軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 アシュトンからの手紙

宰相室補佐官になってから3ヶ月。

「マリレーヌさん、先月の使節団に関する資料なんだけど──」

「それなら、纏め終えてそれぞれの部署に提出したので、返却待ちです」

「マリレーヌさん、来週の王太子殿下の視察の行程なんだけど──」

「それは、殿下の許可が出たので、行程表を騎士団に提出しておきました」

「マリレーヌさんって神だよね!本当に助かるよ!!」

「ありがとうございます……ふふっ……」

ジェイデンさんもセスさんも、すぐに私を褒めてくれる。新人の私ができる仕事はまだまだ限られていて仕事量が少ないから、先回りしてできているだけなのに。勿論、それに満足なんてしたりしない。

「あ、マリレーヌさん、そろそろ打ち合わせだよね?一段落ついたから行っても良いよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、行って来ます」

「「いってらっしゃい」」

毎日忙しいけど、充実した日々を過ごしている。皇城で働きだして気付いた事。それは、スカレティアでは、皇城にも平民の文官が多いという事。女性の比率も高い。サザリアンと違って、実力で仕事が選べるという事。女性の当主も普通に居る。皇太子が女性なのだから、驚くような事でもない。だから、スカレティアに来て良かったと思っているし、誘ってくれたリシューさんには感謝……なんだけど……。

ーリシューさんの天然ぶりが悪化?してるよねー

家と職場が一緒だから、朝食は必ず一緒に食べる。昼と夜は時間が違ったりするから別々の事が多いけど、夜寝る前、少しでも時間があれば、リシューさんがお茶を淹れてくれて、飲みながら話をする。疲れているだろうから、時間があるなら早くに寝た方が──と言うと『少しでも2人だけの時間が欲しいから』と言われて瞬殺された。あれで、本当に今迄恋人の1人や2人、居なかったのか?と不思議で仕方ない。とにかく、あと3ヶ月。私は一体どうしたいのか──

その日、コペリオン邸に帰ってくると、伯父から『 ナルターレル(こっち) に届いていたから、転送したよ』と言う連絡と共に、私への手紙が届いていた。

「アシュトン……ブレイザー………」

アシュトンからの手紙だった。

「…………はっ…………何を………」

読んで、乾いた笑いがこぼれた。

“今ある土地の改良に関する資料だけでは、データが足りない”

“同じようにしても良くならない”

“このままでは、また収穫が減り税収が減る”

“データを作り直すか、改良を手伝ってほしい”

“一度、サザリアンに帰って来て欲しい”

「馬鹿なの?」

「阿呆だな」

「リシューさんっ!?」

いつの間にか、私の真後ろに居たリシューさんが、私の手から手紙を取り上げた。

「領主としての矜持もないらしいな」

「そうみたいですね」

義父だった先代の伯爵は、領地領民を最優先に考えて動く人だった。以前のアシュトンは、そんな先代に敬意を持っていて、少しでも近付けるように努力をしていたのに。

「まさか、サザリアンに帰るつもりじゃないよね?」

「帰りません──と言うか、私は“ホランド”でも“ブレイザー”でもなく、“ナルターレル”だから、私が帰る場所はスカレティア皇国のナルターレルだけです」

サザリアン王国に行ったとしても、ブレイザー家に行く事はないし、行きたいとも、アシュトンに会いたいとも思わない。寧ろ、二度と会いたくない。

「いつかは、ここも帰って来られる場所になると良いんだけどね」

「うぅ……と……取り敢えず、断りの手紙を書きます」

「簡単に引き下がってくれると、良いんだけどね」

**アシュトン視点**

“私はブレイザー家の人間ではないので、そちらには行けません。ブレイザー伯爵と領民とで力を合わせて乗り越えて下さい”

「マリレーヌ……」

マリレーヌにお願いすれば、きっと助けてくれると思っていたのに、まさかキッパリと断られるとは思わなかった。

「マリレーヌって、冷たい人だったのね。自分はもう関係ないからって、自分の領民だった人達を簡単に切り捨てられるんだから」

ふんっ──と怒っているのはラヴィー。出産後、些細な事でも怒るようになった。乳母を雇えず自ら育児をしているから、疲れもあるのかもしれない。

「ひょっとしたら、周りの人間に止められているだけで、この手紙も書かされているだけなのかもしれないわよ?そうよ!アシューが迎えに行くのはどう!?」

パンッ──と手を叩いて、とんでもない提案をしたのは母上だった。

「あの娘、アシューの事が大好きだったから、アシューが迎えに行けば、喜んで戻って来るんじゃないかしら?そうしたら、また仕事をさせてあげればいいのよ!」

「お義母様、それ名案ですね!そうしたら、子供の面倒も見させてあげられるわ!自分の子供は産めなかったから、喜ぶんじゃないかしら?ふふっ」

「そうか……なら、迎えに行こうかな……」

あの優しいマリレーヌさんなら、きっと私の手を取ってくれるだろう。