軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32 お茶会は盛り沢山で盛り上がる

32 お茶会は盛り沢山で盛り上がる

ある日、連絡が来た。レナからだった。

モリーンは、いつもの喫茶店へ足を向けた。

まだ少し早い時間だった。

「今日は早く着いてしまったわね。気が急いていたものね」

店の前で時計を見ながら小さく笑う。

まだ開店前だろう。少し待つつもりだった。

だが、閉店の札がない。

それで、扉を押してみると、からん、とベルが鳴った。

「あら」

見慣れた給仕が、にこやかに頭を下げる。

「おはようございます。お待ちしておりました」

「まぁ、今日は早いのね」

「少しだけ準備が早く終わりまして」

そう言いながら、自然な動作で奥の席へ案内される。

窓際で、少し奥まった、妙に居心地のいい場所だ。

「皆さま、もうお揃いですよ」

「えっ?」

モリーンは目を丸くした。

見ると、もう全員いた。

「遅いわよ」

「皆さん、早すぎよ。でもごめんなさい」

「気にしないで」

楽しそうな顔ばかりだった。

しかも、知らない女が一人いる。

情報があるってことか。

質素な服、働き者らしい手。

どこか緊張した顔で背筋を伸ばして座っていた。

モリーンが目を瞬かせた。

「こちらは?」

すると、レナが満足そうに笑った。

こういう時の顔は、大抵ろくでもなく面白い。

「うちの店子なの」

「店子?」

「古着屋をやっているのよ」

そこでわざと間を置く。

全員が自然と前のめりになる。

レナがにっこり笑った。

「この間、ちょっと話をしたんだけど――もしかしたら、もしかかもしれないと思って」

しん、と一瞬静まった。

だが、誰も相槌を打たない。

話の着地点がまるで読めない。

それも予想していたのだろう。

レナは紅茶を持ち上げ、ふふっと笑う。

「鈴が、出入りしたようなの」

一拍。

「なんと!」

「見つけたの!?」

「ついに!」

空気が弾けた。

モリーンは勢いよく身を乗り出した。

「どこ!? どういうこと!?」

「さぁ」

レナが満足そうに手を差し向ける。

「話してみて」

突然注目され、古着屋の女主人が肩を跳ねさせた。

「は、はいっ」

慌てて姿勢を正す。

「古着屋のおかみです。よろしくお願いします」

「よろしく」

「まぁ固くならないで」

「えぇ、気楽にしていいのよ」

口々に声が飛ぶ。

だが全員の目がきらきらしていた。

完全に獲物を待つ目だ。

女主人は少し頬を赤くしながら話し始めた。

「えっと……最初、その貴族様が、お店に来たんです。夕方。一人で」

「一人!?」

「鈴が?」

「王都を?」

「まぁまぁ、続けて」

女主人がうなずく。

「おかしいと思いました。えっと……ものすごく綺麗な方でしたし、でも、一人で歩いて来ました。ドレスを着て」

「そうよねぇ」

「護衛なし?」

「そういうのってわけありって言うんですよね。はじめてのわけありでした」

「そう、わけありよ」

「ドレスと靴を買い取りました」

「……!」

全員の目が輝く。

「その場で脱がしたの?」

「ちゃんと見えないところで」

「鈴……考えたのねぇ」

「ドレスを売って、その代金で簡単な服が欲しいと言いなさいました」

「なるほどね」

「それで、うちの古着を買って着替えて、お店を出ようとなさったんです」

「まぁ」

「そこで終わらせなかったの!?」

「えぇ、はいです」

女主人は胸を張る。

「フード付きマントを差し上げました」

全員が一瞬止まった。

「フード?」

「そのほうがいいと思ったので」

モリーンがにっこりと笑った。

「あなた、優しいわ!」

「だって目立って、着替えてもお貴族様でした」

「そうでしょうね」

笑いが起きる。

女主人もつられて笑った。

「そしたら、そのあと髪を売りたいって言いなさって」

「髪まで!?」

「切ったの!?」

「いえ、わたしではできませんで、だから知り合いの店を紹介して」

「なるほどね。もうあの日に切っていたのね」

全員がうなずいた。女主人が続ける。

「しばらくしたら、また来なすって。今度はズボンとシャツを買って」

「ズボン!?」

「男装!?」

「しかも代金を多めに置きなさって。フードありがとうって」

「なんて律儀な子」

「ほんと鈴らしい」

場が妙にしんみりする。

だが、女主人はまだ続きがある顔だった。

モリーンが即座に察する。

「まだあるのね?」

「はい!」

おかみの声が弾んだ。

「この間、また来なさった!」

「来たのね!」

「鈴!元気なのね」

「どうだった?」

皆が身を乗り出す。

「かっこいい男の人も一緒でした」

と女主人が得意顔で言った。

「あぁ、片づけの時の彼ね。多分」

とドロシーの姪が口を挟んだ。

「皆様、ご存じなんですか?」

「見たことはないけど。」

全員が心得顔だった。

おかみが感心した顔になる。

「それで?」

急かされて、女主人が慌てて続ける。

「突然、ドレスが出て来たんです!」

「え?」

「収納ね」

「収納だわ」

全員、妙に冷静だった。

女主人がきょとんとする。

「普通なんですか?」

「珍しいけど、そういう能力はあるわ」

「そうなんですか?」

女主人は首をかしげながら話を続けた。

「ドレスは三枚でした。それで『これはあげる』って」

「えっ」

「くれた!?」

「なんてこと!」

「男の人が『貰ってくれると助かる。知り合いに欲しい人がいたらあげたいけど、知り合いがいないから頼む』って」

皆が笑う。

「よかったわね」

女主人は、すっかり調子づいていた。

「それで、何かお礼をと思って……」

「えぇ」

「ちょうど食べようと思って買ってた蒸しケーキをあげたんです」

「蒸しケーキ?」

「最近できたお店ので、美味しいんですよ」

女主人が誇らしげに続けた。

「そしたら、すごく喜んで。にこにこして帰って行かれました」

一瞬、空気がやわらぐ。

「あぁ……」

「想像できる」

「絶対嬉しそう」

「なんか泣けるわね」

モリーンが頬杖をついた。

「なんて偶然。いい話だわ」

それから、ぱん、と手を打つ。

「あなた、お名前は」

「え?」

「あなた、もう仲間よ」

「名前を教えて」

「ミリーです」

「ミリーね」

周囲が一斉にうなずいた。

「歓迎するわ」

「遠慮なくお茶とお菓子を楽しんで」

「ご馳走するわ」

ミリーが慌てる。

「え、えぇ!? そんな!」

「遠慮は駄目」

「鈴の話をした時点で逃げられないわ」

笑いが起こる。

モリーンがふと思い出したように顔を上げた。

「ねぇ、そのドレス」

全員が静かになる。

「まだあるの?」

「はい」

ミリーがうなずく。

「店に置いてあります。うちのお客には上等すぎますけど……でも、見に来る人が増えまして」

「まぁ!」

「それは」

「すぐ回収しなくては」

モリーンの目が輝く。

「お店は開けてるの?」

「今日は閉めてきました」

「よかったわ」