作品タイトル不明
19 良い上司
「 あ(・) の(・) コペリオン親子が受け入れるとは……一体どんな手を使ったんだ?女の武器か?」
「それは、コペリオン親子への侮辱と受け取りますが、よろしいでしょうか?コペリオン様が、私のような凡庸な者に籠絡されたと?」
「──っ!!」
老害貴族との、そんなやり取りから始まった研修期間。これからどうなるのか?と不安になっていたけど、不安になる暇もなかった。
「マリレーヌさんは数字にも強いようだから、この資料の計算の確認をお願いします」
と、山積みになった資料が準備されていた。確かに、計算は得意な方だと思うけど、目の前にある資料の確認を、今日中に終える事ができるのか……なんて悩んでいる時間が勿体ない。とにかく、与えられた仕事はやらなければならない。
ーとにかく、やるしかないー
そうして、研修期間が始まった。
始まって1週間は、用意されていた資料の確認だけでいっぱいいっぱいだったけど、2週間が過ぎると少しずつ余裕が出てきて、3週間が過ぎると、自分なりに資料を纏める時間ができるようになった。そして、1ヶ月が過ぎると、違う仕事も与えられるようになった。
「本当に、マリレーヌさんが来てくれて良かった」
と言ってくれたのは、私と同じ部屋の補佐官の1人のジェイデンさん。現時点での宰相の正式な補佐官はリシューさんとジェイデンさんとセスさんの3人。この3人というのはかなり少ない人数なんだそうだ。私達は、今、昼休憩で、食堂でランチを食べている。
「まだ、そんなにもお役に立ってませんけど」
「何を言ってるんだ!?マリレーヌさんが来てから、あの目と頭が痛くなる数字を見なくて済んでいるし、計算と確認が正確で早いから、決算も早く済んで、本当に助かってるんだ!」
「そうそう。俺達、計算は苦手だったから、本当に助かってるんだよ」
「それなら良かったです」
計算に関しては、領地改革で毎日毎日しなければならなくて、結果的に早く計算できるようになった。アシュトンが、計算を嫌がっていたという事もあったからだけど。
ジェイデンさんとセスさんは、2人とも子爵で妻子持ちで、30代中盤。残業で帰りは遅くなる事もあるけど、きっちり週休2日で有給もあるし、家族休暇と言って、年に2回1週間の休みを取る事ができる。福利厚生も、サザリアンよりも良い。
「ほら、あそこに居るのが、宰相室に入った子よ」
「なーんだ、大した事ないのね」
「「「…………」」」
昼食の時間に食堂に来ると、よく耳にする会話だ。これが嫌で、普段はサンドイッチなどを持って来て執務室で食べるけど、今日は、今日の日替わり定食が好きなメニューだったから、食堂に来ていた。
「コペリオン親子に認められたとか言われてるけど、勘違いしないようにって、言ってあげたほうが良いんじゃない?」
「言わなくても分かるでしょ」
くすくすと笑う3人の女官らしき女性達。
“ リシューさん(優良物件) がスカウトした女性”
周りからはそう見られている──と、カロリーヌさんに言われていた。
「勘違いって……どんな勘違いをするの?」
「八つ当たりだな」
「あのコペリオン親子が、無能を入れる訳がないのに」
あの普段は優しいリシューさんも、仕事中はピリッとしているし、一切の妥協もない。勘違いする要素なんて全くないし、浮かれるような暇もない。
「聞こえてる筈なのに、無視するなんて、図太い神経の持ち主なのね」
こういうタイプの女性は、国が変わっても居るのか。反応すれば更に言われて、反応しなければしないで文句を言われるパターン。相手をするだけ面倒で疲れるだけだから、無視をするのが一番だ。それを、ジェイデンさんとセスさんも分かっているから、無視をしてくれている。
「それは、一体どんな勘違いなんだ?」
「え?あ!コペリオン様!?」
そこに、リシューさんがやって来た。リシューさんが食堂に来るのは珍しい。
「彼女をスカウトしたのは私だけど、何か問題でもあるのか?」
「いえ、私はただ──」
「それとも、私の見る目が無いと言いたいのか?」
「違います!ただ、宰相室に女性が──」
「君も同じ女性なら、寧ろ能力次第で性別関係無く採用される可能性があるのだと、喜ぶべき事じゃないのか?」
相手が女性でも容赦ないリシューさん。
「彼女に文句があるなら、まずは私に言ってもらいたい。ただ、自分の発言には責任を持つように。彼女は侯爵家の者だと言う事も忘れないように」
「っ!?すみませんでした!その……失礼します!!」
3人の女官達は、リシューさんに謝った後、急いで食堂から出て行った。
「謝る相手が違うだろう……」
と、溜め息を吐いたリシューさんが、私達の所までやって来た。
「“未だにチクチクネチネチ言う者が居る”と、王太子殿下に言われて様子をみていたら、丁度良いタイミングに遭ったから。これで、落ち着くだろう」
「ありがとうございます」
リシューさんは、良い上司だ。