軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 街のお茶会

28 街のお茶会

「明日、集まれ」ドロシーから連絡が来た。

それだけでも十分に心躍るのに、続く言葉がよかった。

「姪が休みで戻って来てる」

姪と言うのはドロシーの姪だ。王城で侍女をしている。

最近、侍女長補佐の一人になったと聞いている。

たぶん、鈴の情報だ。

もちろん、キャサリンのリンから付けた呼び名である。

友人とその姪は、すでに席について待っていた。

「遅くなりまして」

「いいえ、わたくしたちが早かったのですわ」

ドロシーの姪は、王城で働くようになってからもう、三年になる。

ドロシーの夫君の伝手でお城に上がった。

そして、いつのまにかこの集まりの大事な話題提供者になった。

この姪からは、時折とんでもなく面白い話が出て来る。

前回の『騎士と侍女の三角関係事件』も傑作だった。

侍女が騎士団長へ贈った刺繍入りハンカチを、新入りの騎士が大事に持っていた事件だ。

騎士団長が落としたのを新入りの騎士が拾った。ただ、それだけなのだが、侍女がお騒ぎしたせいで、騎士団長と新入りの騎士がお互いを意識するようになったとか。

実はあの婚約破棄の夜会でうわさの二人を観察する手はずだったのに、騒動があってそれどころではなくなった。ほんとに蜂はろくでもない。

まぁ、姪の話は今回も期待していた。

揃ったところで、話が始まった。

「鈴が、部屋の片づけに来たんです」

「あら」

「ちょうど勤務が重なっていたので、お手伝いしました」

「それは運が良かったわねぇ」

「えぇ。かなり」

姪は紅茶へ口をつける。

わざと間を作っている。

話し方を分かっている子だ。

「で、どうだったの?」

急かすと、姪は淡々と並べ始めた。

「部屋の呼び鈴が壊れていました」

一瞬、沈黙。

そして吹き出す者がいた。

「は?」

「王太子の婚約者の部屋でしょう?」

「えぇ」

「最初から壊れていたそうです」

「嘘でしょう」

「しかも本人は慣れたから、平気だって」

今度は全員が笑った。

「慣れって何よ!」

「怖いわ!」

「その環境に適応してるのが、もう鈴なのよねぇ」

姪は肩をすくめる。

「同行していた冒険者の男性も笑っていました。『よくそんなので生活してたな』って」

「そりゃ言うわよ」

「鈴、侍女がいなくても生活できますって」

笑いがふっと消えた。

「侍女がいなくても?」

「はい、調べましたら専属の侍女がいませんでした」

「なんてこと」「ひどいわね」「あきれた」

姪はそこで声の調子を変えた。

「それで、荷物の確認になったんですが」

全員、自然と静かになった。

姪は記憶をなぞるように指を折る。

「ドレス三枚。着替え。ヘアブラシ、櫛、銀の髪飾り、リボン数組、裁縫道具」

「少なくない?」

「インク瓶、羽ペン、定規」

「文官かしら?」

「王宮勤務者名簿。辞書が五冊」

「辞書五冊!?」

「ノートとメモ用紙もありました」

そこで姪は、ふっと息を吐いた。

「以上です」

沈黙が落ちた。

誰も、すぐには口を開かなかった。

「それだけ?」

「はい」

「侯爵令嬢でしょう?」

「元王太子婚約者でもあります」

「宝石は?」

「ありません。髪飾りは銀で、宝石はついていませんでした」

「蜂の贈り物は?」

「おそらく実家でしょうね。義妹さんが……」

誰かが、ぽつりと言った。

「なんだか、思ったよりずっとひどいわね」

「えぇ」

別の女が、扇で口元を隠しながら言う。

「二番、ほんとに彼女に関心がなかったのね」

その言葉に、姪は少しだけ考えるような顔をした。

「違うの?」

「物は少なかったです。でも」

「でも?」

「記録を取った文官は、鈴を尊敬していました」

「へぇ?」

「荷物を収納へ入れていく姿を見て、完全に顔が変わっていました」

姪は小さく笑う。

「あと、鈴が『必要に応じて出来るようになりました』って言った瞬間の顔が面白かったです」

「必要に応じて、ねぇ……」

「絶対ろくでもない苦労してるわよね」

「えぇ」

そして姪は、さらに声を落とした。

「最後に、同行していた冒険者の男性が言ったんです」

皆、身を乗り出す。

「『王太子の婚約者って、ほんと安く使えるんだな』って」

空気が変わった。

笑いが、少しだけ消える。

「鈴は?」

「『ですよね』って笑ってました」

「あの子」

「笑えないわねぇ」

「でも、本人は笑ってそう」

「そこが余計に怖いのよ」

しばらく、誰も何も言わなかった。

やがて、一人が小さく呟く。

「巣箱は、これからどうなるのかしらね」

美しく飾られて、閉じ込められ、絡み合った感情が渦を巻く場所。

姪は窓の外を見ながら答えた。

「たぶん、静かでは済まないと思います」

「鈴がいるものねぇ」

「えぇ」

誰かがくすりと笑った。

「しかも本人、まったく自覚なさそうなのが最悪よ」

その場に、また笑いが戻った。

けれど全員、なんとなく理解していた。

あの質素な荷物のほうが、下手な宝石よりずっと重いのだと。