作品タイトル不明
35 ダンジョンの調査 ある研究者目線
35 ダンジョンの調査 ある研究者目線
僕は前を歩く人に必死について歩く。
ところで、せっかくの調査なのに、僕は少し後悔していた。
――ダンジョンを舐めていた。
歩いても歩いても、ずっと森だった。
湿った土。苔むした岩。頭上は天井のはずなのに、妙に空みたいな光が差している。不思議で、少し気味が悪い。たまに現れる魔獣も、なんだか変だった。
上から襲い掛かって来るなにか……
木のツルがひょ――んと伸びて来る。
歯が妙に立派なネズミ。
「これ、本当に奥まで行けるんですか?」
思わず隣を歩く護衛の冒険者に聞いた。
男は肩をすくめる。
「さぁな」
「さぁな、なんですか……」
「ダンジョンの中がどうなってるか、誰にもわからねぇんだよ」
別の冒険者が前を歩きながら笑った。
「広いのだけは間違いないな」
「果てまで行けるかもわからん」
「途中で、とんでもなく強い魔獣が出る可能性もあるしな」
冗談っぽく言っているのに、目は笑っていなかった。
あぁ、この人たちは本気で警戒してるんだ。
僕は少し背筋を伸ばした。
なんとなく、冒険ってもっとこう、がんばって歩いたら遺跡が出てきて、「わぁすごい」ってなるものだと思っていた。
でも違う。
地道で、危険で、終わりが見えない。
しばらく歩いた頃だった。
「なぁ」
先頭近くにいた男が振り返った。
「体力あるうちに引き返して、左行ってみるか?」
「左?」
「あぁ。行き止まりらしいけどな。扉と砂時計があるって言ってただろ」
別の男が笑った。
「まぁ、気になるだろ?」
「正直、今のまま奥目指すと、帰りが怖い」
「僕も、ちょっと思ってました」
正直に言うと、皆が笑った。
「だよな!」
「無理して倒れるよりマシだ」
「ちゃんと引くのも冒険者だぞ」
そんな言葉に、僕は少しだけほっとした。
「じゃあ……左に行ってみたいです」
「よし決まり!」
引き返すことになった。
左へ続く通路は、なんとなく湾曲していて、ずっと一本道だった。
ところどころ分岐がある。
「あれは?」
「ダンジョンにつながってるらしい」
「全部は調査終わってない」
前を歩く冒険者が真顔になる。
「とんでもなく強い魔獣が出て全滅って可能性もあるからな。慎重に進めてる」
「怖いですね」
「まぁな。でも、もし奥に遺跡でも見つかったら」
男が笑った。
「その時は調査においでよ」
「うん!」
思わず顔が明るくなる。
「その時までに体力つけておく」
「いい心がけだ!」
「お前、最初より顔いいな」
「最初、めちゃくちゃ怯えてたもんな」
「だって怖かったんですよ!実際の魔獣、挿絵より怖いし」
そう言うと笑われた。
でも、最初は荒くれっぽくて怖かった人たちも、だんだん話していると優しい。
不思議だ。
乱暴そうなのに、ちゃんと気を遣ってくれる。
そんなことを考えているうちに、左の行き止まりへ着いた。
そして――僕は驚いた。
巨大な扉。
途中で止まった砂時計。
扉も砂時計も触るな。そう注意されていた。
だから、こっそり触ろうかな……ってちょっとだけ思っていた。
本当にちょっとだけだ。
なのに。
「おりゃ!」
がぁん!
斧で扉を叩く音が響いた。
「お、開かねぇ!」
「当たり前だろ!」
別の人間は砂時計の前へ行く。
「止まってるなら、ひっくり返したら動くんじゃね?」
「いや待っ――」
ごろん。
ひっくり返された。
全員で見守る。
沈黙。
砂。
動かない。
「動かねぇな」
「なんでだ?」
「壊れてる?」
その瞬間。
僕の理性が吹き飛んだ。
「遠心力の利用はどうでしょうか?」
全員がこっちを見た。
「え?」
「遠心力?」
「それは?」
僕は炭筆を両手で持って前に突き出した。
そして、その場でやって見せた。
「こうやって回ると!」
ぐるんと回る。
「力がかかるんですよ!」
「つまり?」
「砂時計を持って回ります!」
一瞬の静寂。
そして。
「なるほど!」
「おもしれぇ!」
「お前、頭いいな!」
そこへ、扉を叩いていた連中までやって来た。
「聞いたぞ!」
「回すんだな!?」
「任せろ!」
力持ちって、本当にすごい。
巨大な砂時計を持ち上げた。
「いくぞおお!」
ぶおん。
くるくる回る。
すごい勢いだった。
皆で砂を凝視する。
動け。
動いて。
お願いだから。
なんとか……
動かなかった。
「だめかぁ……」
「回し損じゃねぇか!」
「いや、おもしろかった!」
皆が笑っている。
なんだろう。
遺跡は全然見つからないし、砂時計も謎のままなのに。
調査は楽しい。