軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 ギルドマスター目線

31 ギルドマスター目線

最初にあの穴のことを聞いた時、正直言えば、俺は面倒事の匂いしかしなかった。

冒険者って連中は、危険だと言われるほど入りたがる。

しかも、か弱い村人のいる村だ。

ハーベスト村みたいな小さな村の近くで、何か起きれば被害はでかい。

だからこそ、ケイトが最初に止めてくれたのは助かった。

冒険者から思い切り愚痴られたがな。

「いきなり突っ込むのはやめてください」

いつもの調子で、あいつは言ったそうだ。

優しく笑っていたそうだ。

なのに、なぜか誰も軽く扱えない。

「毒ガスでも出たらどうするんです?」

冒険者のひとりが肩をすくめる。

「俺らが死ぬだけだろ」

「まぁ、それは自己責任です」

さらっと言ったあと、ケイトは続けたそうだ。

「でも、村に流れ込んだら?」

空気が止まった。

「井戸に入ったら?」

「家畜が死んだら?」

「子供が吸ったら?」

言い返せなかったそうだ。

自分が死ぬ話じゃ止まらない連中でも、村が巻き込まれる話になると少し考えたようだ。

それになんでもスープが美味しかったそうだ。なんじゃそりゃ?

「だから最初は調査隊だけです」

そう言われてあいつらは振り返り振り返り帰って来たそうだ。

あぁ、こいつらは止まらねぇな、と思った。

そして案の定。

最初の調査報告が終わってから、連中は勝手に動き始めた。

横穴からこっそり潜って、魔獣と戦っていやがる。

「まぁ、そうなるよな」

執務室で報告を聞きながら、俺は額を押さえた。

クーパーが苦笑いする。

「止めます?」

「無理だろ」

当たり前のことを言うな。

「『入るな』で止まるなら冒険者やってねぇ」

しかも連中も馬鹿じゃない。

立ち入り禁止区域から拾った魔石やアイテムを、ギルドに持ち込まない。

だから売るに売れず、抱えてる。今は頭を抱えている。

たまには、頭も使ってやれ!

「自業自得だな」

そう言ったら、クーパーが笑った。

「でも楽しそうですよ」

「そういう生き物だ」

まったく困った連中だ。

だが、それも予想済みだった。

ケイトが村人へ言っていたからだ。

「止めないでください」

「え?」

「怪我します」

村長がぽかんとしていた。

「止めようとして揉めるほうが危ないです。変に正義感出さないでください」

あいつ、本当に冒険者の扱いを分かってる。

結果、村人は、見てるだけになった。

だから今のところ事故はない。まぁ、ありがたい。

そして、入口が正式に見つかった。

口止めはしたんだが……

今度は別の連中が湧いた。

研究者。

神殿。

ついでに貴族。

見事なまでに面倒な顔ぶれだった。

「調査を」

「学術的価値が」

「神聖性の確認が必要です」

知らん。

俺に言うな。

そう言いたいところだが、そうもいかん。

応接室に並ぶ連中を前に、俺が頭を抱えていると。

ケイトが紅茶飲みながら言った。

「これから、冒険者が護衛をする条件で許可します」

ぴたりと空気が止まる。

「は?」

研究者が目を丸くする。

「危険区域です」

ケイトは深刻そうに言った。

「安全確認前に、貴重な学者先生を失うわけにいきません」

「しかし!」

「ですので、ギルドが護衛します」

にこり。

あの笑顔だ。

嫌な予感しかしない笑顔。

「順番にどうぞ」

結果。

学者連中は文句を言いながら従った。

神殿も渋々だ。

騎士団は護衛から外された。護衛と言う口実は使えない。

だから大人数で、威圧感たっぷりにやって来た。

やって来たが、団長は来なかった。一番に殴りこんで来るかと思ったが……

代わりに来たのは騎士団長代理だ。

「騎士団が管理を」

言い終わる前だった。

ケイトが書類を広げた。

「いりません」

「なに?」

「こちらです」

ぱら。

また紙だ。

嫌な予感しかしない。

「危険区域暫定管理」

「調査主体登録」

「外部立入制限」

「管理はこちらでやります。立ち入り制限がありますので、近づかないでください」

騎士の顔が変わる。

俺は見ていて笑いそうになった。

「入りたければ、申請書を書いてください。きちんと正式な書類でお願いします。後で揉めたくありません」

静かな声だった。

「必要なら異議申し立て書でもいいですよ」

「……」

騎士団長代理の顔が引きつる。

やつらは怒り狂って帰っていった。

追い払いやがった。

書類で。

剣じゃなく。

冒険者が見たら笑うぞ、こんなの。

いや、実際笑った。

「さすがケイト」

「最強武器、紙だな」

「騎士団に勝ちやがった」

「書類を出しても決済するのはわたしなんですけどね」

「怖え――ケイトが怖え――」

クーパー。うるさいぞ。

俺もそう思ったが……

そして左の行き止まり。

あれも情報解禁した。

見るなと言ったって無駄だ。

冒険者は行く。

研究者も行く。

禁止札なんぞ、挑戦状にしか見えん連中だ。

「左は行き止まり。ただし大きな扉と妙な砂時計あり」

そう公開した。

案の定。

「見たい」

「荒らされる前に正式に調査を」

「絶対なんかあるだろ」

「行くしかねぇ」

大盛況である。

俺は深くため息を吐いた。

「ほんと、馬鹿しかいねぇな」

ロビーで騒ぐ連中を見ながら呟く。

だが、まぁ、少しだけ思う。

村を守って。

権利も押さえて。

学者も神殿も騎士団も、ちゃんと使える形に整理して。

それでも最後は冒険者に夢を見させる。

あの娘、やっぱり冒険者なんだろうな。

方向性が、ちょっとだけおかしいだけで。