軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 はやく怪人探さなきゃ♡

ビルの中がにわかに騒がしくなってから実際に銃弾が放たれるまでの間、逃げることもできたがプイプイはそうしなかった。

もちろん妖精さんとはいえ銃で撃たれればただではすまない。

しかしプイプイは危険を承知で、律の一番近くでスマホを構えて配信を始めた。

その咄嗟の判断は正しかったと言える。

おかげでピューリッツァー賞ものの映像が撮れたからだ。

『え!?』

『は!?』

『うわあああああああああああッ!?銃!?』

『開幕銃撃で草』

『えっ、風で吹き飛ばした!?』

『そんなことできんのか…魔法少女ってすげぇな…』

『※普通できません』

『魔法障壁じゃなくて風!?なんでそんな効率悪いことを…』

『煽りだろwwwwww』

『本部に乗り込んだ挙げ句舐めプしてて草』

『さすがメスガキ魔法少女wwwwwww』

配信画面にコメントが高速で流れていく。

快進撃を続ける今話題の魔法少女の活躍を見に、たくさんのリスナーが集っていた。

もちろん、その背景には〈黒き森〉へのたまりにたまったヘイトがある。

『てか本当にクソき森の本部事務所じゃん…』

『これ自社ビル?』

『そう』

『マジかよ…ここ都内だよな?』

『こんなん買えちゃうくらい悪事で儲けてるのに誰も手出しできなかったのかよ』

『というかアイツら銃まで持ってんのか…』

『警察なにしてんだよ』

『やりたい放題だな』

『この先は治外法権だぞ…気をつけろメスガキ魔法少女!』

〈黒き森〉への警戒心をあらわにするリスナーたち。

しかし律に配信画面を見てコメントをチェックしようなどという意識はなく、その上違うことで頭がいっぱいだった。

「さっき銃撃ってたざぁこって怪人?♡」

「いや、違うプイ。下っ端の構成員は普通の人間のようだプイ」

プイプイが答えると、律は口を尖らせる。

「なぁんだ♡ どおりでよわよわだと思った♡ 早く怪人を見つけなきゃ♡」

(怪人を倒さないと30万円もらえないもんな。普通の人間に怪我でもさせたら悪いし、さっさと進まないと……)

と、律は純粋に金ほしさで怪人を探していたわけだが、リスナーの捉え方は違った。

『やる気満々で草』

『やる気というか殺る気』

『すげぇ…敵の本拠地でこんなに堂々と煽ってるとか…』

『最高すぎwwwwwww』

『いいぞもっとやれ』

そして律は〈黒き森〉本部に足を踏み入れる。

銃が効かないと分かり下っ端は引っ込んだ――かと思いきや。

「こっから先は一歩も通さん!」

「うおおおおおおおおおおおおッ!」

「死にさらせ魔法少女おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

白を基調とした洗練された印象を受けるエントランスに似合わない、黒いスーツの強面たちが5人。

明らかに堅気ではない彼らは日本刀を手に律へ斬りかかる。

が、銃弾を無効化してみせた律に日本刀など今更効くはずもなく。

「えいっ♡」

ブオオォォォン!

「うわあああぁぁぁぁぁぁッ!?」

ステッキから巻き起こった風が構成員たちを容赦なく吹っ飛ばす。

バカみたいに長い廊下をどこまでも飛んでいく者、壁に背中から叩きつけられて気を失う者、天井に頭から突っ込む者――いくら束になっても律には敵わない。

が、敵は次から次へと沸いてくる。

「お兄さんたちしつこすぎ♡ そんなにリツが好きなんだぁ……♡ でもダーメ♡」

律はステッキを振るい、雑魚敵を次々蹴散らす。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??』

『メスガキTUEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!』

『相手が人間だとますます相手になんねぇなwwwwwwwww』

『メスガキ無双で草』

『おい待て、アイツ…』

『おいおい…クサカベ出てきた!?』

日本刀を構えていた黒服たちもハッとした表情で顔を上げる。

その視線の先にいるのは、白いスーツを纏った一際長身の男。長い髪をひとつに纏め、サングラスで目元を覆っている。

エレベーターを降りながら、クサカベは辺りを見回す。

「すげぇ暴れん坊がきたもんだな」

律が暴れ回り、死屍累々の山となった1階玄関フロアを前にして、クサカベはどこか楽しそうに笑ってみせた。

律の無双に沸いていたコメント欄も、冷や水を浴びせられたようにその勢いを失う。

『うわ、本当にクサカベじゃん』

『やべぇ…いきなり最強格出てきた…』

『ツイてなさすぎる…』

『逃げろリツ!』

にわかにコメント欄に緊張が走る。

怪人・クサカベ――この黒服たちを従える〈黒き森〉幹部のひとり。

その戦闘力は〈黒き森〉随一と名高く、このビルの警備を一手に引き受けている。

「クサカベさんだ! クサカベさんが来てくれたぞ!」

「これでもう安心だ……」

「やっちゃってください!」

黒服からの歓声に応えるかのように、クサカベは身の丈ほどもある巨大な日本刀を構えた。

「たったひとりで乗り込んでくるとは感心なこった。でも残念ながらここから先は――」

「よっと♡」

「え?」

律は地面を蹴った。

次の瞬間、ポカンと口を半開きにしたクサカベの目の前、彼の構えた巨大な日本刀の峰に律は立っていた。

10メートルは離れていたはずの律がこの一瞬で距離を詰めてくるなどとは思わず。

呆然としているクサカベの頭にハートのクリスタルが輝く魔法のステッキが振り下ろされて――

「ざぁーこ♡」

ガゴンッッッ!!!

思わず顔が引き攣るような音が辺りに響いた。

怪人・クサカベは受け身も取れず崩れるように倒れ、そして最強格の怪人の登場に沸いていた黒服たちは水を打ったように静まりかえる。

倒れたクサカベに一瞥もくれず、律はくるりときびすを返した。

「はやく怪人探さなきゃ♡」

そして律は歩き出す。

配信のコメントなど見ていなかった律は知らなかったのだ。

今自分が倒した白スーツが〈黒き森〉最強の怪人であることに。

律の何気ない言葉に、にわかにコメントの流れが加速する。

『ええええええええええええええええええええ!?』

『うおおおおおおいwwwwwwwww』

『クサカベのこと雑魚敵だと思ってんのか?wwwwwww』

『いまあんたが倒したのが最強クラスの怪人ですが!?』

『まぁこんだけ瞬殺できちゃうとなwwwww』

『最初に怪人だって名乗らないから……wwwwww』

『能力出す前に倒されちゃったから仕方ないね(白目)』

血気盛んに襲い掛かってきた黒服も、クサカベが倒されたことで戦意喪失。

(なんだか歩きやすくなったなぁ……)

なんてのんびり思いながら、律は堂々とした足取りで2階へと向かうのだった。