作品タイトル不明
第45話 アメリカの至宝と14歳のクラフト姫、あるいは隠しきれないオタク心
霞が関での「人命の値段」を決める会議を終えた俺は、その足で赤坂にあるアメリカ大使館へと向かっていた。
日本政府との話し合いが一段落したと思ったら、今度は同盟国からの呼び出しだ。
まったく、世界最強の探索者というのも楽じゃない。
大使館の厳重なセキュリティゲートを顔パスで通過し、通されたのはVIP用の応接室。
そこには、CIAの極東支部長だと名乗る、鋭い目つきの男――スミス氏が待っていた。
「やあ、ミスター・ヤシロ。
日本政府への『3000万円の足切りライン』の提言、聞かせてもらったよ。
実に合理的で、素晴らしい提案だ」
スミス氏は完璧な日本語で、大げさに両手を広げてみせた。
「お褒めに預かり光栄です。
で? 今日のお招きは、まさか日本の労働環境について語り合うためじゃないでしょう?」
俺が単刀直入に切り出すと、彼はニヤリと笑い、一枚のタブレット端末をテーブルに滑らせた。
「察しが良くて助かる。
実は 本国(アメリカ) で奇妙な現象が起きていてね。
君に 鑑定(アプレイザル) を頼みたい『ある人物』がいるんだ」
「ある人物?」
「ああ。
最近、北米サーバーのオークションハウスに、異常に高品質な装備が大量に出品され始めたんだ。
それも一点物じゃない。
『一定の性能が保証された』量産品だ」
スミス氏がタブレットを操作し、いくつかの装備データを表示する。
『頑強な鉄の鎧(Tier 3)』
・防御力:250
・最大HP+80(固定)
・全属性耐性+15%(固定)
・筋力+20
『命知らずのブーツ(Tier 3)』
・移動速度+20%
・最大HP+70(固定)
・火炎耐性+30%(固定)
「……なるほど」
俺は一目で、その異様さに気づいた。
ハクスラにおいて、装備のオプション(MOD)はランダムだ。
「HPがついた!」と喜んでも、他の枠に「マナ回復」や「命中率」といった不要なゴミがついて台無しになることは日常茶飯事。
だが、このリストにある装備は、全てにおいて「最大HP」と「属性耐性」という、生存に最も必要な2つのMODが綺麗についている。
「我々も調査を行い、出品者を特定した。
カリフォルニア州に住む一般市民の少女だ。
すぐにエージェントを派遣してスカウトを試みたんだが……断られてしまってね」
「断られた?」
「ああ。
彼女は『私は自由に作りたいの! 軍隊なんて嫌!』と門前払いだ。
無理に連行して機嫌を損ねるわけにもいかない。
そこで、まずは彼女の『能力』の底が知りたい。
君なら、この写真だけで彼女のスキルの詳細が見抜けるだろう?」
そう言ってスミス氏は、一人の少女の写真を画面に映し出した。
その瞬間。
俺の心臓が早鐘を打った。
(……えっ?)
そこに映っていたのは、金髪のツインテールを揺らし、油汚れのついた作業用オーバーオールに身を包んだ、あどけない少女だった。
頭には不釣り合いに大きなゴーグル付きの帽子を被り、カメラに向かって「ふんす!」と鼻息を荒くしているような、勝ち気なポーズを決めている。
(エ、エミリーたん……!?)
俺は思わず心の中で絶叫していた。
間違いない。
『ダンジョン・フロンティア』のアメリカサーバーにおいて、「この子を守るためなら死ねる」と全米のプレイヤーを熱狂させた、伝説のNPCアイドル。
エミリー・ミラーだ。
(14歳じゃねーか!!!!
うわ、マジかよ……実在したのか。
ダンフロキャラのアメリカ陣営人気投票で3年連続、不動のナンバーワン。
「クラフトの妖精」にして「確定ガチャの女神」。
あざとい! ポーズがいちいち計算高くてあざといけど、それが可愛い!)
俺の脳内で、かつてのゲーマーとしての記憶が奔流となって溢れ出す。
掲示板の「エミリーちゃん親衛隊」のスレッド。
彼女がイベントで見せる「てへぺろ」モーションのGIF動画。
そして何より、彼女が提供してくれる「神クラフト」の恩恵。
(待て待て、落ち着け俺。
顔に出すな。ニヤけるな。
今は「日本最強の探索者、八代匠」だ。
……それにしても、生で見れるのか?
この写真、盗撮じゃないよな?
あ、エージェントが撮ったのか。GJだ、CIA)
俺は必死にポーカーフェイスを維持しながら、画面の中の彼女を凝視した。
いや、単なるファン心理だけではない。
彼女の存在は、戦略的にも「核兵器」級の意味を持つ。
俺は【鑑定】を発動し、写真越しに彼女の「深淵」を覗き込んだ。
【氏名】:エミリー・ミラー
【年齢】:14歳
【職業】: 鍛冶師(ブラックスミス)
【ユニークスキル】:S級『幸福な 設計図(ハッピー・ブループリント) 』
(やっぱりだ……!
『幸福な設計図』持ち!)
このスキルの恐ろしさを、一般人は理解できないだろう。
能力の概要はシンプルだ。
『クラフト(装備作成)を行う際、任意の2つのMODを「確定出現」させることができる』。
たったこれだけ。
だが、これが「ゲームチェンジャー」なのだ。
通常、装備作成は完全な運ゲーだ。
良いMODがつく確率は数%。
さらに、それが複数重なる確率は0.0何%という泥沼になる。
俺の【万象の創造】ですら、確率を操作しているわけではなく、無限にリロール(作り直し)を繰り返して「当たり」を引いているに過ぎない。
だが、彼女は違う。
彼女は「運命」を固定する。
「ライフ」と「耐性」をつけると宣言すれば、次のクラフトで100%それが出現する。
残りの枠はランダムだが、ベースとなる最重要項目が確定している時点で、その装備は「勝ち確」なのだ。
70点~80点の「実用的な良装備」を、コストをかけずに100発100中で量産できる。
(しかも、これだけじゃない……。
確か、原作の仕様なら、大量の魔石を追加投入することで、最大4つまでMODを固定できたはずだ)
4つ固定。
これは俺のチートスキルでも、一発では不可能だ。
俺が数千回の試行錯誤と、莫大なマナを消費して、ようやく作るレベルの物を、彼女は「素材さえあれば」涼しい顔で作ってしまう。
(俺の100分の1……いや、単体性能で見れば劣るかもしれないが、
「コストパフォーマンス」と「量産性」においては、俺を凌駕している。
彼女一人いれば、アメリカ軍の全兵士に「中級以上の理論値装備」を行き渡らせることができる。
まさに歩く軍事工場だ)
いやー、眼福眼福。
この子が動いているところを見られるなんて。
あの「失敗しちゃった、てへっ☆」みたいな、あざといモーションもリアルでやるんだろうか。
……いや、俺はファンじゃないぞ? 断じて違う。
でもダンフロを愛する一人のプレイヤーとしてはですね、彼女の存在は「希望」そのものなんですよ。
「……ミスター・ヤシロ?
顔色が優れないようだが、何かマズいものでも見えたのかね?」
スミス氏の声で、俺はハッと我に返った。
いかん、思考の海にダイブしすぎていた。
危うく口元が緩むところだった。
「……いえ。
あまりにも『強力』すぎて、言葉を失っていただけですよ」
俺は深刻そうな顔を作り、タブレットをテーブルに戻した。
「鑑定結果をお伝えします。
彼女のスキルは、S級ユニークスキル『幸福な 設計図(ハッピー・ブループリント) 』。
効果は、装備作成時に任意の能力を『確定』させること。
……ハッキリ言いますが、彼女は国家予算を使ってでも囲い込むべき人材です」
「なっ……!?」
スミス氏が目を見開く。
「俺のユニークスキルの下位互換に見えるかもしれませんが、安定性が違います。
彼女がいれば、軍隊の装備水準を一世代……いや、二世代先に進めることができる。
ぶっちゃけ現状の世界情勢なら、チートも良いところですよ。
彼女を野放しにしているのは、核ミサイルの発射ボタンを公園に置き忘れているようなものです」
「そ、そこまでか……!
よし、やった! 我々は、とんでもない金脈を掘り当てたぞ!」
スミス氏が興奮してガッツポーズをする。
アメリカ人らしい、分かりやすい反応だ。
「ですが、彼女はスカウトを拒否しているんでしょう?
無理強いはいけませんよ。
職人というのは気難しい生き物です。
機嫌を損ねて『もう作らない!』とへそを曲げられたら、損失は計り知れない」
俺は釘を刺す。
エミリーたんを泣かせるような真似は、俺が許さん。
「そ、そうだな。
だが、どうすれば……。
彼女は『お金には興味ない』『私の工房を邪魔しないで』の一点張りで……」
困り果てるスミス氏。
チャンスだ。
ここで俺が介入する大義名分が立った。
「……俺に任せてくれませんか?」
俺は提案した。
「彼女は職人だ。
職人を動かすのは、権力でも金でもない。
『知的好奇心』と『尊敬できる同業者』です」
俺はニヤリと笑った。
「俺なら、彼女と『共通言語』で話ができます。
俺のクラフト知識の一部を伝授し、彼女の技術をさらに引き上げることもできるでしょう。
アメリカ陣営の強化にも繋がりますし、悪い話ではないはずだ」
もっともらしい理屈を並べ立てる。
だが、俺の本心は別のところにあった。
(よし! これでエミリーたんと話せる!
テレビ会議でもいい!
あわよくば「師匠!」とか呼ばれたい!
クラフトの知識? いくらでも教えてやるよ!
MODの組み合わせ理論から、効率的な素材投入のタイミングまで、全部伝授してやる!
なんなら俺の秘蔵のレア素材もプレゼントしちゃう!)
完全に公私混同である。
だが、バレなければ問題ない。
これは日米同盟強化のための、崇高なミッションなのだ。
「おお……!
ミスター・ヤシロが直接説得してくれるのか!
それは助かる!
君ほどの伝説的な探索者に声をかけてもらえれば、彼女も悪い気はしないはずだ!」
スミス氏は俺の手を握りしめ、感謝の言葉を並べ立てた。
「すぐに手配しよう。
彼女のアトリエと回線を繋ぐ。
頼んだぞ、ミスター・ヤシロ!」
「ええ、任せてください。
(最高か? 今日は記念日だろ。録画の準備しなきゃ)」
俺は冷静な表情で頷きつつ、内心では小躍りしていた。
14歳の天才美少女職人との対面。
しかも、俺の知識を欲している(はずの)状態での接触。
こうして俺は、アメリカ政府公認という最強のカードを使って、個人的な「推し活」兼「戦力増強計画」を実行に移すことになったのである。