軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 *女子高生視点

『思い込みが強すぎるんだから……。心配だよ。わたしゃあ……』

大好きなおばあちゃんの声がする。

でも、大丈夫。私ならできると思う。

『ごめんねぇ……。こんな役目を背負わせて』

おばあちゃんの声が小さくなっていく。

謝らないで欲しい。大丈夫。私ならできるから。

『できないと思ったら役目を降りていいからね。絶対だよ。……いいね?』

おばあちゃんは最期にそう言うと、きらきらと光になって消えていった。

最期まで、ずっと私を心配してくれていた。

大好きなおばあちゃん。

凛とした背中と優しいしわがれた声。私のわがままを『仕方ないねぇ』と笑ってくれるのが大好きだった。

あの笑い声はもう聞けない。

でも、大丈夫。私ならできる。

一人でおばあちゃんの守ってきたものを引き継ぐのだ。

「お社を……守るの」

大好きなおばあちゃんとの思い出を……。

おばあちゃんの守っていた社がある村。

昔はたくさんの人が住んでいたらしいけれど、私が生まれたときには老夫婦が一組いるだけだった。

でも、その一組の夫婦は信心深くて、一週間に一度は山道を登って、お社の掃除をしてくれた。

お供え物は、真空パックされたお饅頭と、ワンカップの日本酒。

この辺りは鹿やイノシシがいるから、悪さをされないようにって匂いが出ず、日持ちがするものを選んでくれていたようだ。

おばあちゃんはそれをうれしそうに見ていて、もう眠ってしまったという土地神様に思いを馳せていた。

――おばあちゃんは、土地神様の使いだった。

土地神様はそこに住む人々が信仰してくれることで、力を得て、存在することができる。

もう人のいなくなったこの村では力を保てず、けれど守ることを続けるため、土地神様は一足先に眠りについたらしい。

おばあちゃんは一人残り、この村と一緒にいることにしたのだと教えてくれた。

けれど、おばあちゃんの寿命と老夫婦との寿命では、老夫婦のほうが長い。そうなると、老夫婦の今後が危うくなる。

土地神様も眠り、神様の使いもいなくなれば、土地が荒れるからだ。

おばあちゃんはそれも仕方なし、と思っていたようだった。

けれど、私はおばあちゃんが大事にしていたこの村をそんな風にはしたくなかったし、ずっと私たちへの信仰を忘れなかった老夫婦の晩年が苦しいものになるのもいやだった。

――だから、私が役目を引き継いだ。

それに、私はもしかしたら、と思っていたのだ。

だって、老夫婦が最後だなんて限らない。また、人が住んでくれる可能性だってある。

おばあちゃんは知らないだろうけど、最近では田舎でのスローライフが流行っているし、IターンやUターンといった、都会から田舎への移住も進んでいる。

うちの村がある役場にもそういう制度があることは確認した。

ここはいい土地なのだ。

たしかに交通の便は良くないし、道も狭い。鹿も出るしイノシシもいる。病院も車で45分のところに、総合病院の小さな分所があるだけで、一週間に二日しか医師はいない。

でも、スマホの電波は届くようになったし、私道が長いからお金はかかるだろうけれど、インターネットの配線もできるのだ。

だから、大丈夫。きっと私はできる。

私ははりきって、たくさん動いた。

鹿やイノシシを集めて、畑の作物を食べないように説得したし、人間に化けては役場へ行き、引っ越してくる人がいないか確認した。

……でも。

――おばあちゃんが消えてから、四ヶ月後。老夫婦の夫が亡くなった。

葬儀には息子夫婦や娘夫婦が来て、老夫婦の妻といろいろと話をしていたようだ。

私はまたはりきった。

息子夫婦や娘夫婦がこの土地を知ってくれれば、もしかしたら一緒に住んでくれるかもしれないと思ったのだ。

人間が食べられる木の実をこっそりと置いてみたり、鹿やイノシシにお願いして、できるだけ見た目のいいヤツを目撃できるようにしたり。

今、流行りのUターン移住だ。きっとそうなる。

私はわくわくして……。でも……。

――おばあちゃんが消えてから、一年後。老夫婦の妻は村から出ていった。

遠くの町にある老人用のマンションに引っ越すことになったらしい。

そこなら病院も近いし、買い物も徒歩でできる。コンシェルジュ? がいて、ちょっとしたお願いごとならできるし、健康チェックには介護スタッフが声をかけてくれるんだって。

人間に化けて手に入れたのはそんな情報。

「だれも……いなくなった……」

私ならできるって思ったのに。

なにもできなかった。

やらなきゃいけなかったのに。

私がやらなきゃ……。

「消えちゃうのに……」

おばあちゃんの守った社。

土地神様の守った土地。

楽しかった思い出も、苦労した記憶も。全部全部、なくなっちゃうのに。

私がやらなきゃいけなかったのに。

「私はダメな狐……」

たくさんの人が参拝して、お賽銭を投げてくれる。

そんな社にしたかった。

たくさんの人が笑顔で暮らしてて、盛大な祭りをしてくれる。

そんな村にしたかった。

「……なにもできなかった」

老夫婦の妻は手荷物を四つぐらい持って、タクシーに乗って出ていった。

私は人間に化けて、そのタクシーを村の出口まで見送る。

小さくなっていく車体を最後まで見つめて……ぺたりと座り込んだ。

すると、体がゆっくりと消えていって――

「私も消えるんだ……」

最後の村人が出ていったから。

もうここに土地神様はいない。だから神の使いの私もいなくなる。

おばあちゃんはそうなることがわかっていて、私にもそう伝えていた。

『最後は神様の使いをやめるんだよ。お前は若いんだからね? いいね? お前は立派な狐だから、ほかの神様の使いにもなれる。頼むよ。絶対だからね。いいね?』

何度も何度も念押しされた。

私はそれに「わかってるよ」って返した。

でも……。

「どうせ……私は……」

ダメな狐だから。

ほかの神様の使いになったって、どうせ……。

だから、このまま消えても仕方ないって思った。

でも、そこで、すごくすごく強い光がこちらへ向かってきて――

『こんなところでどうしたんだい? 消えかけてるじゃないか』

そう言って、私に声をかける神様が現れたのだ。

土地神様なんてものじゃない。

あまりの力の強さに、消えかけていたはずの体が思い出したようにガタガタと震える。

『どうかなぁ。まあいいか。もののついでだね』

そう言って、私を連れて行ってしまった。

行先は異世界。

魔物と呼ばれる力のある生き物がいて、それが私と同じようなものだと思ったらしい。

『この世界のほうが生きやすいんじゃないかな』

私はそうして、異世界にやってきた。

まだ事情が呑み込めなくて、呆然としていると、突然声をかけられたのだ。

「あなたが救国の聖女か!」

と。