軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34 リンベルお目見え

34 リンベルお目見え

さて、今日は調査の日だ。

研究者も神官も、いつもの長衣ではなく動きやすい服装をしていた。

でも、それはへなちょこ冒険者のようだ。丈夫な靴を履き、首から小さな画板を下げている。

羊皮紙が挟まれ、炭筆が紐で結びつけられていた。

なにか見つけた瞬間、すぐに記録できるようにだ。

顔には共通して、少しだけの不安と、それ以上の期待があった。

初めて入る未知の場所。

しかも、人工的な通路を持つ未確認ダンジョン。

研究者たちの目は、すでに好奇心で光っている。

「本当に人工物だと思いますか?」

「通路だけでは断定できません。ただ、自然はこれを作りませんよ」

「神殿時代以前の遺跡という可能性も……」

「いや、もっと新しいかもしれません」

歩く前から議論が始まっている。

神官も負けていない。

「瘴気の気配は?」

「まだ報告はない」

「封印施設の可能性は?」

「それは一番調査したいものです」

ないかもしれないし、あるかもしれない。

皆、口では慎重なのに顔だけは楽しそうだ。

護衛との顔合わせはすでに終わっている。

組み合わせも悪くない。

護衛の力量によって入れる場所は分けた。

初心者寄りの者は浅層。

ベテランがつく者だけ、少し奥へ。

そして「気が済むまで歩いたら、左通路へ行っても構いません」

ケイトが地図を示しながら言う。

「ただし、奥の巨大な扉には触れないこと。砂時計も触らないこと」

研究者たちが一斉に反応した。

「巨大な砂時計?」

「止まっているのですか?」

「途中で?」

食いつきがすごかった。

ケイトはちょっと嬉しくなった。

「えぇ。途中で止まってます」

そして、荷物からすっと三角定規を取り出した。

研究者たちの視線が吸い寄せられる。

「これをそばに置いてあります」

「定規?」

「砂の高さを測るためです」

しん、と静かになった。

「変化を見るためですね?」

年配の研究者が静かに言う。

ケイトはぱっと顔を上げた。

「そうです!」

ちょっと嬉しいと思う。なんせ理解者がいた。

「もし落ちる量が変化したら、なにか条件があるかもしれません」

「素晴らしい着眼点だ」

「定点観測ですね」

「時間経過か、侵入者数か、魔力か……」

「魔力?」ケイトが食いついた。

「時間と侵入者はある程度、はかってますが、魔力かぁ」

「調べましょう」

声が揃った。

急に皆が盛り上がる。

ケイトは心の中で少し胸を張った。

マイクが横からぼそりと言う。

「お前、褒められると分かりやすいな」

「違います」

「顔」

「……」

たぶん、顔に出ていた。婚約者時代に感情を出さない訓練していたはずだが……

表情を読まれるとは、口惜しい。

調査隊が出発し、それぞれ持ち場へ散る。

ケイトは、森の様相をした区域へ向かった。

湿った土、苔むした岩。

天井なのに空みたいに見える不思議な光。

木々の間から聞こえる物音。

たまに飛び出してくるのは、牙の長いウサギ。

角のあるウサギ。

歯がやたら立派なネズミ。

「なんか、嫌ですねぇ……」

ケイトがぽつりと呟いた。

護衛の冒険者が笑う。

「可愛い顔して噛むぞ」

「いや、可愛くないし……」

「倒す練習するか?」

「いやぁ……」

ケイトは真顔だった。

「ウサギ殴って蹴るの、楽しそうじゃないです」

「お前な」

周囲が笑う。

「狼なら?」

「もっと嫌です」

「なんでだよ」

ケイトは少し考えた。

「これは……襲い掛かって来た人間相手にやりたい技ですね」

一瞬、沈黙。

そして冒険者たちが吹き出した。

「物騒!」

「誰にだよ!」

「誰も襲ってこねぇだろ!」

と冒険者たちが言うと

「そうなんですよ」

ケイトは不満そうだった。

「誰も襲って来ないんですよねぇ……」

「来たら困るだろ!」

そんな騒ぎの最中だった。

「あれ?」

ケイトが足を止めた。

「あれは、なあに?」

その口調のうさん臭さにマイクは嫌な予感がした。

ケイトは少しだけ一行から外れる。

その瞬間、鞄の口が、するりと開いて、細長い体がひゅるりと空へ伸びた。

一瞬だけ光を受けて、翼がきらりと反射する。

けれど誰も見ていなかった。

皆、ケイトが見つけた何かに意識を向けていた。

「なにもないぞ?」

「キノコか?」

「薬草?」

「えーっと……果物に見えた」

ケイトが適当に間を作る。

数秒後、風もないのに、木々が揺れた。

そこから、優雅に長いものが現れた。

空中を泳ぐように、ゆるやかに身体をくねらせながら。

翼を持つ蛇? 長い……

しかも――おさげ髪?

誰かが息を呑む。

「魔獣!」

「警戒!」

剣が抜かれる音。

杖が持ち上がる。

研究者が一歩下がる。

神官が祈りを口にしかける。

だが、その直前。

「まぁ」

ケイトが高らかに言った。

「なんて高貴で可愛いの」マイクは大根ぶりに驚く。

「は?」

皆の動きが止まる。

ケイトは一歩前へ出る。腕をまえに突き出しながら。

蛇は、まるで待っていたように滑って、するりとその腕へ止まった。

長い身体が優雅に巻きつく。

翼がふわりと揺れる。

蛇は満足そうに顎を上げた。

「おぉ」神官が感動したようだ。

『どう?』

ケイトにだけ声が響く。

『高貴っぽい?』

ケイトは歯切れよく言った。

「とっても高貴ね」(へたくそが……)とマイクは思った。

『へへっ』

だが、周囲は凍っていた。

「え?」

「なんで懐いてる?」

「ケイト?」

「お前、なにした?」

マイクは、ものすごく嫌な予感がした。

ケイトは、それにしゃべりかけている。

「可愛いわねぇ。まぁ鈴がついているのね。あなたの名前はリンベルよ」

(よくまぁ、恥かしげもなく。それに舌がまわるな)とマイクは少し感心した。

「あぁ、奇跡の瞬間を見ました」と神官が祈り始める。

「おぉ、この光景をきちんと記録します。貴重な資料です」

研究者が必死に書き留めている。

(おまえたち、女に騙されるぞ)

マイクの心の叫びは誰にも聞こえなかった。