軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編4 先輩騎士、後輩の惚気に胃もたれする

最近。

後輩の付き合いが良くなった。

いや、正確には。

ルーク・グランツが飲み会へ来るようになった。

騎士団内でも有名な無表情男。

酒の席にもほぼ顔を出さず、来ても端で黙って酒を飲むだけだった男だ。

それが今では。

「ルークー! 飲め飲めー!」

「どうせ帰っても奥さんに肘鉄されるだけだろー!」

「ははは!」

なんて野次の飛ぶ席に普通にいる。

世の中、何が起こるかわからない。

俺は酒を片手に、向かいへ座るルークを見た。

相変わらず無表情。

だが今日は少しだけ口数が多い。

たぶん酒のせいだ。

「なぁルーク」

「なんですか」

「お前、奥さんに散々肘鉄食らってるんだって?」

「まぁ、そうですね」

あっさり認めた。

周囲の騎士たちがニヤニヤ笑う。

「お前のことだ。鍛えてるから大して痛くないんだろ?」

すると。

なぜかルークの視線が泳いだ。

「……」

「お?」

「脇腹と脇腹の間を的確に狙ってきます」

「脇腹と脇腹の間?」

「急所です」

真顔だった。

めちゃくちゃ真顔だった。

「隙を作らないよう気をつけてるんですが、一瞬の隙を狙ってくるので、本当に、毎日気が抜けない……」

低い声で淡々と語る。

なのに内容だけ聞くと強敵との戦闘報告だ。

しかも途中から目が本気だ。

一瞬だけ、騎士団最強格と言われる男の片鱗を見た気がした。

「いやいやいや」

別の騎士が笑いながら割って入る。

「気が抜けない嫁とか嫌だろ。家帰りたくなくならねぇ?」

「わかる」

「家くらいゆっくり休みたいよなぁ」

「でも、どんなに鍛えても嫁が怖いって騎士、結構いるよなぁ〜」

「俺は独り身でいいや」

先輩騎士たちがうんうん頷く。

すると若い騎士がルークへ聞いた。

「ルーク先輩は嫌じゃないんですか? 気の強い奥さん」

その瞬間だった。

ルークがぴたりと黙る。

そして酒を一口飲み。

ぽつりと呟いた。

「あいつは……」

全員が耳を傾ける。

「気が強いのは、強く見せるためというか」

「ほう」

「本当は涙脆くて、そこまで強いわけじゃない……」

「へぇ?」

「実際、ちょっと迫るだけで顔真っ赤にして狼狽える」

騎士たちがニヤニヤし始める。

ルークは気づかない。

「いつも強気なのに、肝心なところで弱気になったり……」

そこで少し視線を逸らした。

真顔なのに、酒のせいなのか、頬にほんのり朱が差した。

「……可愛すぎる」

「「「あーーーーーー」」」

酒場中が生暖かい空気になった。

なるほど。

こいつ重症だ。

俺は笑いながら酒を飲む。

「まぁでも分かるわ。お前の奥さん、小動物系だもんな」

ルークの視線がこちらへ向いた。

「怒っても逆に可愛いっていうか――」

次の瞬間。

顔面を鷲掴みにされた。

「痛ァッ!?」

ミシッ。

嫌な音がした。

周囲が凍る。

ルークは無表情だった。

無表情のまま、めちゃくちゃ俺の頭を握っていた。

「今」

「ぐえっ」

「俺の奥さんの可愛い顔想像しましたね?」

「し、してな――」

「今すぐ消してやりましょうか?」

「待て待て待て待て!!」

騎士たちが慌てて止めに入る。

「ルーク落ち着け!!」

「酒飲み過ぎだ!!」

「目が怖ぇ!!」

「無表情で人を殺すな!!」

数秒後。

ようやく手が離された。

俺は顔を押さえながら椅子へ崩れ落ちる。

頭がズキズキする。

「っはぁ……」

ルークは椅子へ座り直し、酒を飲んだ。

そして深々とため息をつく。

「……帰りたい」

「急だな!?」

「どうしてくれるんですか」

「何がだよ!?」

「今すぐ帰って、ミレナを後ろから抱きしめて」

嫌な予感がした。

「耳元で“可愛い”って言い続けたい」

「やめろぉ!?」

騎士たちが爆笑する。

ルークは真顔だ。

本気だ。

「でも、たぶん速攻で肘鉄来るんですよね」

後輩が的確な意見を言う。

「いや、最近は肘鉄と見せかけて、踵で親指潰しに来る」

「進化してる!?」

「だからそこを狙った隙をついて頭を押さえて――」

ぶつぶつと“ミレナ攻略法”を語り始める。

怖い。

しかも楽しそうだ。

俺は心の底から思った。

ミレナさん。

本当にすみません。

そして頑張ってください。

たぶんあなたの旦那さん、思った以上に重量級です。