軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話 TS怪人幼女おじさん♡

〈黒き森〉本部中央管理室。

ズラリと並んだモニターにはそれぞれ監視カメラの映像が映し出されている。

1階モニターには死屍累々の黒服と登場早々あえなく散った怪人・クサカベが、そして2階へ続く階段を映したモニターには爆速でそれを駆け上がっていく律の姿があった。

椅子に座り、その様子を食い入るように眺める人影がふたつ。

〈黒き森〉幹部のふたりであった。

ひとりは男。パンクファッション風の格好で、耳などはピアスだらけ。

もうひとりは女。大きなウェーブがかかった黒髪とグラマラスなボディを持った、どことなく夜の匂いがする女だった。

「ククク……」

男の方が肩を震わせながら呟く。

「クサカベがやられたようだな。フフ……ヤツは四天王の中でも最強……」

「……………………」

重苦しい沈黙。

やがて男が弾かれたように立ち上がった。発狂したのかと思うほど激しく頭をかきむしる。

「そうだよ! 最強がやられちまったんだよ! どうすんだよクソッ! クソッ! クソッッ!!」

ガンガンとモニターを殴りつけるのを、ウンザリしたような顔で女が見下ろす。

「モニター壊さないでよ……はぁ、あの戦闘バカ。あんな真正面からいくから」

「どうすんだよ……どうすんだよッ! もうムリだろ! 四天王のうち武闘派ふたりが瞬殺されてんだぞ……」

「四天王とかダサいからやめてよ」

〈黒き森〉幹部は4人。

しかし彼らは全員が全員腕っぷしの強さを買われて集められたというわけではない。

組織の拡大と利益の追求に必要なのはなにも"強さ"だけではないからだ。

律に奇襲を仕掛けたキョウゴクと、黒服たちを従えて〈黒き森〉本部の警備を担っていたクサカベふたりが武力担当。

残りの――つまりこのふたりの戦闘能力そのものはそのへんの一般市民と大差ない。

そして今現在、〈黒き森〉本部にいる怪人は一般市民並みの戦闘力しか持たないこのふたりだけ。

怪人組織といっても、構成員のほとんどは“怪人志望”という名のただのゴロツキなのだ。

「あんなバケモン、俺たちだけでどうやって勝つんだ!」

「うるさいわね。喚かないでよ。ボスが見たらなんて言うか」

女の方は幾分か冷静なように見えるが、しかしその実情は男とそれほど変わらない。

乾いた口を湿らせようとグラスを取るも手の震えが止まらず、飲み物はほとんどこぼれて口ではなく床を湿らせる結果となった。

「お前も動揺してんじゃねぇか! クソッ、クソッ!!」

「アンタと違って少しでも冷静に考えようとしてんの。ちょっと黙りなさいよ!」

ピシャリと言って、そして血走った目をモニターに向けながらネイルの施された綺麗な爪をガジガジ噛む。

「……別に、名乗りを上げて真っ向から戦う必要はないわ。どんな卑怯な手を使っても勝てばいいのよ」

「そ、そうか。お前が外国に売りさばいてるガキ共を盾にするとか――」

「わざわざ本部に子供を置いておくわけないでしょ、バカ。でも……アンタにしちゃ悪くない案かもね」

女は椅子から立ち上がり、ポケットから小瓶を取り出して中の白い粉を男の体に振りかける。

瞬間、男の体があっという間に縮み、髪が伸び、洋服がパンクなシャツと破れたジーパンから可愛らしい白のワンピースに変わった。

さっきまでの成人男性の姿からは想像できない、幼くて儚い“女の子”の姿。

「あら、可愛い」

女は口元に手を当ててクスクス笑ってみせる。

これが女――怪人・キサラギの能力。

いわゆる変身能力である。

この力を使って有名人や家族に化け、誘い出した子供を売り捌くことで〈黒き森〉は莫大な利益を得ていた。

「うわ、なにすんだよ!」

「ふふ……攫われた子供のフリをして魔法少女に近付くのよ。配信中みたいだし、こんな可愛い女の子を無下にはできないはず」

「それは分かるけど、なんで俺なんだよ!」

「あらあら。女の子がそんな言葉を使うものじゃないわ」

キサラギは幼女の姿になった男――怪人・アイダの肩をグイグイと押して部屋の外へと追いやろうとする。

「この力、自分には使えないんだもの。じゃあよろしく頼んだわよ、アイダ」

「待てよ! じゃあそのへんの下っ端にやらせればいいだろ!」

「そのへんの下っ端じゃあ油断させて近付いたところでどうにもできないわよ。でもあなたの力ならあの魔法少女を倒せるでしょう?」

「そ、それはまぁ……」

反論をことごとく封じられてモゴモゴと不明瞭な言葉を吐くばかりになったアイダの肩を押し、今度こそ中央管理室の外へと追い出した。

「腕が立つとはいえ相手はただの生意気なガキよ。ちょっと頭を使えば簡単に丸め込めるわ」

「いや、でも――」

「その粉が落ちると変身が解けるから気をつけてね〜」

「おい! 待てって、おい!」

キサラギは容赦なく扉を閉め、いくらアイダが叫んでも開くことはなかった。

仕方なく、アイダは小さな足でトボトボと歩き出す。

その姿はまるで迷子の幼女そのものだった。

「あ、足がスースーする……」

怪人・アイダ。

本名は相田武32才。職業怪人。岩手県出身。現在は儚げ幼女に変身中。

その能力は――両手で触れたものを小さくする。

そんな能力か、と馬鹿にすることなかれ。

彼は莫大な量の金塊、麻薬、近代兵器に至るまで、あらゆるものをポケットに入れて持ち運ぶことができる最強の運び屋として組織に貢献してきた。

なにより彼が小さくできるのは「物」だけではない。「生物」もだ。

これまでアイダが小さくしてきたものは多岐に渡る。

ワシントン条約で取引を規制されている珍しい動物や植物、そして人間。

主に人身売買時の人の運搬や死体の処理にその力を使うことが多かったが、彼がその気になれば小さくした人間をそのまま叩き潰すことも可能。

例の魔法少女がどんなに強かろうと、体長1ミリのサイズにまで縮めてしまえば敵ではない。

が、もちろんそのままの姿――つまりどう見ても怪しいパンクファッションの成人男性の姿のままでは絶対にムリだ。

律に近付いても、手で触れるより前に敵だと認識されて吹き飛ばされるかぶん殴られるのがオチ。

――が、可愛くてか弱い少女の姿をしていたらどうであろうか。

お母さんと離れちゃったの、などと言いながら半泣きで手を伸ばしてきたら?

「よし、いっちょやるしかねぇか」

アイダは肩を回し、そして大きく深呼吸をする。

覚悟を決めたのだ。

――そしてここに、TSメスガキ魔法少女おじさんとTS怪人幼女おじさんの戦いの幕が切って落とされた。