作品タイトル不明
19 遺跡 をどうする?
19 遺跡 をどうする?
ギルドマスターのバートンは、机の上に広げられた地図を睨みながら腕を組んでいた。
ハーベスト村で発見された遺跡?
古い時代のものらしい石壁や通路が確認されている。
冒険者たちは目を輝かせていた。
遺跡。
その言葉だけで、宝だの秘宝だの古代魔道具だの夢を見る連中は多い。
だが、同時に死ぬ連中も多い。
「全員、残りたがっていましたよ」
ケイトがさらりと言った。
「当然だろうな」
バートンは短く返す。
「遺跡は金になる。だが、それ以上に面倒も呼ぶ」
向かいに座るケイトは、資料を机に並べながらうなずいた。
「だから残留は禁止しました」
「不満は出ただろう」
「出ました。かなり」
ケイトはあっさり言った。
「ですが、調査するときは必ず同行させると約束して。全員連れて帰ってきました」
「それが正解だ」
バートンは深く息を吐いた。
「勝手に潜られて死人が出る方が困る」
ケイトは図書館から持ち帰った本を開いた。
王国法。
土地管理法。
遺跡保護規定。
ダンジョン管理法
鉱山所有者規定
古い判例集。
机の上は完全に役人の仕事机みたいになっている。
「問題は権利です」
ケイトが本をめくりながら言った。
「村の土地として登録する場合、村に利益は入ります。でも、それを狙ってくる人間も出ます」
「貴族か」
「商人もですね」
ケイトはさらりと言った。
「遺跡があると知られれば、安値で土地を買おうとする人も出ますし、後から権利を主張する人も出ます。村人を騙す人もいるでしょうね。それに遺跡がどうかもわかりません。ダンジョンも入口が遺跡みたいらしいので」
クーパーが顔をしかめた。
「全部、ありそうで嫌だな」
「そうなんですよ。面倒ですよ」
ケイトは即答した。
「わたしが申請してわたしが認可しますからいいですけど。調査は先にやった方が良かったような気がします。だけど時間があるので、なにが出て来ても対処できるように準備できます」
その言葉に、部屋が少し静かになった。
ケイトは慣れた手つきで紙を整理していく。
「誰の土地か。管理権はどうなるか。遺跡発見時の扱いはどうか」
「村だけでは抱えきれんな」
「はい。だからギルドも噛んでください」
ケイトは真っ直ぐバートンを見た。
「冒険者ギルドが調査管理に入った方が安全です」
バートンは少し笑った。
「ずいぶんこちらを信用するな」
「ギルドは利益の分配に慣れてますから」
ケイトは肩をすくめた。
「少なくとも、貴族より現実的です」
クーパーが吹き出した。
「違いねぇ」
その時、扉がノックされた。
「村長をお連れしました!」
ジェイの声だ。
「入れ」
扉が開き、日に焼けた老人が恐る恐る部屋へ入って来た。
ハーベスト村の村長だった。
慣れないギルドの空気に緊張しているのが丸わかりだ。
「ど、どうも……」
「座ってください。遠いところをお疲れ様です」
ケイトがすぐに椅子を引いた。
「お茶も出ますから」
「お、おぉ……」
村長は戸惑いながら腰を下ろした。
その間にも、ケイトは紙を並べていく。
「今日は、先ず遺跡について話します」
「まず遺跡……」
村長の顔が強張った。
「やっぱり、あれは問題になるのか」
「なります」
ケイトは即答した。
「放置すると、もっと面倒になります」
だが続けて、少し柔らかく言った。
「でも、ちゃんと順番にやれば、村を守れます。あれが遺跡であってもダンジョンであっても、鉱山であっても。守ります。一番面倒なのが遺跡ですけど、ちゃんとやりますから」
村長は黙ってケイトを見た。
村の災害によりそってくれて笑顔ではげましてくれた。
お芋さんを美味しいと喜んだ。
子どもたちはドレスをみてお姫様が来たと喜んだ。
だが、いま、雰囲気が全然違う。
書類の扱いも、言葉の選び方も、まるで役人か、貴族みたいだった。
そうだった。王太子の婚約者だったのだ。
「まず、村の土地確認をします」
ケイトが紙を広げる。
「次に遺跡の発見届。これはギルド経由で出した方が安全です」
「安全?」
「王城へ直接行くと、話が大きくなりすぎます」
バートンが横から補足した。
「まずはギルド預かりにする。調査も段階的だ」
村長はゆっくりとうなずいた。
「わかった」
そして、おそるおそるケイトを見た。
「嬢ちゃんは、詳しいんだな」
ケイトは少しだけ笑った。
「前の仕事で覚えました」
その返答に、バートンとクーパーが顔を見合わせる。
前の仕事。
王宮で地獄みたいな量の執務を処理していたことを知っている二人には、妙に重い言葉だった。
その頃、王城の執務室では、焦げ跡のついたノートを囲んで文官たちが唸っていた。
ローズライン家から回収されたノートは、焼却炉に放り込まれた直後だったらしい。
だが庭師が気づき、慌てて掻き出した。
端が少し焦げただけで済んだそれは、今や王城の宝みたいな扱いになっている。
「この整理方法、神だろ……」
「視察報告の優先順位まで書いてあるぞ」
「待て、王妃殿下の執務補助の流れまである」
「これを焼くところだったのか……?」
文官たちが青い顔をしている。
そこへ、ひょこっとケイトが顔を出した。
「あら、頑張ってますね」
その瞬間、数人が立ち上がった。
「ケイトさん!」
「この書類なんですが!」
「予算申請の分類をなんですが」
「落ち着いてください」
ケイトは笑いながら手を振った。
「今日は別件で来ただけです」
それから、机の上の書類を見て首をかしげた。
「王太子殿下の署名、まだなんですか?」
「それが……」
文官たちの顔が死ぬ。
ケイトは少し考え、それからにっこり笑った。
「なら、王妃殿下にお願いしたらいいじゃないですか」
「はい?」
「王妃殿下のところの書類も混ざってますよね?」
ぎくり、と何人かが固まる。
ケイトは平然と続けた。
「返しに行くついでに、相談すればいいんです」
「えぇ……」
「一人で行くの怖いなら、三人くらいで行けば?」
その結果。
文官三人組が、分厚い書類束を抱えて、とぼとぼ王妃の部屋へ向かうことになった。
「ほら、ちゃんと返してきてくださいね」
明るく手を振るケイトに見送られながら。
そして今。
ケイトは、再びギルドへ戻って来ていた。
収納から次々に書物や資料を出していく。
「そんなに調べたのか?」
「えぇ騙し取る方法を探しましたから」
「なるほど、それを潰しておくのだな」
「はい」
「村長は熱をだして寝込んでいる」
「まぁ」
「情報が多すぎたようだ。明日一日、休むように医者がいっておる」
「わかりました。ゆっくり進めましょう。でも面白いですね。権利関係」
「普通の娘はそんな感想にならん」
「そうですか?」
「マスター。報酬はずんでくださいね」
マイクが吹き出した。