軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話

「なるほど……」

私の部屋に移動した私たちは、女子高生(?)の身の上話を聞いていた。

ソファに座る私の右肩にドラゴン。そして、両サイドに白いポメラニアンと水色のペンギン。

膝にいるのは黒い狐。そう。この黒い狐が女子高生なんだよね……。

耳としっぽが生えたあと、あれよあれよと、ここまで変化してしまったのだ。

サイズ的には柴犬ぐらい? 犬より耳が大きくて、しっぽが円錐形なのが違いかな……。

私に「嫌い!」と言っていたが、なぜかそのまま離れず、膝の上で丸くなっている。

ザイラードさんは、女子高生が狐に変化したことで騒然となった騎士たちを鎮めるため、部屋にはいない。

とりあえず、黒い狐(元女子高生)の話をまとめると、こうだ。

・女子高生は女子高生ではなく、狐

・過疎化が進む田舎のお稲荷様

・神様の使いとして、祖母から役目を引き継いだ

・しかし、思っていたよりも早く、村人がいなくなってしまった

・役目がなくなり、消えかかっていたところを拾われた

・異世界へ

・で、最初に会ったのが第一王子だった

うまくいかなかった日本でのことがあり、異世界ではりきってしまったのだろう。

とりあえず、テンションが私と全然違う。

過疎化とか消える村とかUターンIターン、高齢者向け住宅と突然の社会派。高低差で耳がキーンとなるから、耳抜きが必要。さらに……。

「胸がぎゅっとなる……」

ほにゃ、お前だったのか、感。

いろいろと行動したのに、最後には撃たれてしまうあの狐。あの感触がする。

玄関に木の実を置いたり、動物たちに畑の作物を荒らさないようにお願いしたり。そんなことをしちゃう、人間に優しい狐は、もはや、ほにゃである。ほにゃ、お前だったのか、である。

日本人が幼少期に刷り込まれる教育プログラムのトラウマ第一位。

「がんばったんだねぇ……」

非常にふかふかな毛皮をそっと撫でる。

おばあちゃんと孫。がんばる狐。すべてが私の心に沁みる。ぺろ、これは日本昔話の味。

黒い狐(元女子高生)はそんな私の手を甘んじて受けながら、話を続けた。

「『聖女ってなに?』って聞いたの。そうしたら『みなから尊敬され、崇められる素晴らしい女性だ』って言われて」

「うん」

「それになるしかないと思ったの」

……そうかぁ。そうかぁ……。思っちゃったかぁ……。思っちゃったんだねぇ……。

回想で出てきたおばあちゃんが一発目で『思い込みが激しい』って言ってるからなぁ……。おばあちゃんの心配が的中しちゃったんだね。

さすがおばあちゃん。先見の明。

「祈ってたのはどうして?」

「王子に言われたの。魔物を浄化しろって。わからなかったけど、とりあえずお願いしてみようって」

「お願い?」

あれはお祈りではなく、お願い。

いや、祈りとはお願いのことと言ってもいいような気がするから、間違ってはない……?

「……友達になってって」

「友達に……」

「……おばあちゃんいなくなって、一人だったから」

そこまで聞いた私は、くぅと声を出し、片手で目を抑えた。

沁みるのよ、私の心に。

「三人はそれは聞こえたの?」

レジェドとシルフェは女子高生(狐)の願いをまったく聞いていなかった。祈りのポーズで心でお願いするだけではダメだったのだろうか。

私の素朴な質問に、シルフェとレジェドと水色のペンギンは嫌そうな声を出した。

「キコエタ。イラットシタ」

「キコエタヨ。ムカットシタ」

「聞コエタノハ聞コエタワ。アリエヘン」

……大不評。

「オレノホウガ、ツヨイ。ヨワイヤツノ言葉、イラットシタ」

「ボクノホウガ、ツヨイ。ムカットシタ」

「ワイノガ強イノニ、失礼ナ嬢チャンヤデ」

三人とも表情が険しい。

どうやら、魔物の世界ではありえないことのようだ。

「強いとか弱いとかわからないわよ!」

黒い狐はそう言うと、私の膝の上に立ち、その場でくるりと回転して、頭を私のお腹へとぎゅっと押し付けた。

もう、見たくない! 知らない! みたいな様子である。

「セヤカラ、ソウイウトコヤデ」

そして、水色のペンギンがやれやれと息を吐いた。

うーん……なんていうかこう、コミュニケーション能力の不足によるすれ違いって感じだなぁ……。

難しいよね、コミュニケーション。私もいつも失敗する。めんどくさいから笑ってごまかしちゃうしな……。

人のことを言えない自分のコミュ能力に、胸がうっとなる。

すると、扉がコンコンとノックされた。

「ザイラードだ。話がある」

「はい、どうぞ」

どうやら騎士たちとの話は終わったようだ。

まあ上司にしたい男No1のザイラードさんならば、うまく収めてくれただろう。

そう思っていたんだけど、ザイラードさんの表情はやけに真剣で――

「今、どういう状況だろうか?」

「あー、えっと、話を聞いていました。で、どうやら彼女は元は狐で神様の使いだったようです」

「神の使い?」

「はい。私のいた世界ではそういう言い伝え? みたいなのがありまして、まあ、もしかしたらそういうこともあるのかもしれないな、と納得はしました」

「そうか」

「神様の使いとしての役目があり、そのための力もあります。人間に化けることができて、こちらの世界に来たときからずっと化けていたようです」

そこまで言うと、ザイラードさんは詰めていた息を吐いた。

そして、私の前に跪く。

「つまり、あなたが少女を狐に変えたわけではないということだな?」

「え、はい、もちろん」

ザイラードさんの言葉に当たり前だと頷く。

いったいなんの話?

「……俺はてっきり、ついに人間を動物や魔物にする能力も目覚めたのかと」

「いやいやいやいやいや! すごい怖いじゃないですか、それ!」

「ちょうど手をかざしたところだったしな」

「いやいやいやいや! 手をかざしたのではなく、涙を拭きとったんですけど……?」

ザイラードさんの言葉に驚き、必死で否定をする。

あれ? おかしくない? あれ? もしかして、周りからはそう見えてるの? 私がなんかすごい力で、女子高生を狐に変えてしまったと思われてるの?

待て待て待て。思い出してみよう。私の行動を振り返ってみて!

① 口からブレスを吐いて除雪

② 手で空気を圧縮し、体を吹き飛ばす

③ 近づいて涙を拭いた途端に、女子高生から耳としっぽが生える

よし、なるほど!

「たしかにやってもおかしくない風情」

風情があったわ……。

呆然とつぶやくと、ザイラードさんは真剣な瞳で私を見上げた。

「……今、あなたの力を恐れた第一王子が王宮へと帰り、喧伝している」

強い色の瞳は、それが良くないことだと告げていて……。

「『あれは聖女ではない、魔女だ』と」