作品タイトル不明
29 ギルドの総力で
29 ギルドの総力で
調査隊が出発してから、王都へ流れ込んでくる冒険者は、目に見えて増えていた。
朝からギルド前は騒がしい。
荷馬車が止まり、武器を背負った男たちが降りて来る。
軽装の斥候。
杖を持った魔法士。
荷物持ちまでいる。
酒場の席は埋まり、屋台は昼前から煙を上げていた。
「最近、冒険者が増えたなぁ」
串肉を焼きながら店主がぼやく。
隣でパンを並べていた女が笑った。
「あぁ、串肉がよく売れる」
「ありがたいけどな。なんか町が落ち着かねぇ」
「でも景気はいいよ」
そんな会話が、王都のあちこちで交わされていた。
もちろん、ギルドの中も同じだった。
「どこのパーティだ?」
「南から来たらしいぞ」
「遺跡目当てか?」
「そりゃそうだろ」
「なんで、南の者が知ってるんだ?」
「知っ知ってるって?」
「隠さんでもいい」
冒険者たちは好き勝手に噂している。
だが、肝心の情報は出てこない。
「口止めされてるのに不思議だな」と空々しいセリフが時折聞こえるが、笑い声に混じって消えていく。
どこにある。
なにが見つかった。
本当にダンジョンなのか。
誰も語らない。
だから余計に熱気だけが膨らんでいた。
そんな中でも、ケイトはいつも通りだった。
朝から森で薬草を採取して薬師ギルドで、ポーション作りを学んでいる。
「おう、ケイト」
「こんにちはー」
「また薬草か?」
「はい」
そう言いながら、慣れた様子で依頼票を提出していく。
「お前、ほんと普通だな」
「普通の冒険者ですから」
受付嬢が微妙な顔をした。
「普通の冒険者は、王宮で自分で決裁して来ません」
「まだ言います?」
ケイトが嫌そうな顔をする。
近くで聞いていた冒険者たちが笑った。
「まぁ、ケイトだしな」
「最近、諦めた」
「俺も」
そんな空気に、新顔の冒険者が不思議そうな表情をする。
昼を少し過ぎたころ、ギルドの扉が勢いよく開いた。
冷たい外気と一緒に、土埃をかぶった冒険者たちが入って来る。
「帰ってきたぞ!」
「おう!」
「ご無事で!」
「待ってたぞ!」
ロビーの空気が一気に変わった。
椅子から立ち上がる者。
駆け寄る仲間。
酒を掲げる者までいる。
調査隊の面々は疲れているはずなのに、妙に顔色が良かった。
ギルドマスターもすぐ奥から出て来た。
「ケイトを迎えにやったから、ちょっと休んでいてくれ」
「了解」
「水くれ!」
「飯も!」
「先に報告だろ!」
「腹減った!」
騒がしい。
だが、その騒がしさが嫌ではない。
成功して帰って来た空気だった。
そして、ほどなくして。
薬師ギルドから戻って来たケイトが、ロビーへ入って来た。
背負い鞄には薬草が詰まっている。
だが、勢ぞろいした調査隊を見ると、ふっと笑った。
「無事だったみたいですね」
「おう」
「死ぬかと思ったぞ」
「でも面白かったぜ」
口々に声が飛ぶ。
ケイトはギルドマスターへ視線を向けた。
「マスター」
「なんだ」
「今日はここで話を。秘密にしてもいいことはありませんから」
ロビーが静かになる。
見慣れない冒険者たちまで耳をそばだてていた。
ギルドマスターは、わざと周囲を見回した。
にやりと笑う。
「よし、報告を始めてくれ」
調査隊の男が前へ出た。
「入り口は見つかった。見張りを置いて戻って来た。村のはずれになるな」
ざわり、と空気が揺れる。
「なかは……最初の分岐は予想通りゴブリン。弱いな」
「数は?」
「まぁまぁ。湧きが早いような気がする。調査しないとな」
「おぉ……」
冒険者たちの目が光る。
男は続けた。
「倒すと、魔石とアイテムを残して消えた」
その瞬間。
ロビーが爆発した。
「ウォー!」
「やったな!」
「本物じゃねぇか!」
「来たかいがあった!」
「噂はホントだった」
叫んだあとで、ひとりの見慣れない冒険者が「あっ」と口を押さえた。
しまった、という顔だった。
ギルドマスターが即座に指をさす。
「お前たちは!」
だが、その男は露骨に視線を逸らした。
「いやー? たまたま通りすがりで?」
「聞こえてませんけど?」
「俺、今日来たばっかりなんで」
周囲の冒険者たちが吹き出す。
「下手くそか!」
「酒で仲良くなったんだろ。酒が入ると口がよく動くからな!」
「隠れる気がねぇ!」
ギルドマスターは額を押さえた。
「なんでこう、お前らは……口止めの意味を知ってるか?」
その横で、ケイトはマスターと目を合わせる。
そして小さくうなずいた。
「はい、それではギルドを挙げて調査をします」
「また調査かぁ」
誰かがわざとらしく言う。
するとケイトは平然と続けた。
「はい。遺跡に興味があるという人から連絡がたくさん来ましたので、その人たちに入ってもらいます」
「学者か?」
「たぶん貴族も来るぞ」
「めんどくせぇ」
「なので」
ケイトがぱん、と手を叩く。
妙に事務的な音だった。
「護衛をギルドでやります。協力をお願いします」
「えーー」
「面倒くせぇー」
不満そうな声。
だが、顔は笑っている。
ケイトはにこりと笑った。
「ギルドの総力を挙げて、調査の手伝いと護衛をやってください」
「総力!?」
「大仕事だな!」
「マスターが、パーティーと遺跡調査の人員を組み合わせています」
「もう決まってんのかよ!」
ギルドマスターが腕を組んだまま言った。
「文句あるか?」
「ない!」
「即答か!」
笑いが起きる。
ケイトは続けた。
「まずは、その依頼をこなしてください。そのあと!」
「そのあとは?」冒険者の声が揃った。
「皆さん、独自の調査をしてください」
一瞬の静寂、そして。
「やったー!!」
「いいぞ!」
「護衛かぁ!」
「しゃーねぇな!」
「その代わり先に潜れるんだろ!?」
「当然だ!」
冒険者たちは大喜びで拳を突き上げた。
椅子が鳴る。
酒がこぼれる。
誰かがもう乾杯している。
ギルドマスターはその様子を見ながら、深く息を吐いた。
「始まるな」
その呟きに、ケイトも小さくうなずく。
「はい」
その目だけは、少し真剣だった。
地図も入口も調査という横やりも。
権利も。
打つ手は打てるだけ打っている。
あとは、冒険者次第だ。
けれど――
ロビーで騒ぐ冒険者たちは、誰も怯えていなかった。
むしろ、これから始まる冒険に胸を躍らせていた。