軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 セドリック様の傷

橋の作業の翌日、アシュフォードから使いが来た。

セドリック様の母君、エレナ伯爵夫人の咳が強くなったという。温室で乾燥させた薬草はまだ十分ではないが、ロワ先生が調合した咳止めなら少しある。

「私が届けます」

そう言うと、ガスパルは驚いた。

「リディア様ご自身が?」

「契約で、アシュフォードへ薬草を分けると約束しました。最初の品ですから、状態を見たいのです」

本当は、母の友人だったという人に会ってみたかった。

アシュフォードの屋敷は、白楡館よりずっと手入れが行き届いていた。灰色の石壁、低い塔、広い厩舎。華美ではないが、隅々まで働く人の手が入っている。

エレナ夫人は、南向きの居間で毛布を膝にかけていた。

痩せた方だった。けれど目は明るく、私を見るとすぐに微笑んだ。

「あなたがリディアさんね。レティシアに似ているわ」

「母をご存じだったと伺いました」

「ええ。若いころ、よく一緒に薬草を焦がしたものです」

私は笑ってしまった。

「その話を、セドリック様から聞きました」

「息子は余計なことを覚えているのね」

エレナ夫人は咳き込み、侍女が背をさする。私はロワ先生の咳止めを渡し、使い方を説明した。

「ありがとう。ミレイユの薬の匂いがするわ」

「まだ母の温室を直し始めたばかりです」

「それでいいの。あの庭は、一度に戻すものではないわ。季節ごとに少しずつ」

夫人の言葉は、春の土のように柔らかかった。

帰り際、セドリック様が屋敷の裏庭を案内してくれた。

裏庭の奥には、小さな石碑があった。花は少ないが、周囲はきれいに掃かれている。

「父のものです」

彼は静かに言った。

「先代の伯爵様」

「はい。橋の事故で亡くなりました」

私は言葉を失った。

昨日、私たちが直した石橋のことが頭に浮かぶ。

「アシュフォードの北の橋です。管理を後回しにしていた。父は視察の帰りに増水に巻き込まれました」

「セドリック様は、そのとき」

「十七でした。王都の学院にいて、橋の修繕費を別の式典へ回したことも、報告書が机の下に積まれていたことも、後で知った」

彼の声はいつも通り落ち着いていた。だが、その落ち着きがかえって傷の深さを見せていた。

「だから、橋に厳しいのですね」

「橋だけではありません。屋根、薪、薬、給金。後回しにされたものは、いつか人を殺します」

私は胸が締めつけられた。

王宮では、後回しにされたものを私は何度も見てきた。けれど、そこで失われるものを十分に想像していただろうか。帳簿の数字の先にある人を、今ほど近くには見ていなかった。

「私も、後回しにしてきたものがあります」

思わず言った。

セドリック様がこちらを見る。

「自分のことです」

私は石碑の前で手を組んだ。

「体調、望み、怒り、寂しさ。家や王宮のためなら後でいいと思っていました。でも、後にし続けたものは、消えるのではなく、どこかで壊れるのですね」

セドリック様はしばらく黙っていた。

「あなたは、壊れる前にここへ来た」

「そうでしょうか」

「少なくとも、今は自分で食事を選び、契約に署名し、橋を見に行っている」

その言い方が真面目で、私は少し笑った。

「それで壊れていない証拠になりますか」

「十分ではありませんが、良い兆候です」

十分ではない。

セドリック様は、優しい慰めを言わない。そのことが、今はありがたかった。

石碑に花を供えた後、私たちは屋敷の裏門まで歩いた。

アシュフォードの庭は、冬枯れの中にも整った線がある。剪定された木、掃かれた道、修理された柵。白楡館と違い、ここはセドリック様が長い時間をかけて守ってきた場所だ。

「お父上の死後、すぐ伯爵に?」

「ええ。学院を辞めて戻りました。最初の数年は、何もかも間に合わなかった。母は体を崩し、古参の家臣は私を若造と見て、商会には足元を見られた」

「ボルマン商会も?」

「はい。彼らは弱った領地へ入り込むのがうまい」

私は足を止めた。

「ミレイユも、そうだったのですね」

「おそらく。前の代理人一人の問題ではないでしょう」

それは予想していたことだった。けれど、はっきり言われると重い。

「私は、うまくやれるでしょうか」

不安が口から出た。

セドリック様はすぐには答えなかった。彼は庭の向こう、冬の空を見てから言った。

「うまくやる必要はあります。ただ、一人で全部うまくやる必要はありません」

「また支えを増やす話ですね」

「ええ。私はそれしか知りません」

少しだけ、自嘲の混じる声だった。

私は首を横に振った。

「それを知っているのは、強いことだと思います」

セドリック様は驚いたように私を見た。

彼が言葉を返す前に、屋敷の方から侍女が走ってきた。

「旦那様、王都から急使です。王妃様の封蝋で」

セドリック様の表情が引き締まる。

私の胸も、同時に冷えた。

封書は二通あった。

一通はセドリック様へ。もう一通は、私宛て。

王妃エレオノーラの正式な召喚状だった。

私は封蝋の白薔薇を見つめた。

後回しにしていた王宮が、とうとう私の前に戻ってきた。