作品タイトル不明
7.対決(4)
◇ ◇ ◇
その日の夕方、届いたばかりの夕刊を読んでいたシリルは、ちょうど目に入った記事を読んで眉をひそめた。
「なんだ、これ?」
【王族を騙る反逆者現る】
見出しの下には、レイとしか思えない特徴がつらつらと書かれていた。銀髪、碧眼、22歳、整った見目で名前は「レイ」。
「レイ! これはどういうことだ!」
「え?」
当の本人であるレイは、呑気に本棚にはたきをかけている。
「これだよ、これ!」
シリルは持っていた新聞を両手で広げ、ずいっとレイの目の前に突き出す。
「さあ?」
「さあ、じゃない! お前、犯罪者扱いされているってことだぞ!」
「そうなんだ?」
レイの呑気な反応に、シリルは頭を抱える。
「お前な。少しは焦らないのか?」
肝が据わっているというのか、抜けているというのか。
とにかく、動揺している自分がアホらしくなるほどの平静さだ。
と、そのとき、店のドアがバンッと開く。
「レイ! これはどういうこと!?」
そういいながら入ってきたのは、リディアだ。いつも薬を入れている籠バックを腕にかけ、手には紙を握りしめている。
「リディア!」
レイはリディアを見ると嬉しそうに近寄り、ぎゅっと抱きしめる。リディアは「ちょっと、ちょっと!」とレイの胸を押し返した。
「どうして嫌がるの」
レイは不満そうに眉根を寄せる。
「今、それどころじゃないでしょ! これを見て!」
リディアが広げたのは、ちょうどシリルが読んでいたのと同じ新聞記事だった。王族を騙って詐欺を働こうとした反逆者が現れたという内容だ。
「これって、カーティスさんがレイを反逆者だって報告したんってことでしょうか?」
「いや、カーティスに限ってそんなことは絶対にない」
シリルは即座に否定する。
「でも、タイミング的にそれしか考えられなくないですか⁉」
リディアも負けじと言い返した。
昨日現れたカーティスはレイのことを第二王子である可能性が高いと断言し、王宮にそれを報告すると言っていた。
それとときを同じくして、レイが王族を騙った反逆者だという記事。
何も関連がないと考えるには無理がある。
「たしかにタイミング的にはそうなんだが、カーティスはそんなことする奴じゃない。きっと、何か事情があるはずだ」
「事情って?」
「それはわからない。だから、俺が今から確認に行ってくる」
「え? 今から?」
「ああ、今からだ。ことがことだけに、早いほうがいい」
シリルは頷く。
「今日はもう店を閉めよう。レイがここで働いていることを知っている客は多い。その中に、情報を売る奴がいても不思議じゃないからな。……あと、リディアの家も危ないかもしれない。不便だとは思うが、暫くの間帰らないほうがいい」
「そうですね」
胃がぎゅっと痛くなる。
この国は、ただでさえフォシニに対して厳しい。
もしレイが反逆罪で捕らわれたら、彼らは何の躊躇もなくレイの命を奪おうとするだろう。
(絶対にそんなことさせないわ)
リディアはぎゅっとこぶしを握った。
◇ ◇ ◇
店を閉めたあと、シリルはすぐに魔法庁に向かった。白亜の塔を見上げる。ここに来るのは、王宮魔導士をやめて以来だ。
建物に入ると、中はシリルが働いていた頃と変わっていなかった。魔力によって上下に移動する箱に乗って上階へと向かうと、上から三つ目の階で降りる。
「カーティス、いるか?」
カーティスの執務室のドアの前で、中に向かって話しかける。
すると、勢いよくドアが開かれた。
「シリルさん、どうしてここに⁉」
「お前に話があったからに決まっているだろ。これはどういうことだ」
シリルは、持参した新聞をカーティスの目の前に突き出す。カーティスの表情が強張った。
「実は、私にもわからないのです。昨日、長官にレイさんのことを報告しました。すると、長官はレイさんを保護するどころか、聞く耳すら持ちませんでした。今日になってこの記事を見て、正直混乱しています。握りつぶされてなかったことにされるのは覚悟していましたが、まさか反逆者として告発するとは──」
カーティスは頭に手を当て、髪の毛をぐしゃりと搔きむしる。
その様子からは、彼の混乱ぶりが窺えた。
「先ほど新聞でこのことを知り、すぐに長官と話さなければと思い会いに行ったんです。しかし──」
「会えなかった?」
「はい」
カーティスは沈痛な面持ちで、頷く。
「正直、わけがわかりません。なぜ長官があそこまで頑なにレイさんのことを否定するのかも、突然反逆者扱いした行動の意図も。このままではレイさんに実害が及ぶ可能性があるというのに、長官に会うことすらできない」
シリルは話を聞きながら、はあっと息を吐く。
「俺はなんとなく予想がつくけどな、あの野郎がレイを否定する」
「本当ですか?」
「ああ。レイがフォシニだったことは以前リディアの家を訪ねてきた際に説明したな?」
シリルは視線を鋭くする。
「レイをフォシニにしていたのは、恐らくダリウス長官だ」