作品タイトル不明
24 調査開始
24 調査開始
わたしが王城で書類を整えている間に、ギルドマスターはすでに動いていた。
さすが仕事が早い。
遺跡の調査隊を組織してくれたのだ。
いきなり奥へ潜るわけではない。
先ずは安全確認だそうだ。
「空気の確認から始める」
ギルドの会議机に、入口だけ描いた地図を見ながらギルドマスターが低い声で言った。
周囲には、マスターが集めた冒険者たちが集まっている。
みんな、真剣な顔だ。
ジェイだけは少し楽しそうだけど。
「遺跡ってのはな、宝がでる前に死人が出る場所だ」
ギルドマスターは指で地図を叩いた。
「古い空気が溜まってることもある。毒がある場合もある。崩落もある。だから最初は斥候だけだ」
「俺たちだな」
そう言ったのは、灰色の髪をしたベテラン冒険者だった。
斥候として長く活動している。資料によれば、足音を殺した移動と危険察知に長けた手練れだ。
ギルドマスターがうなずく。
「あぁ。お前のパーティに任せる」
「了解」
短い返事だった。
だが、その一言だけで安心感がある。
やっぱりベテランってすごいわね。
わたしは書類から顔を上げた。
「空気確認って、具体的にはどうするんですか?」
「小動物だ」
「なんかの道具とかではなく?」
「そうだ。彼らの様子を見ながら進む」
「地味だけど大事なんですね」
「遺跡にしろダンジョンにしろ地味な確認を怠ったやつから死ぬ」
真顔で言われた。
だが、その通りなのだろう。
ギルドマスターが腕を組む。
「ただの土の穴ならまだいい。自然のものだからな。だが今回は石の壁が見えるから厄介だ」
部屋の空気が少し引き締まった。
「石壁、通路、加工跡。人の手が入ってる時点で、罠の可能性がある」
「ダンジョン化してる可能性もありますよね」となんとなく相槌を打った。
「ダンジョン化して、魔物の巣にでもなってりゃ最悪だ」クーパーさんが苦々しく吐き捨てた。
反対にジェイさんは嬉しそうに、
「それは大歓迎だ」と親指を立てた。
「ケイト、平然としてますね」と誰かが言った。
「今さらですし」
わたしは肩をすくめた。
だって、もう遺跡の権利だの管理だの、面倒ごとは済ませた。
なにが出て来ても平気だ。
ここまで来たら洞窟が危険とか言われても、そうでしょうねとしか思わない。
ギルドマスターが地図を丸める。
「安全が確認されるまでは、大人数は入れん」
「調査隊は最小人数ですね」
「あぁ。彼のパーティと連絡役だ」
連絡役? 場合によっては彼だけ戻るって意味かな?
「調査結果次第で次の調査計画を立てる」
とマスターが言ったので、
「安全確認が済んだら、わたしも調査に加わります」
その瞬間、部屋の視線が全部こちらへ向いた。
マイクが、すぐ横でため息を吐く。
「行くだろうとは思ってた」
「当然です」
「当然なのか?」
「当然ですよ。書類の上だけで管理できるほど、現場は甘くないでしょう?」
わたしの言葉に、ギルドマスターがニヤリと笑った。
「ほら見ろ。こういうやつなんだ」
「知ってますよ」
マイクが呆れた顔をした。
わたしは続ける。
「マイクさんも一緒です」
「勝手に決めるな」
「護衛でしょう?」
「そうだな」
否定しなかった。
周囲から笑い声が漏れる。
ジェイがにやにやしながら言う。
「完全に固定パーティじゃねぇか」
「便利なんですよ。マイクさん強いし」
「褒めても何も出ないぞ」
「魔獣ぐらいなら出ますよね」
「出したくないなぁ」
そんな軽口を叩きながらも、部屋の空気は真剣だった。
遺跡。
その言葉の重みを、みんな理解している。
ギルドマスターが最後に口を開いた。
「安全確認後、本格調査。その時点で今後の方針を決める」
「遺跡か」
「鉱山か」
「ダンジョンか」
「あるいは全部かもしれん」
静かな声だった。
わたしは小さく息を吐いた。
正直、面倒だ。
ものすごく面倒。
「まぁ、やるしかないですね」
そう言うと、ギルドマスターが笑った。
「諦めがいいな」
「婚約破棄で、そのあたりの胆力は鍛えられましたから」
わたしが真顔で言い切ると、部屋のあちこちで盛大な吹き出し音が響いた。