軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 ケイトとマイクは左に行く

30 ケイトとマイクは左に行く

左の通路は、静かだった。

調査隊が「行き止まりだった」と報告しただけあって、人が通った痕跡は少ない。

立ち入り禁止を全員が守ったとは思えないから、痕跡があっても不思議ではない。

壁は乾いた灰色の石で組まれ、ところどころに古い削れ跡がある。

足音だけが、やけに響いた。

ケイトとマイクは灯りを掲げながら、ゆっくり奥へ進む。

「普通の行き止まりなら、報告だけして終わりだ」

「でも、わざわざ耳打ちして来たんですよね」

「あぁ。『左も見ておいてくれ』ってな」

通路はそこで終わっていた。

いや……正確には、終わっているように見えた。

巨大な扉がある。

黒ずんだ金属?で出来た、縦に長い両開きの扉だった。

表面には細い線が無数に走っている。文字なのか、装飾なのかすらわからない。

そして、その前に。

巨大な砂時計。

「大きいですねぇ」

ケイトは思わず呟いた。

人の胴ほどもあるガラス部分。

中の砂は白ではなく、わずかに銀色が混じって見える。

だが、その砂は途中で止まっていた。

上にも残っている。

下にも落ちている。

けれど、動いていない。

マイクが眉を寄せる。

「普通、途中で止まるか?」

「止まりませんよねぇ……」

ケイトが紙を取り出すと砂の位置に印をつけた。

「なに測ってるんだ?」

「どのくらい落ちて止まってるかです」

「なんで?」

「あとで変化を見るためです」

「あ――……なるほど」

ケイトは真面目な顔で砂時計を観察した。

その瞬間だった。

『あなたにしか聞こえない』

声。

ケイトの手が止まった。

冷たいものが背筋を撫でる。

『ここから出てみたい』

ケイトは反射的に周囲を見た。

だが、マイクは普通に立っている。

気づいていない。

「……」

『どんな形状がいい?』

頭の中へ直接響く声だった。

不思議と、男か女かもわからない。

感情も薄い。

ただ、『質問している』という事実だけが伝わって来る。

ケイトは口を閉じたまま、小さく息を飲んだ。

「出ないほうがいいと思う」

マイクがきょとんとした顔をする。

「ん?」

「あ、いや」

誤魔化すより早く、声が返って来た。

『出たい』

『あなたが嫌なら、誰か適当なやつに取りつく』

「う――」

思わず変な声が漏れた。

マイクが怪訝そうに見る。

「どうした?」

ケイトは額を押さえた。

嫌な予感しかしない。

だが、『適当なやつ』という表現がもっと嫌だった。

絶対ろくなことにならない。

「いいわ。引き受けるけど、いい子にしてね」

マイクがますます変な顔をした。

「ケイト?」

だが、声は嬉しそうでもなく、淡々と返す。

『どんな形がいい?』

「細長いと隠れやすいから、その形で」

わかった。

返事の直後。

砂時計の砂が少しだけ落ちた。

「落ちた」「落ちた?」

二人同時に声がでた。

「あなた、一体なに?」

しばらく沈黙が続いたあと、声が答えた。

『見届けるようにプログラムされてるの』

「ぷろ……?」

聞き慣れない単語に眉を寄せる。

『プログラム』

「プログラム……」

『命令』

「あぁ……」

完全には理解できないが、『役目』のようなものだとはわかった。

ケイトは扉を見上げた。

「この扉に関係ある?」

『あるけど、今は成り行きにまかせる時』

「それ、絶対ろくでもないやつですよね?」

返事はなかった。

代わりに、しん……と遺跡が静まり返る。

その沈黙が逆に怖い。

「どうした? ケイト?」

マイクが近づいて来た。

ケイトは慌ててノートを閉じる。

「いや、ちょっとこの砂時計のことを」

「あぁ、不思議だな」

マイクは砂時計を見上げる。

「気味悪いな。動いてる感じはない」

「そうですねぇ……」

ケイトは乾いた笑みを浮かべた。

頭の奥が妙にざわざわしている。

なにかを連れて帰ることになった。

そんな確信だけがあった。

「もう、出ましょうか?」

「そうだな」

二人は扉へ背を向けた。

だが、去る直前。

ケイトは一度だけ振り返る。

巨大な砂時計は、静かなままだった。

途中で止まった銀の砂が、まるでこちらを見ているようだった。