作品タイトル不明
149話 役割
もう少しわかりやすくメッセージを送ってくれというのも、無理な話なのだろう。
たぶん言い方的に何回もメッセージを送っていたが、俺らが見つけた文字列は僅か。大部分は何かしらの理由で消失してしまっている。
それに見つけられたとしても、解読できる者がいない。
「こちらからのメッセージが全て無駄だったと気づいたのは、錬魔機人を送り込み情報を得た時です。言語が違うのはともかく、あんなにも多くの国が存在し、我々とは異なる文化形態を築いているとは思いませんでした。
そして、まさか魔力が ファンタジー(架空の存在) として扱われているとは思いませんでした」
「大昔は魔女や悪魔といったファンタジーのようなことも信じられていたみたいなんですけどね」
「存じております。そちらの世界のことは錬魔機人に調べさせましたから。本来でしたらそちらに送り込んだ錬魔機人に地球の王と接触して、魔力溜まりをどうにかしてもらうつもりだったのですが……誰1人として魔力の存在を信じておらず、190以上の国があるとなれば、できません。別の方法を考えるしかありませんでした」
その別の方法がダンジョンだった、ということか。
いったいどう話し合われて最終的に地球にダンジョンを置くことになったのかわからないけど、錬魔機人を大量に送り込む、とかではなんとかならなかったんだろうか。
いや、そんなことされたら侵略されているのと同じか。というか、たぶん地球を侵略することは普通にできた筈なんだよな。全人類の脳内に声を流すというとんでもないことやってのけたわけだし。ステータスも与えられている。その上でダンジョンの中では機械は使えないという制限までつけられている。
もし魔法という未知の力で攻められたら、地球はあっさり負ける。
「……なんでダンジョンだったんですか?」
「1番都合が良かったからです。ダンジョンには主に3つの役割があります。地上に露出した建物の部分で地球の魔力を吸収する。地球人に魔力の使い方を覚えさせる。そして、もし次元同士が衝突した時にクッションにする、の3つです」
ノクシルは指を立てながら説明していった。
地上に露出した建物の部分、つまり最初の部屋は常時地球の魔力を吸収している。集めた分は全てダンジョンコアに集まっており、部屋の拡張やモンスター・アイテムの配置に使われている。
あとはダンジョンに訪れた人類からも微量の魔力を吸収しており、こちらはステータスと同等の身体能力を与えるために使っているそうだ。
ダンジョンを運営する力はどこからと思っていたけど、まさか地球の魔力だったとは。
地球人に魔力の使い方を覚えさせる、というのは文字通りそのままの意味だった。スキルを与えて、使い方を覚えさせる。繰り返し使えばいずれダンジョンの外でもスキルではなく魔法として使えるようになる。
ただ、それには己の魔力に気づくことが必須だという。
すでに魔法スキルを自在に操っている奈那さんにこのことを教えたら1日でマスターしそうだな。
そして次元同士が衝突した時にクッションにするというのは、保険みたいなものだそうだ。
そもそもダンジョンは地球がある次元とこの世界がある次元の狭間に作った仮設空間にあるらしい。ダンジョンの階層や数が増えるほど仮設空間は大きく拡張される。
もし魔力溜まりが解消されず、次元を引き寄せ続けたら、先に衝突するのはダンジョンの方になる。ダンジョンがある空間は人工的に作られたものなので、多少のコントロールができ、時間を稼げるそうだ。稼げた時間で地球側の魔力を強制的にどうにかすれば、ノクシル達のいる世界は消滅しない。
また、ダンジョンは地球の創作物には頻繁に出てきており、これなら馴染みやすいだろうと考えたのも理由の一つだったようだ。
「……地球を支配した方が手っ取り早く済んだのでは?」
「もちろんそのような意見もありました。しかし、実際には現実的ではないでしょう。我々の世界は人口が1億人すら届いていない小さな惑星です。数では敵いませんし、地球には我々の知らない未知の兵器がありますからね。そして1番は偉大なる2人の王の意向です。出来るだけ文明には影響を与えないように、と。我らが王はとても心優しいお方ですからね」
おそらく地の国の王と天の国の王のことを言ってるんだろうけど、王が2人いて派閥争いみたいなの起きないんだろうか。
日本じゃ絶対割れに割れるぞ。
「さて、どうしてダンジョンだったのか。その理由は理解できたでしょうか」
「要はこちらに配慮した結果ダンジョンの配置に至ったって感じですかね」
「えぇ、まぁ一言でまとめるとそうなりますね」
「ふと気になったのですが、地球全体が魔力溜まりになったとしても、そちら側にも魔力溜まりがなかったら次元は引きつけ合わないのでは?」
「おっしゃる通りです。我々の世界にも魔力溜まりがあるんですよ。それも、簡単には消せない大きな魔力溜まりです。
次元の衝突後、人々は衝突によりえぐれた土地と浮島に住み始めたと説明しましたが、それはそこ以外の土地には生物が住めなくなったからです。
おそらく衝突の衝撃により魔素の構造が変わり、似て非なるものになってしまったのでしょう。これを取り込むと表面上は魔力として使えても残滓が体内に残り続け、やがて 魔塞病(ませきびょう) となり、死に至ります」
「世界の魔力の構造が変わったのなら、2つの国はどうして平気なんですか?」
「衝撃の発生源だからです。ここにあった魔力は一度全て吹き飛び、無くなっています。何もなくなった空間に偉大なる2人の王の魔力が注ぎ込まれ、生物が問題なく暮らせるようになりました。今は歪んだ魔力と混ざり合わないよう国全体に結界が張られています。そして、錬成魔術によって作られた浄化装置で少しずつ歪んだ魔力を消費して生存圏を広げている状況です」
また偉大なる2人の王か。
なんでもできるんだな。
人類全員に声を届けたのもこの偉大なる2人の王なのか?
「次元の衝突があってからどれくらいの年数が経っているんですか?」
「637年です。その間、浄化できた土地は地の国の周囲20kmほどになります」
「637年で20km……ずいぶんと少ないような気がします。国同士で争いが起きて進まなかった、とかではないですよね?」
「もちろんです。偉大なる2人の王は常に正しい存在です。喧嘩することもありませんし、ましてや他国を侵略しようとなど思いません。ただ単に浄化措置の資源が足りなかったのです。なにしろ結界の外には行けませんから」
偉大なる2人の王が国を作って今も統治を続けているように思える言い方だ。
どんな存在なのかめっちゃ気になるなぁ……とても崇拝してる感じだし、あまり深く突っ込むと不快に思われるよな?
たぶん今の俺の“国同士で争いが起きて”って発言も結構ギリギリだったと思う。若干ノクシルの眉がピクっとなってたし。
まぁでも、向こうの事情は大体掴めた。