作品タイトル不明
36 調査はすすむ ギルドマスター目線
36 調査はすすむ ギルドマスター目線
最近、ギルドが妙に忙しい。
いや、前から忙しいんだが、種類が違う。
騒がしいのはいつものことだ。冒険者って連中は、暇でも騒ぐ。酒でも騒ぐ。仕事があっても騒ぐ。なんなら怪我していても騒ぐ。
だが今は、そこへ研究者と神官が混ざっている。
これがまた厄介だ。
冒険者みたいに雑には扱えねぇ。
怒鳴れば黙る連中じゃない。
しかも全員、目が輝いている。
危険だと言っても止まらん種類の人間だ。
方向性が違うだけで、冒険者とよく似ている。
俺は二階からロビーを見下ろし、深いため息を吐いた。
なじみのある紙の匂い、酒の匂い、汗の匂い。
そこへ、なぜかインクの匂いまで混ざるようになった。
最悪だ。
「始めたぞ」
横でクーパーが言った。
指さす先を見る。
神官が地図を広げ、研究者と何か議論していた。
「人工構造の可能性が――」
「いや、神殿以前の遺構では」
「砂時計の停止条件が――」
「くるくるは何回転まで行きました?」
「あれだけ回転しても砂は動きません」
「うーん……」
全員がうなっている。
「なんだ最後の話」
俺がクーパーに聞く。
「聞こえました?」
クーパーが口ごもった。
「聞こえた」
じっと見るが、目をそらされた。
最近、あの行き止まりに妙な名前がついた。
くるくる広場。
意味がわからん。
いや、一応説明は聞いた。
砂時計の周りを歩きながら考え事をすると、ひらめくらしい。
くるくる歩くから、くるくる広場。
アホか。
しかも連中、全員で「研究効率が上がる」とか抜かしている。
絶対嘘だ。
なにか隠している。
熱狂は少し落ち着いた。
入口発見直後みたいな、目を血走らせた勢いではない。
調査の形ができてきたからだろう。
ダンジョン調査は断念したようだ。
今の調査対象は左。
行き止まりの巨大扉と砂時計。
なにもないと言えば、なにもない。
だからこそ研究したがる。
「意味がない可能性を証明するのも研究です」
「だから行く。護衛を雇いたい」
「測定が必要です。行かなくてはいけないのです」
お前たちの使命なぞ知らん。
だいたい何度言った。
「扉に触るな」
「砂時計に触るな」
言うだけ無駄だった。
冒険者に「入るな」が通じないなら、研究者にも通じない。
だが、護衛をやっている冒険者から苦情が来た。
「あいつら進まねぇ」
「いきなり座り込む」
「石がどうたら」
「壁が――」
とにかく騒ぐ。
最初は大喧嘩寸前だったらしい。
壁を見て止まる。
床を見て止まる。
突然議論を始める。
神官に至っては祈り始める。
気持ちはわかる。
それをケイトが解決した。
「乗り物を用意しましょう」
「乗り物?」
「荷車です。冒険者が引けばいい」
そして始まった。
上等なタイヤ付き荷車。
石畳保護のためらしい。
研究者と神官を座らせ、冒険者が引く。
冒険者が嫌がると思った。
だが蓋を開ければ、
「鍛錬になる」
「歩くより速ぇ」
「金になる」
「座ってる先生方が面白い」
冒険者に評判がよかった。
名付けて「くるくる広場ツアー」。
一と五のつく日限定。
口に出した瞬間、負けた気がした。
「ほんとにその名前で行くんですか?」
クーパーが嫌そうな顔をした。
「もう広まった」
「負けましたね」
「負けた」
認めるしかない。
諦めも大事だ。
最近、それ以上の問題が増えすぎて、名前なんぞどうでもよくなっていた。
たとえばケイト。
初日になんか変なのを連れて帰った。
「足のついた蛇とか珍しいですよね」
ケイトは楽しそうだった。
「三つ編みのおさげがお揃いなんですよ」
意味がわからん。
横にいたマイクを見る。
あいつは即座に首を振った。
「説明しろ」
「無理です」
「なんでだ」
「俺も理解してません」
そこへ研究者が目を輝かせて割り込んできた。
「あの慈愛に満ちた笑み!」
「神々しかった……」
神官までうっとりしている。
「ケイトさんが優しく微笑まれた瞬間、魔獣が心を許して――」
「感動しました」
なんだその宗教みたいな話。
当の本人は、
「あらぁ、そんなことありませんわ」
と笑っていた。
背筋が寒くなった。
おい。
騙されるな。
女は女優だぞ。
しかもケイトは、その中でもとびっきりの大根だ。
その大根に騙されるとは、お前たち今後いろいろ心配だぞ。
結局、その蛇もどきはケイトがテイムしたことになった。
リンベルちゃん。
けっ。
ギルドの連中まで「可愛い」とか言い始めやがった。
俺だけか?
俺だけまともなのか?
いや、たぶん違うな。
まともなら、こんな仕事やってねぇ。
そう思いながら、ロビーの喧騒を見下ろした。
研究者が騒ぎ、神官が祈り、冒険者が笑い、誰かがまた酒をこぼして怒鳴っている。
忙しい。
本当に忙しい。
だが、悪くない。
ギルドが儲かっているのはいいことだ。