作品タイトル不明
20 光明と暗雲
「はい、これが正式な契約書よ」
「ありがとうございます!」
研修期間の3ヶ月を終えて、私は宰相コペリオン伯爵から『合格』をもらい、晴れて正式に宰相の補佐官となった。
その正式な契約書を、ビアンカ皇太子殿下が直々に持って来てくれた。
「「マリレーヌさん!おめでとう!そしてありがとう!!」」
「こちらこそ……ありがとうございます?」
そして、泣きながらお礼を言うのは、ジェイデンさんとセスさん。補佐官が増えた喜びからだろう。
3人の仕事量に比べると、私なんてまだまだ足元にも及ばないだろうけど、4人で仕事をしだしてから、残業が減ったと言っていた。
「宰相室に女性補佐官が入った事は、今後の働く女性の道標にもなる。だから、働いて何か気になるような事や、改善すべき事があったら些細な事でも報せて欲しい」
「承知しました」
「では、私はこれで失礼するよ」
殿下は忙しい合間を縫って来てくれたようで、座る事もなくすぐに部屋を後にした。
「マリレーヌさん、正式に補佐官となるのは明日からだから、今日はこれで帰ってゆっくりすると良い」
「でも……」
「それに、明日からは今迄以上に忙しくなると思うから」
「分かりました。お言葉に甘えて、そうさせていただきます」
「「明日からもよろしく!!」」
私はコペリオン様の言葉に甘えて、皆に見送られながら皇城を後にした。
時間は11時。皇城からコペリオン邸まで歩いて20分。時間があったから、前々から行きたかったお店でランチをした。パスタとチーズケーキが有名な店で、どちらも美味しかった。チーズケーキのテイクアウトがあったから、ノエラ達にもお土産として買って帰ると、皆喜んで食べてくれた。
それからやって来たのは、コペリオン邸の庭園のガゼボ。ここの庭園の花もとても綺麗だ。
「あ、ここにも蝶が飛んでるわ」
「いつも思うんですけど、蝶がマリレーヌ様に付いて来ているって感じですよね」
「そんなわけないじゃない」
と言いながら、いつも不思議には思っていた。私が目にする蝶は珍しいのか、調べてみても、どの図鑑にも載っていなかった。綺麗なエメラルドグリーンで、見る角度によってはコバルトブルーにも見える。なのに、鱗粉は金色。ブレイザー家では、私が家を出る数週間前から見掛けなくなっていたけど、ホランドとナルターレルの庭園にも居た。そして、今日は コペリオン(ここ) でも見る事ができた。
「この蝶が飛んでいる所の花はいつも綺麗だから、綺麗な花が好きなんじゃないかな?」
「そういう事にしておきます」
研修期間が終わって、私がコペリオン邸で過ごす必要もなくなったから、住む家を探さないといけない。小さくても良いから、花を植えて育てられる庭がある所が良い。
ーリシューさんに相談してみようー
**アシュトン視点**
『領民から“視察に来て欲しい”と陳情書が届いています』
と、アンセルに言われて領地へとやって来ると、ここ数週間で急激に作物の育ちが悪くなったり、枯れてしまう物まで出てきたと言われ、『どうすればいいのか?』と聞かれても、私に分かるはずがない。
「あの……その……夫人……マリレーヌ様は、ここには来られませんか?」
「どうしてマリレーヌが?」
彼女がここに来たところで、作物の事が分かるわけがない。彼女が得意とするのは、書類整理と計算だけだと聞いている。
「この土地の土の改良にも手を尽くしてくれましたから、マリレーヌ様なら何か分かるかもと思いまして……」
土の改良までしていたとは思わなかった。母上もそんな事は言ってなかった。『忘れているでしょうけど、領地が良くなったのは、全て アシュー(わたし) がした事よ』と言っていたから。
「マリレーヌは来ない」
「そうですか……」
直接聞いたわけじゃないが、マリレーヌはサザリアンには居ないらしい。生家のホランド邸に帰ったのは確かだが、それ以降、誰もマリレーヌの姿を見た者は居ないし、ホランド伯爵からも何も聞いてはいないから、真偽は分からない。
「とにかく、今の状況を纏めて報告書を作ってくれ。私も色々と調べてみるから」
「分かりました。よろしくお願いします」
ー邸に帰れば、改良データや資料があるから、何とかなるだろうー
******
家に帰ってすぐに調べてみると、資料はすぐに見付かった。データも分かりやすくて表記されていたが、これと言って特別に何かしたような記述が無かったから、領民からの報告書を待つ事にした。
それから1週間程で報告書が届いたが、その報告書を見ても、マリレーヌが指示した内容通りに育てていたのに、作物が育たなくなっているという事が分かっただけだった。
「どうすれば良い?」
アンセルに相談しても『分かりかねます』と言われた。
「アシュー、取り敢えずは一度落ち着いたら?そうすれば、何か良い案が浮かぶかも。疲れていたら、良い考えも思いつかないものよ」
「それもそうだね」
ラヴィーは、いつも私の体を労ってくれる優しい妻だ。
少し休んでから……考えよう。
マリレーヌにできた事なら、私にだってできるはずだ。