作品タイトル不明
9.レイの選択(2)
数日後、リディアはレイと共に王宮にいた。初めて入る謁見室。国王は、リディアとレイを見て目を細める。
「ふたりとも、よく来てくれたな」
玉座に座った国王は、ふたりを見下ろす。
他愛もない話を数分したのちに、国王は本題を切り出した。
「アッシュ。今一度、聞こう。王宮へ戻らぬか?」
国王はレイに、静かに問いかけた。
「そなたが受けた苦痛や悲しみを償いきれるものではないが、今からでも本来の地位と暮らしを与えたいのだ」
「王宮には戻りません」
レイは何の迷いもない様子で、はっきりと答える。隣にいたリディアはぎょっとした。
「レイ? どうして? 王宮に戻れば、今よりずっといい暮らしができるんだよ?」
「でも、王宮にはリディアがいない。俺はリディアと暮らす」
リディアは絶句した。
「だってリディアは、俺が一緒に王宮に来てくれって言っても来ないだろ?」
「それは──」
レイの言う通りだ。たとえレイに一緒に王宮に来てくれと言われても、一緒に行くつもりはない。
リディアの存在はレイの新生活には邪魔にしかならないので、足かせになりたくなかったのだ。
怒るのではないかとびくびくするリディアの予想に反し、国王は深く息を吐いただけだった。
「……そなたは、よほどその娘を大切に思っているのだな」
「ああ。リディアは俺の全てなんだ」
レイはリディアの手を握る。
「レイ……」
何の迷いもなさそうな態度に、なんと声をかければいいかわからない。
一方、国王は小さく笑った。
「ならば、無理に王宮へ戻せば、またそなたから居場所を奪うことになるか」
「戻らないし、戻せないでしょ。俺より強い魔術師なんていないんだから」
「それもそうだな」
国王は小さく頷く。
その様子を見て、リディアはふたりがこのやりとりをもう何回、何十回とやっているのだと理解した。
「そもそも、俺は王族であることに興味がない。国王になりたいとも思わない」
「本当に欲がないな。わかった。そこまで言うなら、王宮に住まぬことは認めよう。ただし、王子としての身分は保つ。そうすれば、王位継承権を放棄しても王族として得られる利権は享受できるだろう。与える財産も、そなたが望む形で使うがよい」
リディアはひゅっと息を呑む。
破格の待遇だ。国王なりに色々考えて、レイにとって最も望ましい形になるよう整えたのだろう。
「加えて、そなたには王国最強の魔術師として称号を与える」
「称号?」
「ああ。本当であれば魔法庁の長官に任命したいのだが……それも嫌なのだろう?」
「だって、魔法庁にはリディアがいないから」
国王は苦笑した。
「ならば、そなたの望む形で過ごせばよい。ただひとつ、条件がある。結界を維持することと、魔法庁で手に負えない案件が発生した際は力を貸すこと」
「まあ、そのくらいなら。そもそも、結界が壊れると魔獣が入ってくるからリディアに危険が及ぶもんな」
レイは頷く。
どこまでもリディア至上主義な態度だ。
「本当に、その娘が一番なのだな」
「当たり前だろ」
「少しは否定してよ……」
リディアは恥ずかしさで俯いた。