軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎が謎を呼び寄せる

思い返してみると、エルツ様がクリスタル・エルフの始祖でないことに関する情報はいくつかあった。

ひとつはエルツ様と初めて会ったときに聞いた、お祖父様との付き合いは七歳の頃からというお話。

もうひとつはクルツさんが言っていた、エルツ様は先祖返りだと口にしていたこと。

どちらも話を聞く最中にトラブルがあったので、追及できずにいたのだ。

時が経つうちにすっかり忘れ、たった今、思い出したのである。

「ずっと勘違いをしてしまい、申し訳ありませんでした」

「謝る必要はない」

「ありがとうございます」

エルツ様はとても寛大で、私の先走った間違いを許してくれた。

「そなたの態度が、少しかしこまり過ぎていたのは日々感じていた。それがまさか、勘違いをされていたからだったとは」

「それはその、クリスタル・エルフの始祖だからとか関係なく、エルツ様への尊敬心からの行動でした」

慌てて弁解したが、エルツ様の眉間に皺が寄ってしまう。

「必要以上の距離があったのは?」

「そちらは、その、意識はしていなかったのですが、そうなってしまったのは、クリスタル・エルフの始祖だから、かもしれません」

エルツ様は千年も生きた遠い遠い存在で、私なんかが近付いていいとは思っておらず、無意識のうちに遠巻きにしていたのかもしれない。

「ベアトリス、これからは肩の力を抜いて、ごくごく自然に接してほしい」

「それは――」

「頼む」

まっすぐな瞳で見つめられると、何も言えなくなる。

「その、最大限、努力いたします」

なんとか振り絞るように言葉を返すと、エルツ様は雪解けを誘う太陽の微笑みを返してくれた。

キンと冷え切った中に立たされていたような人生を歩んでいた私には、とてつもなく眩しすぎる。

この先、穏やかな心で、エルツ様の傍に侍ることなどできるのだろうか。

あまり自信がなかった。

エルツ様がクリスタル・エルフの始祖ではないとわかった。それだけでなく、お祖父様がエルツ様と私を結婚させようと計画を立てていたのだ。

けれどもお祖父様はエルツ様と私の婚姻を突然取りやめ、オイゲンと結婚させた。

この件に関しては、いささか不審である。

「王室典薬貴族を返上した件といい、結婚の件といい、グレイらしくない行動を繰り返していたようだ」

それの始まりは、すべて伯父の死からだった。

「伯父様が亡くなったことにより、お祖父様の中にあったなんらかの計画が狂ってしまった、ということなのでしょうか?」

「そうだとしか思えない」

問題はそれだけではなかったようだ。

「そなたに話すか迷っていることなのだが――」

「お祖父様に関係のあることであれば、お聞かせいただけますか?」

「耳に痛い話かもしれない」

「それでも、受け止めます」

「ならば、話そう」

エルツ様は深刻な様子で打ち明ける。

「グレイが病に倒れたさい、まっさきにクリスタル・エルフの始祖が診察したいと名乗り出た。しかしながら、グレイは拒否したのだ」

お祖父様が国で一番の魔法医であるクリスタル・エルフの始祖の診察を断っていたとは。もしも的確な治療を受けていたら、病気が治っていたかもしれないのに。

すでに終わってしまったことなのに、悔しく思ってしまう。

「当然ながら、私の診察をさせてくれという要望も取り合わず、イーゼンブルク公爵家に近付くことすら許可されなかった」

納得いかなかったクリスタル・エルフの始祖が、お祖父様のもとに押しかけ、理由について問いただしたらしい。

「グレイは諦めたように、この病は自分の罪だ、と言ったようだ」

「罪……ですか?」

お祖父様がなんらかの罪を犯していたとはとても思えない。

それに関しては、エルツ様も同じ意見だという。

「なんとかしようと、私やクリスタル・エルフの始祖は行動を起こした。けれども何もできないまま、グレイは命を散らしてしまった……」

振り返ってみると、病に伏した祖父はすっかり意気銷沈していて、伯父が迎えにやってきているのだ、という話を繰り返した。

毎日のように作っていたエリクシールも、本当に飲んでいたか怪しい。

エリクシールの空き瓶を回収しようとしたら、執事が頑なに拒否していたのも、ずっと引っかかっていた。

もしかしたらエリクシールは飲まずに、どこか別の場所へ隠していた可能性もある。

「それにしても、祖父の言っていた罪とはいったいなんなのでしょうか?」

「わからない。おそらく誰かの罪を、自分のもののように感じ、背負っていただけのように思えるが」

エルツ様はお祖父様が亡くなったあとも、この件に関しては風化させるつもりはなかったらしい。

「月に一度ほどになるが、時間を作って、グレイについて調査をしていた」

ただお祖父様の交友関係は、伯父が亡くなってからというもの、極めて狭くなっていたらしい。誰に会っても「よくわからない」、という言葉しか返ってこなかったようだ。

心当たりに思う点はすべて調べ尽くしたようで、お手上げ状態だという。

「イーゼンブルク公爵家に、何か情報が残っていないでしょうか?」

「今、あの家に行くのは危険極まりないだろうが」

「私がオイゲンの気を引きつけている間に、エルツ様が調べることはできませんか?」

お祖父様の書斎はそのまま残っていると思われる。

「書斎の鍵はイーゼンブルク公爵家の庭にある、ワイルドストロベリーの鉢の下に隠されているんです」

オイゲンはお祖父様の書斎に何か価値のある財産が眠っているのではないか、と信じて疑わなかったようだが、中にあるのは私やオイゲン、伯父の肖像画と魔法薬に関する書物があるばかりだ。

荒らされたくなかったので、オイゲンに鍵の在りかは知らせなかったのである。

「鍵の場所がわかるのならば、私が単独でイーゼンブルク公爵家を訪問し、隙を見て調べてこよう」

「いいえ、エルツ様だけに、そのようなことをさせるわけにはいきません」

一緒に協力してやりましょう、と提案すると、エルツ様は目を丸くしてこちらを見てくる。

「そなたはあの男は恐ろしくないのか?」

「恐ろしいです。けれども他人の家に忍び込んで、情報を探るほうがもっと恐ろしいと思います」

もしも見つかったら、大変な事態になるだろう。

エルツ様だけに罪を被せるわけにはいかない。そう思って、私もオイゲンと対峙し、時間稼ぎをすると宣言した。

エルツ様は目を見張り、私を褒めてくれた。

「そなたは、とてつもなく勇敢だ」

「私にはもったいないお言葉です」

そんなわけで、イーゼンブルク公爵家に一度探りを入れることとなった。

エルツ様が帰ったあと、私はすぐにオイゲン宛てに手紙を送った。

そこには今日は気が動転し、酷い言葉をぶつけてしまった、という心にもないことを書き 綴(つづ) る。

騙すような手紙を書いて良心がズキズキ痛むものの、お祖父様が残した謎を解明するために必要だと自らに言い聞かせる。

もしかしたらオイゲンは私に腹を立てて、手紙を無視するかもしれない。そう思っていたのだが、郵便省の私書箱に返事が届く。

そこには私に会いたかった、愛しているという目にしたくもない愛のメッセージが書かれていた。

それらは読まなかったこととし、大事なところだけしっかり目を通す。

オイゲンは私との面会を望んでいた。いつでもいいので、きてほしい、とある。

すぐさま私はエルツ様に報告し、イーゼンブルク公爵家を訪問する日を決めた。

一週間後――私は久しぶりにイーゼンブルク公爵家を訪れる。

緑豊かで美しかった庭の草花は枯れ果て、屋敷には不気味な枯れ蔦が絡みついていた。

庭に人の気配はなく、まるでおばけ屋敷である。

たった数ヶ月で、ここまで荒れ果ててしまうのか、と信じられない気持ちになった。