軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 ハーベスト村

18 ハーベスト村

ケイトは冒険者たちと一緒に、ハーベスト村へ向かっていた。

最初は数人だけの予定だったのだ。

だが、ギルドで事情を話した途端、ざわりと空気が動いた。

「お、あの水害と山崩れの村か」と、近くにいた男が顔を上げた。

「俺も行く」と別の冒険者が手を挙げる。

「なにか手伝いたい」と声が続いた。

結局、

「断るのも面倒だ。もう団体で行け」

というギルドマスターの一言で、大所帯になったのである。

馬車の荷台に揺られながら、ケイトは前方の山並みを見上げた。

ハーベスト村は王都からそれほど遠くない。

だが、山に囲まれていて日当たりが悪い。

痩せた土地で、作物も多くは育たない。

それでも、あの村には独特の空気があった。

「久しぶりですねぇ」

ケイトがぽつりと言うと、隣のマイクがうなずいた。

「何回も通ったんだろ?」

「ええ。最初は、村ごと移住を提案したんですよ」

「ほう」

「そしたら、ものすごく怒られました」

後ろで聞いていたジェイが吹き出した。

「怒られたのかよ」

「はい。おじいさんに怒られましたし、小さい子にも泣かれました」

ケイトは苦笑する。

「あの村は大事な村なんだって、みんな言うんです。だから、わたしも途中から腹をくくりました」

「それで復旧予算を引っ張ったのか」

「引っ張りましたねぇ」

「さらっと言うことじゃねぇな」

冒険者たちが笑った。

ケイトも肩をすくめる。

「でも、お芋さんが美味しいんですよ」

「お芋さん?」

「村でそう呼んでる芋です。甘くてほくほくで、スープにすると最高なんです」

「へぇ」

「お菓子にもなるんですよ。だけど収穫量が少なくて、村の人が食べる分しかないんです」

ケイトは少し嬉しそうに続けた。

「皮ごと食べるんですよ。皮も美味しいんです」

「皮ごと?」

「そうです」

そこでケイトは、ふっと笑みを消した。

「だから、王太子の嘘はすぐわかりました」

馬車の空気が少し静かになる。

マイクが横目でケイトを見た。

「あぁ、あの皮むきか」

「はい。あの村でお芋さんの皮を剥く人なんていません」

後ろからどっと笑いが起きた。

「嘘ついたのか!」

「そりゃそうだろ!」

「貴族様、完全に墓穴じゃねぇか!」

ケイトは小さくため息を吐いた。

「たぶん、適当に話を合わせたんでしょうね」

「雑だなぁ」

「雑ですねぇ」

そんな話をしているうちに、村が見えてきた。

山の影に隠れるような、小さな村だ。

だが、畑には緑が増え、人の声も聞こえる。

村人たちは馬車を見ると、目を丸くした。

「あっ!」

「キャサリンちゃん!」

「キャサリン様だ!」

「今日はお姫様じゃない」

子供たちが一斉に駆け出してくる。

ケイトは馬車を降りると、ぺこりと頭を下げた。

「ご無沙汰しております」

すると村長が慌てて近づいて来た。

「お、お嬢ちゃん! 本当に来てくれたのか!」

「はい。それと」

ケイトは少しだけ困ったように笑った。

「もう婚約者ではありませんので、ただの冒険者です」

村人たちがざわつく。

老人が「なんだって?」と目を細めた。

中年の男が「噂は聞いたが本当だったのか」と呟く。

隣の男が「馬鹿なことしやがるなぁ」と頭をかいた。

ケイトは苦笑した。

「まぁ、そんな感じです」

するとおばあさんが近づいてきて、ぽんぽんとケイトの腕を叩いた。

「なら、なおさら今日は食べていきな!」

「ありがとうございます」

「今日はお芋さんごろごろスープだよ!」

その瞬間、後ろからジェイが勢いよく前に出た。

「俺、手伝います!」

「あら、いい男だねぇ!」とおばあさんが目を細める。

「薪割りもやります!」

「まぁまぁ!」

あっという間だった。

十分後には、

「今夜はジェイと一緒にスープを作る」

という話がまとまっていた。

マイクがぼそっと呟く。

「相変わらず早ぇな」

「女たらしですから」

「聞こえてるぞ、ケイト!」

笑い声が広がる。

ケイトもつられて笑った。

その後、ケイトは井戸のそばへ向かった。

「わたし、野菜洗いますね」

そう言った瞬間、村のおばさんたちが一斉に心配しながら疑う顔になった。

「お嬢ちゃんが?」

「できるのかい?」

「包丁持たせると危なかったろ」

「野菜を井戸に放り込んだろ」

「あれはうっかりです!」

ケイトが抗議すると、周囲がどっと笑う。

「まぁ見ててください」

ケイトは袖をまくった。

そして、水魔法を発動する。

透明な水がふわりと浮かび上がり、野菜を包み込んだ。

泥がするすると落ちていく。

人参も玉ねぎも、持参したキャベツも、あっという間にぴかぴかだ。

村人たちが目を丸くした。

「おぉ……!」

「すげぇ!」

「綺麗だ!」

ケイトはちょっと得意そうだった。

「どうです?」

「立派になったねぇ」

「魔法使いみたいだ!」

「魔法使いですよ!」

また笑いが起きる。

夕暮れの中、鍋からはいい匂いが漂っていた。

大きく切ったお芋さんが、ごろごろ入っている。

ジェイが味見をして叫んだ。

「うまっ!」

おばあさんが鍋を覗きながら「まだ煮えてないよ!」と笑う。

「もう、うまい!」

ケイトも一口もらった。

ほくほくで甘い。

「あぁ、これです」

思わず顔が緩む。

マイクがその顔を見て、小さく笑った。

「本当に好きなんだな」

「好きです」

きっぱり答える。

その夜は、遅くまで賑やかだった。

そして翌朝。

空気が変わったのは、朝食のあとだった。

村長が、どこか言いにくそうに口を開いたのだ。

「実はな、ケイトさん」

「はい?」

「山崩れのあとでな」

村長は声をひそめた。

「遺跡みたいなもんが見つかったんだ」

周囲の村人たちも、不安そうな顔をしている。

ケイトの表情が変わった。

「遺跡?」

「洞窟みたいな穴が開いてな……石作りの通路が見えて、それが奥に続いているんだ」

「誰か入ったんですか?」

「いや、怖くてなぁ……」

ジェイがにやりと笑った。

「なるほど。冒険者の出番ってわけか」

マイクは腕を組み、静かに山の方を見た。

ケイトはゆっくりとうなずく。

「詳しく聞かせてください」

村の空気が、張りつめた。