軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その5

「ですが、兄上」

ユリウスが動揺したように、やや早口で言った。

「俺にはわかりません。たしかに、強い魔力は感じましたが……」

「そうですね。私もです」

エストも、ユリウスの言葉に同意する。

どうやら光魔法の残滓を感じ取ったのは、アレクシスだけらしい。

彼は厳しい顔をして考え込んでいたが、ふいに森に向かって歩き出した。

「兄上?」

ユリウスが慌てて止めようとした。

「サルジュと話してくる。結界はそのままにしておくから、ここで待機していろ」

けれどアレクシスはそう言うと、引き留める声も聞かずに森の中に入って行く。

「……まったく、兄上とサルジュは」

「仕方ありません。ここで待機しましょう」

アメリアは、アレクシスがサルジュの結界をまったく気にせずに足を踏み入れたことに驚いた。

でも四兄弟の中でも、一番強い魔力を持っているのがアレクシスだ。

それくらいは可能なのだろう。

「光魔法か……。信じがたいが、兄上が言うからには、本当だろうな」

「そうですね。リリアンのような例もあります。もしかしたら、過去に似たような事件があったのかもしれません」

ビーダイド王国の王族しか使えない光魔法を狙って、過去には何度も誘拐事件があったくらいだ。

基本的に、光魔法は直系の王族だけが受け継ぐ。

アレクシスの子どものライナスは光魔法を使うことができるが、基本的にエストたちの子どもには受け継がれないはず。

けれど稀に、王太子以外の子どもにも、光魔法を受け継ぐことがあったらしい。

もしあの魔法陣が本当に光魔法ならば、ビーダイド王家の血を引く者が、リリアンとアロイスの他にも存在する可能性がある。

ユリウスとエストは、難しい顔をして話し込んでいる。

アメリアは、マリーエと手を握り合って、ただひたすらアレクシスとサルジュを待っていた。

どのくらい、時間が経過しただろう。

ふと、森に展開されていたサルジュの結界が消えた。

「サルジュ様」

それを感じたアメリアは走りだそうとしたが、マリーエに止められた。

「まだ駄目よ。向こうがどんな状況か、わからないのだから」

「……そうね」

朝からずっと、サルジュのことを心配していた。

すぐにでも会いに行きたい。

でもマリーエの言うように、迂闊に動くことによって、サルジュたちの行動に悪影響を及ぼす可能性もある。ここは落ち着くべきだと、深呼吸をする。

そしてマリーエの言葉で思いとどまったのは、アメリアだけではなかったようだ。

ユリウスとエストも、アメリアと同じように、森の手前で足を止めている。決まり悪そうなユリウスに、マリーエは優しい顔をして頷いていた。

しばらく待っていると、ようやく森の中からアレクシスの声がした。

「もう大丈夫だ」

その言葉に、全員で森の中に足を踏み入れる。

「……っ」

その途端に、満ちあふれた魔力を感じ取り、アメリアは思わず怯んだ。

マリーエも、怯えたように足を止めている。

「どうやら、誰かが魔力を暴走させたようですね。おそらく、あの魔法陣で魔法を使った張本人かと」

ふたりを気遣うように前に立ったエストが、そう言った。

レニア領の穀物畑を消滅させた魔法を使った、その光の魔法の遣い手は、魔力を暴走させてしまったようだ。

「アメリア」

耳になじんだ声で名前を呼ばれ、アメリアは魔力の強さに怯んでいたことも忘れて、走り出す。

「サルジュ様」

森の中にある開けた場所に、サルジュと護衛騎士のカイド。そしてアレクシスがいる。

アメリアはサルジュのもとに駆け寄り、その無事な姿を見て、深く安堵する。

「よかった……」

「ごめん。心配を掛けたね」

サルジュはそう言って、アメリアを抱きしめた。

出会った頃よりも身長が伸びたサルジュの腕の中に、小柄なアメリアはすっぽりと収まってしまう。

「アレク兄上、その子は?」

サルジュの温もりに、彼が無事だったことを改めて実感していたアメリアだったが、ユリウスの声にはっとして、アレクシスがいる方向に視線を向けた。

彼の足下に、ひとりの少女が横たわっていた。

色白の肌に、金色の髪。

目を閉じていても、まだ幼いながらも人目を惹くほど美しい少女だということがわかる。

「こんな少女が、あの魔法陣を?」

ユリウスが驚いたようにそう尋ねると、アレクシスは複雑そうな顔で、わからない、と告げた。

「サルジュが魔法陣を調べていたとき、あの森から強い魔力を感じたらしい。そこに、この少女がいたようだ」

「錯乱していて、話を聞けるような状態ではなかった」

兄たちからの視線を受けて、サルジュはそう続ける。

「ひどく怯えていて、自分のことも、どうしてここにいるのかも、何もわからないと言っていた」

「どうやら、記憶がないようだな」

アレクシスはそう続けて、意識のない少女を抱き上げた。

「だが彼女から感じる魔力は、間違いなくあの魔法陣と同じものだ」

アレクシスがそう言うのならば、あの魔法を使ったのは、この少女なのだろう。

けれど本人の記憶がなければ、その目的も聞き出すことはできない。

「また魔力を暴走させないとも限らない。王城の離れに連れて行こう。あの場所なら、魔力の暴走を抑えることができる」

そこは、まだ幼い頃のアレクシスが、魔力の制御を覚えるまで滞在していた場所だ。

「兄上、私はここに残ります」

サルジュはそう言い、アメリアの手を握りしめた。

「魔法陣のことありますが、これからのことを考えなくては。穀物畑を、あのままにはしておけません」

「私も、サルジュ様と一緒に」

アメリアも、すぐにそう続けた。

収穫間近だったのに、何もかもなくなってしまった穀物畑。

たしかにこのまま放っておいては、来年の植え付けもできなくなってしまう可能性がある。

「……わかった。カイド、サルジュを頼む」

黙ってサルジュの傍にいたカイドが、アレクシスの言葉に静かに頷く。

こうして少女を連れたアレクシスとユリウス、エスト。そしてマリーエは王城に戻り、アメリアはサルジュと一緒にレニア領に残ることにした。