開けて、そこからマリレーヌさんとノエラが部屋に入って来た。