軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その6

皆が立ち去ったあと、アメリアはサルジュと一緒に農地に移動した。

収穫間近だった畑は何もなくなり、荒れた土地に、大きな魔法陣だけが残されていた。

サルジュは、無言でその様子を見つめている。

もうすぐ収穫できるはずだった穀物が、ほとんど消滅してしまったのだ。アメリアも何も言うことができず、ただ彼の傍に立ち続けていた。

(どうしたらいいのかしら……)

荒れ果て、何もなくなった土地を見つめていると、不安になる。

今まで冷害によって不作が続いていたので、そう大きな蓄えはない。

他の領地にも、そんな余裕はなかっただろう。

今年は豊作が期待されていたので、ようやく他にも回せるかもしれないと期待されていただけに、落胆は大きかった。

今年の収穫がなくなってしまったら、来年はどうしたらいいのか。領民達は、どう暮らしていけばいいのだろう。

将来への不安で暗い気持ちになる。

「アメリア」

そんなとき、ふと名前を呼ばれて、アメリアは顔を上げた。

「は、はい」

「レニア領地では、あとどのくらいで雪が降る?」

「そうですね」

質問の意図はわからなかったが、アメリアは疑問を口にせず、即座に頭の中のデータを整理する。数年前から、天気や気温のデータも詳しく書き記していた。

「この辺りの冬は早いので、あと三十日後くらいには、初雪が降るかもしれません」

王都ではまだ秋になったばかりだが、ビーダイド王国の中でも一番北に位置するレニア領の冬は早い。 しかも、毎年少しずつ雪が降る日も早くなっているので、実際にはもう少し早いかもしれない。

「……そうか」

そう告げると、サルジュは視線を農地に向けたまま、静かに思案している。

学生の頃からずっと傍にいて、近頃はなんとなくサルジュの考えていることがわかるようになっていた。でも、さすがに今回ばかりはアメリアにもわからなかった。

わからないのは不安だったが、ここで質問を重ねて、彼の思考の邪魔をするわけにはいかない。

考えがまとまったら話してくれるはずだと、静かにそのときを待つ。

ずっとサルジュの護衛を務めているカイドも、その辺りは心得ているらしく、周囲を警戒しながらも、声を掛けようとしなかった。

「この魔法陣は、移動魔法を使うために描かれたものだ。これほどの大きさなのだから、かなりの距離を移動してきたのだろう」

やがて、サルジュはそう告げた。

「移動魔法?」

アメリアは驚いて、改めて魔法陣を見つめる。

彼の言うように、魔法陣はかなりの大きさだ。これが移動魔法だとしたら、あの少女はどこから来たのだろう。

「おそらく、他の大陸からだろう」

そんなアメリアの疑問に答えるように、サルジュが静かな声でそう言った。

「アレクシス様が、彼女が使った魔法は光魔法だと……」

エストとユリウスは感じ取れなかったようだが、サルジュはわかっていたのかもしれない。

「そうだね」

アメリアの予想通り、彼はあっさりと頷いた。

「今はもう他大陸との交流は途絶えているけれど、以前はあったようだ」

たしかにサルジュの言うように、他大陸の存在は知っていても、どんな国があるのか、どんな暮らしをしているのか知らない者はほとんどだ。

学園で習う他国の地理や歴史の中にも、他大陸は含まれていない。

「ビーダイド王国のさらに北に、小さな大陸がある。そこにはアーネ王国という国があって、ビーダイド王国の王女が嫁いだことがあったらしい」

今もその血筋が続いているかどうかは、わからない。

サルジュはそう言う。

エストもユリウスもそのことには触れていなかったから、咄嗟に思い出せないくらい、かなり昔のことなのだろう。

けれどあの少女が、本当に光魔法を使っていたのだとしたら、ビーダイド王家の血を引いている可能性はある。

(もしかしたら彼女は、アーネ王国の王族かもしれない。でも、どうしてこの国に?)

その目的は何なのか。

本来なら光魔法は、呪文も魔法陣も必要ないはずだ。あまりにも移動する距離が長かったので、補足するために移動先に魔法陣を描いたのか。

それともリリアンとアロイスのように、直系のビーダイド王国の王子たちほど、強い力は受け継いでいなかったのかもしれない。

どちらにしろ、よりによってその先が、レニア領の収穫間近の穀物畑だったとは。意図したものではないかもしれないが、あまりにも場所とタイミングが悪すぎた。

「その辺りのことは、アレク兄上たちに任せる」

他大陸に、光魔法の遣い手がいた。

そのことに驚いたアメリアだったが、サルジュはその辺りには、あまり興味がないようだ。あっさりと、兄たちに任せると言う。

「それよりも、今はまず農地を何とかしなくては。限界まで成長促進魔法を使えば、何とか雪が降る前に、元に戻せるかもしれない」

「えっ」

アメリアは、思わずサルジュを見上げた。

彼は光魔法の他に土魔法を使う。さらに植物学の専門家だ。

今から穀物を植え直し、成長促進魔法を使って、収穫できるまで成長させるつもりのようだ。

たしかに、サルジュなら可能かもしれない。

まだ彼と結婚する前、彼とカイドの三人で、ベルツ帝国に飛ばされてしまう事故があった。

そこは砂漠で、食糧もまったくない状態だったが、サルジュはたまたま持っていた果実の種子に土魔法をかけて、収穫できるまで成長させたことがあった。

けれど、レニア領の農地はかなり広大だ。

これだけの土地にすべて、収穫できるまで成長促進魔法をかけるのは、かなり負担になるのではないか。

「さすがに、すべてを元通りにするのは無理かもしれない」

アメリアが不安そうな顔をしていたからか、サルジュは表情を和らげて、安心させるように優しく告げる。

「それでも、レニア領地に住む人達が、来年一年、暮らせるぐらいの量は収穫できると思う」

「……ありがとう、ございます」

レニア領地に住む人達のために、サルジュは動こうとしてくれたのだ。

たしかに、今年の収穫がなくなってしまったら、来年どうやって暮らしていけばいいのかわからない人達もいるだろう。

まだこの国は、冷害から完全に立ち直ってはいない。

だから、少しでも収穫することができれば、どんなに助かるか。

「礼など必要ないよ。王族がこの国のために働くのは当然だ。しかも、レニア領はアメリアの大切な故郷だ」

「はい。私も頑張ります」

アメリアは滲んだ涙を拭って、そう告げる。

専門は水魔法で、残念ながら土魔法である成長促進魔法を使うことはできないが、今は魔導具も普及している。

水遣りの魔法も、きっと役に立てるだろう。