軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.レイの選択(3)

その後、カーティスは魔法庁の副長官に任じられた。

身分を理由に冷遇されてきた彼にとって、それは正当な評価だった。

「身に余る役職で緊張しますが、精いっぱい頑張りたいと思います」

そう言ったカーティスの顔は、とても晴れやかだった。

そして、カーティスから復帰を望まれたシリルは、無事に王宮魔術師になった。

「面倒くせえが、あの腐った塔を立て直すには人手がいるからな」

そう言いながらも、どこか楽しそうだ。

そしてレイはと言うと、魔法庁の名誉長官という無理やり作ったとしか思えない役職に名前が連ねられ、結界を張る役目以外に、魔術の研究の際などに支援を行っている。

そして、リディアは──。

「うー、苦い!」

朝の日課である薬草で作った特製ジュースを飲み、リディアは顔をしかめる。

今日はリンゴのすりおろしを入れてみたが、あまりの苦さでりんご味はゼロだった。

「その薬草さ、魔力の成分だけを抽出して錠剤にしてみようと思うんだ」

あまりのまずさに涙目になるリディアを見つめながら、レイは言う。

「錠剤? そんなことできるの?」

「それはこれからの研究次第だけど、できるんじゃないかな」

レイはあっけらかんという。

「それ、すごく助かる! 本当に助かる!」

リディアは喜びのあまり、身を乗り出す。

植物から魔力を吸収できるのは助かるのだが、なにせこれらの薬草は苦い。この特製薬草ジュースを飲み始めて早五年近いリディアでさえ、あまりの苦さに毎朝悲鳴を上げるほどなのだ。

それが、錠剤ひとつで済むようになったらどんなに助かるか。

「成功したら、その錠剤を一般の流通に載せたいんだ。ほら、フォシニが禁止されて、魔力の確保に困っている人が多いから」

「あ……」

リディアはハッとする。

あの事件のあと、フォシニを奴隷のように扱うことが禁止され、魔力は原則として双方の同意のもとに融通することになった。それにより、少なからず魔力量の確保に奔走する魔法使い達が現れているのもまた事実だった。

レイはその現状を見て、なんとか薬で解決できないかと考えているようだ。

(魔法庁長官なんて絶対に嫌だって固辞してたけど、レイはきちんと国のことを考えているんだね)

知らなかったレイの一面を見て、また好きになる。

「リディア。今日、一緒に出掛けたい場所があるんだけどいいかな?」

「もちろん。どこ?」

「行ってからのお楽しみ」

レイは思わせぶりに笑った。

朝食のあとレイに連れてこられたのは、王都の一番の繁華街である中央通りに面した小さな店舗だった。

「ここは?」

「薬屋だったみたいなんだけど、店主が高齢で最近閉めたらしいんだ」

「へえ」

リディアはがらんどうになった店内を見回す。

広い窓からは明るい日差しが差し込み、奥には調合室に使えそうな部屋もある。大通りに面していて、立地もいい。

(わあ。こんな店、いつか持ってみたいな)

リディアは感嘆の息を漏らす。

「素敵なお店ね」

「うん。リディアの薬屋だよ」

「え?」

「買った」

思いがけない告白に、リディアは固まった。

「買ったって……」

まるで芋を買ったかのように簡単に言うが、立地的にかなりの高額だったはずだ。

「そんな、簡単に……!」

「簡単じゃないよ。ちゃんと仲介業者に行って、契約した」

「そういう意味じゃなくて!」

レイはリディアを見つめ、不安そうな顔をする。

「もしかして、嫌だった? リディア、自分の店を持ちたいって言ってたから、ここがいいかなと思ったんだ」

その表情を見て、リディアはハッとする。レイはリディアのことを思って、足を運んで店舗を見て回り、ここを買ったのだ。

そう思ったら、胸がいっぱいで言葉が出ない。

感激で涙が滲む。

「リディア⁉ 泣くほど嫌だったのか?」

「違うの! 嫌なわけない……」

慌てふためくレイに、リディアは言う。

「ずっと、夢だったの。こんな素敵な店を持つのが」

「じゃあ、よかった」

レイはほっとしたように笑った。

「……ありがとう。ありがとう、レイ」

もう耐えきれず、リディアはぽろぽろと泣き出す。

レイは少し戸惑ったような様子を見せたが、すぐにリディアを抱きしめた。

「家も買ったから、案内する。すぐ近くだよ」

「ええ!? 家まで?」

「うん。リディアが小ぢんまりしてて庭付きがいいって言ったから、ちゃんとそういう家にした」

びっくりしすぎて、涙も一瞬で引っ込んだ。

「リディアが望むなら、何だってするって言っただろ」

「何だってはしなくていいわ」

「する」

「もう」

レイの胸の辺りを、軽く叩く。

笑いながら顔を上げると、真剣な表情でこちらを見つめるレイと視線が絡まった。リディアの胸が、どくんと跳ねる。

「リディア。名前も、家も、自由も、人の温もりも、俺は何も持ってなかった」

レイは静かに言った。

「リディアが全部、くれたんだ」

「レイ……」

「だから、今度は俺がリディアが望むものを全部あげる」

「国が欲しいって言ったらどうするの?」

「もちろん、とりに行くよ」

レイは笑う。

「冗談はやめて」

「冗談じゃないのに」

「もっと良くないわ」

リディアはくすくすと笑う。

「レイ、愛してるわ」

「俺もリディアのこと、世界で一番愛してる」

ふたりの距離がさらに縮まり、唇が重なった。

<了>