軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編5 同僚騎士、夫婦の情事を目撃して死を覚悟する

その日。

俺は上司に頼まれて、ある男の家へ向かっていた。

届け物。

ただの書類だ。

なのに俺の足取りは軽い。

なぜなら。

「噂の奥さん、見れるかもしれねぇしなぁ」

そう。

相手はルーク・グランツ。

騎士団最強格。

無表情。

愛想ゼロ。

でも最近、結婚してから様子がおかしい男。

飲み会では奥さんの惚気を真顔で語り。

訓練中なのに急に「帰りたい」と呟き。

挙句、

『最近、肘鉄と見せかけて踵で親指潰しに来る』

と、よくわからん惚気を言い出した重症患者である。

あの男をそこまで崩壊させた奥さん。

気にならないわけがない。

まぁ、軽く挨拶くらいはできるだろ――

そう思ってノックしようとした瞬間だった。

ドンガラガッシャァン!!

「うおっ!?」

家の中から、とんでもない音が響いた。

続けて。

『手を怪我する!! 物を投げるな!!』

ルークの声。

さらに。

『髪を引っ張るな! 待て、落ち着け!』

そして、

『っぐ……つぅ……!』

鈍い音。

苦痛の声。

あ、殴られた?

いや、肘鉄か?

俺は思わず真顔になった。

噂以上だ。

噂以上に過激な奥さんだ。

『やめっ!!』

ガシャァン!!

何かが倒れる音。

一瞬、嫌な想像が頭をよぎる。

まさかルーク、奥さんに手を――?

『か弱い女性に手を上げようなんて百年早い!!』

直後。

ゴッッ!!

重いものが壁へ叩きつけられる音。

か弱いかどうか、甚だ疑問な音だ。

『いってぇ……』

ルークの苦しそうな声。

待て。

押されてるの、ルークじゃないか?

『おい、フライパンはやめろ!!』

悲鳴みたいな声が聞こえた。

俺、三日三晩寝ずに山籠り訓練した時ですら、ルークのこんな声聞いたことない。

『絶対許さないんだから!!』

悲鳴にも似た奥さんの声。

これはまずい。

夫婦喧嘩とかいうレベルじゃない。

止めないと死者が出る。

俺は慌てて扉を開けた。

「おいルーク!! 大丈夫――」

そして固まった。

「……は?」

そこにあったのは。

皿や布や鍋など、散乱した部屋。

壁へ押し付けられた女性。

その腰を抱き寄せるルーク。

そして。

がっつりキスしてる光景だった。

いや待て。

長い長い。

しかもなんか水音してる。

濃厚なやつ。

え、何これ。

「だから誤解だって言っただろ」

唇を離したルークが優しく呟く。

「女性物のハンカチは落ちてたのを拾っただけだ」

「だ、だって……」

顔を真っ赤にした奥さんが、涙目でルークを見上げる。

小さい。

可愛い。

めちゃくちゃ可愛い。

さっきまでフライパン振り回してたとは思えない。

完全に恋人同士の空気だった。

すると。

ふと、奥さんと目が合った。

「あ」

「きゃああああっ!!?」

悲鳴。

そして。

ギロリ。

ルークがこっちを見た。

次の瞬間。

ゴッッッ!!

奥さんが持ってたはずのフライパンが俺の横の柱へ突き刺さった。

「……」

待て。

フライパンだよな?

なんで刺さってる?

俺、幻覚見えてる?

「え……うそ……」

奥さんがふるふる震える。

「み、見られた……の?」

両手で顔を覆う。

「やだ……恥ずかしい……」

くっそ可愛い。

何だこの生き物。

伝説の珍獣って聞いてたけど違う。

天使じゃないか?

――と。

思った瞬間だった。

スッ。

ルークが奥さんを隠すように前へ出た。

「不法侵入」

「待て待て待て待て!!」

壁へ立てかけてあった剣を抜く。

怖い。

殺気が怖い。

俺、戦場より危険な場所に来た?

「俺は止めようとしただけだ!!」

「人の家の情事を盗み見る趣味が?」

「違う!!」

「……」

「無言で殺気を飛ばすな〜!!」

ズイ、と一歩近づかれる。

本能が警鐘を鳴らした。

死ぬ。

これ本気のやつだ。

「これ!! 上司からの書類!! 届けに来ただけ!!」

慌てて封筒を掲げる。

ルークがちらりと見る。

「……」

「……」

「……不法侵入の証拠として押収します」

「なんで!?」

結局。

俺はそのまま騎士団へ連行された。

尋問された。

しかも。

『どこから見た?』

『何秒見た?』

『妻を見たのか?』

怖い。

尋問内容が怖い。

途中から完全に私情だった。

最終的に上司の取りなしで無罪放免になったが。

その後、一ヶ月。

訓練のたびにルークから殺気を向けられ続けた。

模擬戦で三回死にかけた。

俺は心に誓った。

もう二度と。

同僚の嫁には興味を持たない。

絶対にだ。