作品タイトル不明
7.対決(5)
「ダリウス長官が……?」
カーティスはすぐには理解できず、シリルを見返す。
「ああ、考えてもみろ。王宮から王子を連れ出すことができて、レイほどの人物をフォシニとしてこれまで従えることができて、自由に動かせる魔法使いの部下が複数いる。こんな奴、他にいるか?」
逆に聞き返されて、カーティスは答えに窮した。
言われてみれば、シリルの言う通りだ。
それに、第二王子の死亡確認をしたのはダリウスだ。
「しかし、第二王子の遺体は葬儀の際に多くの人々が目にしています。それについては──」
「魔法で仮死状態にでもしたんだろ。あいつなら、朝飯前だ」
シリルの言葉に、カーティスは返す言葉が見つからなかった。
ダリウス・クロウウェル──この国で最も才能あると言われる大魔術師だ。シリルの言う通り、ダリウスであればそれくらい朝飯前だろう。
「すぐにダリウス長官を探して、真偽をたださねば」
「あいつは絶対自分がやったなんて言わねーよ。自分さえよければいい奴だからな。そのくせ善人ずらして、反吐が出る。俺らが結託して反逆しようとしたって言われるのが関の山だ」
「では、どうするのです?」
まさかこのまま見て見ぬふりをするのではと、カーティスは非難の意を込めた目でシリルを見る。シリルはにやっと笑った。
「レイが王子であると、言い逃れのできない証拠を用意しよう」
「言い逃れのできない証拠?」
「ああ。フォシニの性質を利用して、他の王族を利用するんだ。血が繋がっていれば、魔力の融通にフォシニの契約はいらない」
カーティスは目を見開く。
シリルの言う通りだった。魔力を作り出す魔核を持つ人々は一定数いるが、彼らの作り出す魔力はそれぞれ微妙に違い、そのまま受け入れれば受け入れた魔法使い側が体の内部に大きな損傷を負うことになる。
フォシニの契約では、フォシニ側の意思に関係なく魔力を差し出すだけでなく、魔力の違いを調和する魔法が掛けられているのだ。
しかし、親兄弟などの血の繋がった者同士はそもそもの魔力の質が酷似しているためフォシニの契約なしで魔力のやり取りが可能だった。
「しかし、国王陛下がそのようなことに応じてくださるでしょうか?」
「国王陛下以外にもいるだろ」
そう言われ、カーティスはハッとする。
レイを産んだ側妃は既に亡くなっているが、彼女は生涯でもうひとり子供を産んだ。第三王子のサファエル・ルクレインだ。
シリルはカーティスを見つめたまま頷く。
向かう先は王宮の外れにある離宮。皆に忘れられた存在である、第三王子の居室だった。
◇ ◇ ◇
艶やかな黒髪に年齢を感じさせない美しい肌。子供を三人産んだとは思えないひっそりとした腰。
アルファールの王妃であるルミナスは、幼い頃から評判の美女だった。そして、既に四十代も半ばに差し掛かっているにもかかわらず、その美しさは衰えることを知らない。
多くの男たちが彼女に心酔し、愛を乞い、そして叶わぬ思いに胸を焦がした。
魔法庁長官のダリウスもそのひとりだ。
「ダリウス。王族を騙る反逆者が現れたと聞いたわ。本当なの?」
王妃は形の良い眉を寄せて、ダリウスに問いかける。
「はい。しかし、心配はいりません。ただいま追っ手を放っておりますので、すぐに捕らえられるでしょう」
「そう……。ところでその若者は、本当に王族ではないのね? ほら、実は陛下が市中で──」
王妃はそこまで言うと、口ごもる。
ダリウスはその様子を見て、彼女が言わんとしていることすぐに悟った。国王が市中の女を気まぐれに抱き、婚外子がいるのではないかと心配しているのだ。
万が一国王の血を引いているなら、その者には王位継承権が自動的に発生する。第一王子である長男を溺愛し、我が子を王太子にすることに全身全霊を注いできた王妃にとって、それは看過できないだろう。
「それはないかと。とるに足らない小者です。ただ、ご心配なら捕らえずにそのまま始末してきましょう」
「ええ、それがいいわ。さすがダリウスね。わたくしの気持ちを、よくわかっているわ」
王妃は満足げに微笑む。
「おほめ頂き光栄に思います」
ダリウスは彼女の手をそっと取ると、キスをした。
──始まりはまだダリウスが二十代の頃だった。王宮魔術師としてキャリアを積んでいたダリウスは、その才能により若くして周囲から注目を集める存在だった。
そんなある日、ルミナスがふらりと魔法庁にやって来たのだ。
『お前が噂の魔法使い? ふうん、確かに見目もいいし、若いわ』
ダリウスを見るなり不遜な態度でそういい放った令嬢こそ、まだ王太子の婚約者という立場だったルミナスその人だった。
人によってはなんて無礼な女だと怒るかもしれない。けれど、ダリウスはその逆だった。
誰もが自分にひれ伏すのが当然だと思っている、その圧倒的な雰囲気と彼女の美しさに思わず見惚れた。そして、彼女のそばにいたいと願った。
振り返れば、それは一目ぼれであり、ダリウスにとって遅い初恋だったのかもしれない.。